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タックス・リターンってどうやるの? 公認会計士が徹底ガイド──2022年版

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 オーストラリアの会計年度は7月1日から翌年の6月30日までとなり、7月を迎え、会計年度が変わるとタックス・リターンの申告がスタートします。本特集では、2022/22(2022年度)のタックス・リターンの内容に加え、オーストラリア国税局(ATO)の動向などについて解説します。

取材協力・文=Ezy Tax Solutions Japan/賀谷祥平さん(登録税理士・公認会計士)



■目次

1. タックス・リターンとは

 1-1. 主なタックス・リターンの申告義務があるケース

2. タックス・リターンの仕組み

 2-1. 返金を多くするには

 2-2. 税金の計算

 2-3. 大きく変化したワーホリの税金

3. 収入と経費

 3-1. 収入

 3-2. ATOは知っている

 3-3. 経費

 3-4. コロナ禍の経費

 3-5. スーパーアニュエーションによる節税

 3-6. ABNによる収入と自営業収入

4.タックス・リターンの準備

 4-1.タックス・リターンのために準備が必要なもの

 4-2.タックス・リターンの申告と支払い期限

5. ATOの傾向

タックス・リターンとは

 タックス・リターンとは、日本でいう確定申告のこと。収入に掛かる税金のための手続きです。この場合の「リターン」は「戻る」という意味ではなく、「申告」という意味を指します。タックス・リターンは法律で義務付けられており、一部のワーキング・ホリデー(以下、ワーホリ)ビザ保持者を除き、オーストラリアに住んでいる人にとって社会的義務となります。返金があってもなくても申告しなくてはなりません。日本では雇用されている場合、年末調整などにより雇用主が面倒を見てくれ、自身で税務申告をする必要はありませんが、オーストラリアでは全ての納税者が自分自身で税務申告をする必要があります。

 オーストラリアの会計年度は、7月1日から翌年の6月30日までです。毎年7月から申告期限までにATOに申告します。2021年7月から22年6月までの収入分が22年のタックス・リターンの対象となり、同じ会計年度内の全ての収入をまとめて1回のタックス・リターンで申告します。収入ごとに申告するわけではありません。例えば、6月30日と7月1日に別々の給料が受け取れば、それぞれ異なる年度で申告することになります。

 申告期限とは、その日を過ぎるとタックス・リターンを申告できなくなるというわけではなく、申告遅延、未申告による罰金、起訴の対象となります。義務のため、できる、できないの問題ではなく、申告は不可欠でその義務は一生消えません。専業主婦や仕事をしていない留学生など、申告義務がない場合においても、申告不要申請が必要となります。未申告の場合、ファミリー・タックス・ベネフィットやチャイルドケア・ベネフィットが止まったり、受給資格がなくなるといった弊害があります。手続きが難しそう、分からない、といって何もしないで放っておくのが最も危険なケースとなります。

主なタックス・リターンの申告義務があるケース

●収入額に関わらずオーストラリアでの収入から1ドルでも税金が引かれている

●年間の課税所得が18,200ドルを超えている。

●Australian Business Number(ABN)を保持している(収入がない場合も)。

●ABNで1ドルでも収入がある。

●その会計年度内にオーストラリアに居住し始めた。

●予定納税(Income Tax Instalment)があった(未払いでも同様)。

●18歳未満で416ドル以上の投資などの不労収入があった。例えば、親が子ども名義の銀行口座を持っている場合。

●株やマネージド・ファンドのような投資ファンドからの収入があった。

 自身で申告した人の中に、よく勘違いされている人がいますが、ATOに処理されたからといって正しいという保障はありません。オーストラリアのタックス・リターンは、まずは申告時にはとりあえず処理され、後日、収入の過少申告や経費の計上を精査するというシステムです。

タックス・リターンの仕組み

 上記の通り、タックス・リターンの「リターン」は「戻る」という意味ではなく、「申告」という意味です。タックス・リターンでお金が戻ってくるのを期待したのは良いが、少額だったり、むしろ支払う羽目になってがっかりした人もいるのではないでしょうか。タックス・リターンで返金があるのは、過払い分の税金が戻ってくる場合です。収入から引かれた税金と課税所得(Taxable Income)に対する税金が調整されることをタックス・リターンと言います。給料などの収入から税金が引かれ、税金が天引きされた後が「手取り」です。

1. 収入から引かれた税金額の合計

2. 自分の課税所得に対する税金額

 上記を比べ、1が2より多ければ多く払いすぎているので、差額が返金(Refund)されます。逆に2が1より多ければ、足りないので追加納税の必要があります。

 1は、雇用主がATOの指定天引き率により、従業員の給料から税金を引いてATOに納めます。給料以外の収入もルールに沿って税金が天引きされることがあります。2は下記で説明する総収入から経費を引いたものである課税所得に税率を掛け、税控除を引いたものです。また、予定納税と呼ばれる次回のタックス・リターンの税金の前払いも1と同じ扱いとなります。

返金を多くするには

 上記の通り、返金額は1マイナス2です。簡単な算数ですが、これを大きくするには1を大きくするか、2を小さくするかです。1を大きくするには雇用主に高い方の税金天引き率を使用するように頼みましょう。しかし、多くの税金を引かれるため、当然毎回の給料の手取りは減ります。課税所得が減ったり、税控除が増えれば2が大きくなります。だからこそ、経費が重要になってくるのです。

税金の計算

 税金の計算は下記の通りで、この課税所得に対し税金が科せられます。

課税所得(Taxable Income)=総収入−経費

 税金額は、課税所得を元にした税金額(以下の表)−税控除(税金のディスカウント)ではじき出されます。

 個人の所得税(Income Tax)は、収入が上がると税率も上がるという累進課税制度になっており、税法上の居住者、非居住者で異なった税率があります。オーストラリアの税法上の居住者の税率は以下の表の通りです。オーストラリア人、永住権保持者、卒業生ビザ・ビジネス・ビザなど短期滞在ビザ保持者、半年以上のコースを履修している学生ビザ保持者は皆税法上の居住者とみなされます。

課税所得税率Tax on this income
0 – $18,2000%$0
$18,201 – $45,00019%$18,200ドルを超えた部分に19%
$45,001 – $120,00032.5%$5,092 + $45,,000ドルを超えた部分に32.5%
$120,001 – $180,00037%$29,467 + $120,000を超えた部分に37%
$180,001超45%$51,667 + $180,000を超えた部分に45%

 2022会計年度のみ、「Cost of Living Tax Offset」という新しい税控除があります。これは「Low and Middle Income Tax Offset(LMITO)」の増額という形でタックス・リターンで税控除を受け取ることができます。「Low Income Tax Offset」はこれまで通りとなります。

 この税率を元に計算した税金額から税控除を引いた額が税金額となり、これに課税所得、カップル合算課税所得によりメディケア税2%が加わります。

 メディケア税は、学生ビザやビジネス・ビザのようなメディケアを持っていない短期滞在ビザ保持者は所定の手続きにより、免除されます。ただし、パートナーや配偶者がメディケアを持つ権利がある、持っている場合は自身がメディケアを持っていなくても免除されません。



大きく変化したワーホリの税金

 2022年度、大きく変わるのはワーホリ・ビザ保持者のタックス・リターンです。21年11月、ワーホリに関する大きなニュースが飛び込んできました。裁判の結果、指定8カ国からのワーホリを対象にワーホリ特別税率(通称バックパッカー税)の廃止が決まり、日本も含まれています。そのため、申告内容が変わります。会計年度内にワーホリ・ビザを持っていた場合、税法上の居住者となるワーホリ・ビザ保持者はワーホリ特別税率ではなく、オーストラリア人や永住者といった税法上の居住者と同じ税率となります。

 税法上の非居住者となるワーホリ・ビザ保持者は、これまで通り非課税枠(税金が掛からない範囲)なし、課税所得45,000ドルまで15%の税率、45,000ドルから120,000ドルまで32.5%の税率となります。例えば、20,000ドルの課税所得がある場合、居住者であるワーホリと非居住者であるワーホリでは3,000ドルもの税金の違いが発生します。

 ただし、ATOは「ほとんどのワーホリ・ビザ保持者は税法上の非居住者である」としているため、何かしら税法上の居住者となる根拠が必要です。

 ワーホリ・ビザが絡むタックス・リターンは通年居住者なのか、年度途中から居住者なのか、通年非居住者なのかにより税金の計算方法も変わります。また、ATOの処理や対応もまちまちで、ATOによる間違いも多く起こるといった複雑な分野となります。特に22年度は通称バックパッカー税の裁判結果による廃止によりATOのワーホリ・ビザ保持者に対する扱いにも未知な部分が多くなります。

収入と経費

収入

 収入には、「申告の対象となる収入」「申告の対象とならない収入」「税金は科せられないが申告の対象となる収入」「タックス・リターンで全く考慮しなくて良い収入」があります。申告対象となる収入は下記の通りです。

●雇用収入(雇用されていることで得る給料)

●銀行利息、株の配当、投資ファンドの配当、FX、先物取引など投資収入

●賃貸不動産からの収入

●ABNやビジネスの自営業収入

●株や不動産、仮想通貨を売却した際の売却益、損

●日本などオーストラリア国外からの収入

 しかし、ビザによりオーストラリアの収入でも申告対象とならない場合があります。特に申告漏れが出やすいのは、銀行利息、株や投資ファンドの配当、株、不動産、仮想通貨の売却、海外収入です。

ATOは知っている

 オーストラリアでは、タックス・ファイル・ナンバーにより我々の収入が雇用主や金融機関などからATOに報告され一元管理されています。そのため、雇用収入、委託収入、銀行利息、株や投資ファンドの配当、株や不動産、仮想通貨の売却、センターリンク収入、PayPal・eBay・Uber・Airbnbといったシェアリング・エコノミーなどのデータをATOに把握されています。

 日本から投資や不動産収入がある、船や高級車を保持している、不動産の所有記録、ビザなどの情報もATOに共有されています。このように、ATOはアグレッシブにいろいろな所からデータを集め、それを我々の税務順守に利用しています。例えば、課税所得10,000ドルの人が豪華な船の上でパーティーを行っている写真をフェイスブックに投稿したり、過去何年も収入が低い人が高級車を購入していたらなぜだろうと思うのが普通でしょう。以前、ATOのオフィサーと話したことがありますが、ATOはフェイスブックのようなSNSも確認材料として利用しているようです。

経費

 経費とは、上記の収入を得るために出費した費用のことを指します。経費に当てはまるものと、そうでないものがありますが、どの収入に対し、どのような状況でというのが大切な判断基準となります。

 例えば、文房具が経費になるか、という場合も仕事のために購入した文房具なら経費となりますが、子どもの学校のために購入した文房具だとしたら経費になりません。何が、どのような状況で経費となるかは税理士にお問い合わせください。以下、経費と認められないものをいくつかご紹介します。

●ビジネス・スーツ、危険防護服でもなく雇用主のロゴもない衣服、Tシャツ、ジーパン、靴、靴下、ジャケットなど

●通勤に掛かる車の費用、公共交通費用

●接待・飲食代

●ビザ申請費用

●将来就きたい仕事に対する学費、勉強代

●学生ビザのコースの学費

●子どものチャイルドケア費用

●予防接種や医療費

●生命保険や健康保険費用

●普通自動車免許

●眼鏡

●投資セミナー代

 ただし、ビジネスと雇用における場合など収入によっては経費となる場合もあります。経費計上の三大原則は、

1. 仕事関連の経費の場合、総額300ドルを超える経費計上には全て領収書の保管が必要(一部例外あり)仕事に関連した経費以外の経費計上は1ドルから領収書の保管が必要。

2. 雇用主からの実費払い戻しといった自身の懐が痛んでいない費用は経費とならない。

3. 私用(収入とは関係ない)目的でも使う際はパーセントで按分することで経費計上が可能。

 1は、紙による保存でも写真やスキャンといった電子保存でも構いません。レシートの文字が消えたという場合はないものとみなされます。3はその収入で使う割合の根拠となる4週間の利用記録が必要です。

コロナ禍の経費

 この2年間は、COVID19によるさまざまな制限下での生活でした。そのため、コロナ禍での特別な経費計上があります。

1. コロナ禍で自宅勤務をすることになった場合の自宅勤務、リモートワークに関わる費用。これらは通常の経費計上方法に加え、ATOのコロナ特別レートでの自宅勤務時間数での経費計上が可能です。自宅の光熱費、通信費、オフィス用品など全て含まれます。また、自宅勤務は他にも経費計上方法があり、コロナ特別レートでの経費計上と他の方法を比べ有利な方法を採用できます。自宅勤務があった場合は記録を用意しておきましょう。

2. 仕事のために必要なRAT、PCRといったコロナ・ウイルス検査キットの費用。

3. 仕事のために必要なマスク、サニタイザーといったコロナ・ウイルス対策に関わる費用。

スーパーアニュエーションによる節税

 スーパーアニュエーションに自主的に拠出することで経費となります。下記、2つの方法があり、2は所定の手続きが必要です。

1. 雇用主経由で給料の一部をスーパーアニュエーションに拠出する。

2. 手元にあるお金をスーパーアニュエーションに拠出する。

 ただやみくもにスーパーアニュエーションに拠出すれば良いものではなく、節税効果は課税所得次第で課税所得によっては、むしろ損になるケースがあるため注意が必要です。

 スーパーアニュエーションへの拠出は、自身のライフ・プランニングを考えながら行う必要があります。スーパーアニュエーションに入れたお金はごくわずかの例外を除き、65歳になるか、60歳になって引退するかまで引き出せません。スーパーアニュエーションへお金を入れる、というのは少なくとも現金による出費が伴います。つまり、一度入金してしまうと、「マイホームを購入したい」「車が欲しい」「子どもの学費で突然お金が必要になった」などという場合に現金が必要になったとしても、引き出せません。

 また、特に日本人の場合、老後までオーストラリアにいるのか、という点が大きく関わります。思いもよらない理由で日本に帰国することになる、老後まで長い間オーストラリアに住みたくない、という人もいるでしょう。そのように、ただ拠出すれば良いというわけではなく、自身のお金をどうするか、といったお金の必要性、ライフ・プランを考慮して拠出するといった戦略的見地が必要です。

 スーパーアニュエーションによる節税は、オーストラリア市民権者か永住ビザ保持者、永住ビザ取得予定者のみが対象となります。その他にも、収入の低いパートナー、配偶者のスーパーアニュエーションへの拠出による税控除、政府がボーナスをくれる「Government Super Co-Contribution」といった制度があります。詳しくは税理士にお問い合わせください。

ABNによる収入と自営業収入

 個人事業の場合、収入及び経費の管理は全て自身で行うことになります。規模により会計ソフトやエクセルのような表計算ソフトで記帳(ブックキーピング)と呼ばれる収支記録を用意し、その記録を元にタックス・リターンで申告します。Uber EatsやUber Rideといったシェアリング・エコノミー、バイマなども自営業として扱われます。また、マッサージ店などでABN(Australian Business Number)ナンバーを使い、個人事業主として働く場合も、自身のビジネスではありませんが、自営業収入となり、いくら稼いだか、収入を自身で管理する必要があります。

 スモール・ビジネスに該当する個人事業主には、さまざまな特別ルールがあります。主なスモール・ビジネス特別ルールは以下の通りです。

●「Small Business Income Tax Offset」と呼ばれる最大1,000ドルの税控除

●コロナ禍の特別ルールとして減価償却資産(複数年で経費計上する)の一括計上

●在庫棚卸の簡略化

●前払い費用の経費化

 また、事業内容、規模、リスクの大小、ビジネスの課税所得により個人事業主ではなくカンパニー、トラスト、パートナーシップといった他の事業体でビジネスを行う方が有利なことがありますので、詳しくは税理士にお問い合わせください。

タックス・リターンの準備

タックス・リターンのために準備が必要なもの

 雇用収入、銀行利息、センターリンクの補助金、私的健康保険についてはATOに収入報告されているため、多くの場合、何も必要ありません。自身で用意しなくてはならないものは、下記の通りです。

●経費

●株や不動産、仮想通貨の購入、売却記録

●不動産業者からの賃貸収入年間収支表およびそれ以外の経費の記録

●ABN、個人事業主収入と経費の記録

●パートナー、配偶者の収入

●投資収入の年間レポート

●海外からの収入

 不動産投資収入のある場合は減価償却レポートを作成することにより大きな節税対策となるので、減価償却レポートを準備することをお勧めします。

タックス・リターンの申告と支払い期限

 タックス・リターンの申告期限は自身で申告する場合は10月末、登録税理士が申告する場合は多くの場合は翌年5月15日に延長されます。これは支払期限のみならず、タックス・リターンで支払いが必要となった場合の支払いの期限も延長されます。

ATOの傾向

 ATOは、納税者の収入の把握・管理の上、タックス・リターン申告をオンラインで簡略化することで経費などを考慮せず、知らず知らずのうちにタックス・リターンを申告させ、計画通りの税収を得ようとしています。ATOが現在注視しているものとして挙げられるのは、下記の通りです。

●仕事に関わる経費計上。経費計上できる費用か、領収書といった証明、利用記録がきちんとあるか

●UberやAirbnbなどのシェアリング・エコノミーによる収入

●海外からの収入

●通称キャッシュ・ジョブと呼ばれる給料やビジネスの売上を現金で受け取ることによる収入隠し

●仮想通貨の売却・交換

 特に昨今のビットコインを始めとした仮想通貨ブームにより仮想通貨を購入、売却している方が増えています。それに伴いATOもきちんと仮想通貨の売却、交換をきちんと申告しているか、ということに注視しています。一度でも仮想通貨を売却または交換すれば申告対象となります。

 COVID19で大きな補助金バラマキを行い財政難となったオーストラリア。今後税金の取り立てが一層厳しくなることが予想されます。

※本記事は一般的な情報提供が目的であり、アドバイスとして利用されるためのものではありません。

Ezy Tax Solutions

Web: https://ezytaxsolutionsjapan.com.au



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