BUSINESS REVIEW
会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。
3億2,400万ドルの機会を逃しているオーストラリアのリサイクルごみ
EYではオーストラリアにおける家庭ごみのリサイクル問題について調査し、リサイクルごみが適切に処理されていないために、年間3億2,400万ドル相当の“資源”が無駄になっていると試算しました。 本稿ではオーストラリアにおける家庭ごみのリサイクルの現状とリサイクル価値を最大にする方法について調査したレポートをご紹介します。
ごみではなく資源
2019年8月、オーストラリア連邦及び各州政府の環境大臣は、今後プラスチックなどのリサイクルごみの輸出を禁止し、国内のリサイクル市場の開発に取り組む方針を発表しました。
ごみのリサイクル問題は世界でも注目を浴びており、EYではオーストラリアが直面する家庭ごみのリサイクルの現状と、その取り組みを改善することでもたらされる国内での市場機会について調査を行いました。
なお同調査は各家庭から直接収集されたリサイクルごみに焦点を当てており、一般的に包装容器、ボトル、紙などを指します。
オーストラリアが逃した機会
オーストラリアにおける家庭ごみのリサイクル・システムは、1つのごみ収集容器に種類の異なるリサイクルごみ(プラスチック、金属、紙、ガラスなど)を「混在」させて廃棄するものが主流です。この方法は収集したごみの汚染率を高め、質を低下させます。
例えば、ガラスと紙は分離が難しいものもあり(紙にガラス粉が混じるなど)、紙の価値が大幅に低下します。また、収集中の圧縮処理によって分別ができなくなるほどガラスが砕けてしまう可能性があり、分別費用がかさみます。
加えて同じ種類のごみでも、高密度ポリエチレン(HDPE)のミルク・ボトルが他のプラスチックごみと混在して収集されると、市場価値は1トン当たり110ドルとなります。これは、市場価値が1トン当たり500ドルに上る清潔なHDPEの価値を大幅に下回っています。
更に、ミルク・ボトルに食べ物やラベルが付着している場合、あるいは蓋が付いたままの場合、1トン当たり130ドルの費用を掛けてごみ埋立地に処分する必要があります。
オーストラリアで収集されたリサイクルごみの汚染率は、平均4~16%です。この汚染率の高さが、アジアの国々でオーストラリアの廃棄物が受け入れてもらえない主な理由です。
以上のような汚染やごみの未分別などの要素を考慮すると、分別されていない家庭リサイクルごみの実際の価値は、最悪の場合1トン当たり2ドル程にしかならないことが分かりました。これは、一般的な家庭リサイクルごみにおけるごみの混在割合に基づき算出しました。
一方汚染が除去され、きちんと分別されている場合、家庭リサイクルごみの価値は1トン当たり156ドルに上る可能性があります。ここでは、紙とボール紙が分別され、ガラスが粉砕されていない状態で、価値の高いプラスチックが分類され、汚染されていないと仮定しています。同じリサイクルごみでも、収集方法を変えるだけでその価値が大きく変わるのです。
また同調査では、現行システムの下、オーストラリアで1年間に収集されるリサイクルごみの価値を420万ドルと試算しています。
もしオーストラリアが国際水準のリサイクル・システムを構築した場合、リサイクルごみの価値を3億2,800万ドルまで引き上げることが可能となります。
つまりオーストラリアの家庭ごみには、約3億2,400万ドル相当の機会が手付かずのまま放置されているのです。
リサイクルごみの価値を最大にする方法とは?
オーストラリア国内で持続可能なリサイクル産業を発展させるためには、資源回収、リサイクル、市場開発において国内外の優良モデルを取り入れる必要があります。以下にオーストラリア国内外での優良事例を基にしたアプローチを紹介します。
- 汚染を減らすための教育
リサイクルごみの汚染を減らすためには、一般家庭に対する情報提供を向上させ、何がリサイクル可能なのか明確なルールを示し、必要であれば奨励制度を導入する必要があります。
- 一般家庭に対して、リサイクル可能なものに関する適切な情報を提供する
- 企業に対し税制もしくは政策優遇措置などのインセンティブを与え、商品パッケージに十分な情報が記載されるようにする
- 家庭向けに、汚染を減らすための報奨制度を導入する
- 収集前のごみ分別を改善
- 収集後の分別ではなく収集前の分別について検討する
- 家庭のごみ収集システムを再検討して、最大限分類し、収集したごみの質を維持する。ガラス業界は、ガラスのみの収集率を現在の30~60%から90%まで引き上げることは可能としている
- 容器再利用計画の検討(ヨーロッパの大半の国と北米の一部地域では、ボトルの再利用制度がある)
リサイクル産業が主張するように、州によってシステムが異なると連携を取れず、結果的に価値の低い「混合廃棄物」の増加につながるため、私たちは国内一貫したアプローチの採用を推奨します。
- 市場開発
リサイクル材の価格を引き上げるには、大幅な需要の増加が必要です。ただし当然ながら、リサイクル材の品質が高いほど市場は見つけやすくなります。また紙やボール紙などは適切に分別が行われていない場合、市場を見つけることができずストックが貯まる一方となるため、これらのリサイクル材の市場を成長させるためのイノベーションが必要となります。
企業が新製品を開発する際に、技術仕様を満たしリサイクル性が高まるようインセンティブを与えたり、新品の材料に対し課税することでリサイクル材の価格優位性を高め需要を増加させるなど、政府による優遇政策の導入やインセンティブを与えるための財源を確保することで、市場の成長が促進されると思われます。加えて、リサイクル材はより高い価格で利用される機会を優先すべきであり、道路やインフラ建設においてリサイクル材を使用する場合、その価値に適した価格で使用される必要があります。
オーストラリアにおけるリサイクルの未来モデル
オーストラリアはリサイクルごみの国内処理に向け最初の一歩を踏み出し、廃棄物管理はターニング・ポイントを迎えています。私たちの考え方にも変化が見え始めましたが、ごみをただのごみではなく鉄鉱石や金といった取引可能な資源として扱うには、より大きな変化が必要です。
しかし、リサイクルはサプライチェーンの終点だけに対応しているに過ぎないのです。包括的なアプローチには、容器包装などの削減や再利用、資源のリサイクル、そして最も重要であるリサイクル市場の開発が含まれます。
世界の優良事例と肩を並べるためには、廃棄物管理の優先順位(ごみの削減 – 再利用 – リサイクル)を考慮し、可能な限り循環経済の流れに沿った製造、消費システムへの投資が必要となります。
このようなアプローチの見直しと政府からの十分な投資によって、国内での持続可能なリサイクル産業が実現するでしょう。
EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター 篠崎純也
オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com