BUSINESS REVIEW
会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。
オフィス勤務? それとも在宅勤務?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、私たちは今、オフィスの真価についての根本的な見直しを迫られています。オフィス擁護者の主張にも在宅勤務支持者の主張にも一理ありますが、勝敗を決めるのは時期尚早です。今月はEYオセアニアの4500人の従業員を対象に2020年7月に行われたEYの「Workforce Pulse」最新調査を基に、ポスト・コロナにおけるオフィスの在り方について議論していきます。
なぜ在宅勤務が機能しているのか?
EYの「Workforce Pulse」最新調査から、在宅勤務が機能している理由として以下の4つが挙げられます。
生産性の向上
EY従業員の5人中約4人(78%)が、在宅勤務でもオフィス勤務と同じくらい効果的に働けると考えています。集中力を要する作業は、自宅の方がより速く簡単にできるとのコメントもあります。
平等性
在宅勤務では全員が同じプラットフォームから発言するため、ミーティングなどが民主化されるという効果があります。
回答者の33%が、「上司に気を遣う」というようなことがなくなり、ミーティングがより平等になったと答えています。
ラッシュアワーの解消
オフィスから遠くに住んでいる人ほど、以前の働き方に戻ることをより嫌います。
EYの場合、通勤時間が1時間を超える人は、通勤時間が30分以内の人に比べて今後も在宅勤務を無期限で続けたいと考える割合が35%高くなっています。
自由時間の増加
家族との時間、エクササイズ、趣味などの余暇を楽しむ時間が増えています。
EY従業員の48%は、毎週一定日数をオフィス勤務に割り当て、残りは在宅勤務を希望すると回答しています。また、ほかの44%は今後在宅勤務を原則とし、顧客ミーティング、チーム・ビルディング、ソーシャル・イベントなど、特定の目的がある場合にのみオフィスを利用することを希望しています。
こうした調査結果から、EY従業員の87%がオフィス・スペースの利用方法についての再検討の必要性に同意しており、同じような意見は世界中で出始めています。
良いことばかりではない
一方で、在宅勤務の欠点についても、地域データとグローバルなデータの両方が驚くほど似通った結論を示しています。
世界的な建築設計事務所ゲンスラーによれば、労働者の55% がオンライン作業ではコラボレーションがより難しいと回答しています。多くの人びとにとって、アイデアを絞り出す方法として同じ部屋に全員集合することに勝るものはありません。また、対面なしに新規顧客の開拓や入社初日の社員研修、複雑な案件の交渉を行うことは困難です。
自然学習の機会減少
従業員にとって、オフィスから離れて勤務することで学習機会が少なくなることも心配の1つです。職場での自然学習を過小評価しがちですが、キャリアの初期段階にある若手スタッフにとっては特に重要です。
社会的孤立
人間は他人とのつながりを求める習性があり、オフィスはこれまで友情を育む場であり、時には生涯の伴侶に出会う場となってきました。今まさに孤独が重大な公衆衛生上の問題となろうとする中、企業は社会組織を強化する場としてオフィスを見直す上でどのような役割を果たすべきか考える必要があります。
仕事と生活の区切りをどう付けるか
EYの2020年メガトレンド報告書は、通勤がなくなることによる「自由時間の増加」が逆に「生活と仕事の区切りの付け方、モチベーション低下、孤独感」といった新たな課題を生み出すと指摘しています。
注視すべき点は何か?
オフィス勤務か、それとも在宅勤務か、今結論を出すのは時期尚早です。最終的な結論を導くであろう要因が幾つかあります。
人間は適応力の高い生きものであり、私たちはこの変化に順応していくでしょう。そのため、コロナ禍前の視点でオフィス計画を立てないよう注意すべきです。
経済的効果
多くの企業が生き残りに悪戦苦闘しており、そのため意思決定のパラメータが大きく変わる可能性があります。そういった厳しい環境の中でも業績目標を維持しつつ、顧客と従業員にとって良い結果になるよう両立させることも可能です。
政策と財政による活力
こうした問題に効果的に対応できる都市、州、国は、それぞれの企業と住民に大きな恩恵をもたらすでしょう。C OV ID -19の拡大状況は地域に
よって大きく異なるため、画一的なアプローチに頼ることのないよう注意すべきです。
予想外の結果に要注意
コロナ禍から私たちが学んだ教訓があるとすれば、それは予想外の事態に備えよということです。意図した結果が得られない場合には修正することが重要です。
人と場所を再検討する
私たちは今まさに新しい時代を迎えようとしており、その意味を考える上で以下の3つの要因を検討すべきです。
オフィス・オーナーの最大の競争相手は、今や自宅です。そしてオフィス・オーナーの仕事は、スペースを見直し、通勤するに値する、生産性、イノベーション、コラボレーションを促進するハブをどのように構築するかを再検討することです。
急速なテクノロジーの進歩
現在、企業は、在宅勤務に関するポリシー、ハブ・アンド・スポーク・モデル、機動的なオフィス戦略を幅広く検討しています。この新しい世界にはテクノロジーが極めて重要です。
人間中心のアプローチ
仕事の発生場所の再調整、成長の利用、生き残り戦略の策定など、目的が何であれ、人間がその意思決定の中心でなければなりません。そうしないと努力は徒労に終わります。
不動産業界は今まさに新しい時代を迎えようとしています。人びと、場所、生産性の間にある関連性を再検討することにより、テナントとオーナーの両方が新しい機会を発見できるでしょう。
EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター 篠崎純也
オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com