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知っておきたいフリンジ・ベネフィット税(前編)-注視すべき変更点とは?

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BUSINESS REVIEW

会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。

知っておきたいフリンジ・ベネフィット税(前編)-注視すべき変更点とは?

2020年のフリンジ・ベネフィット税(FBT)課税年度最終日となる3月31日が近づいてきました。今月は、FBTのおさらい、そして20年度以降に変更が見込まれる留意すべき点についてご紹介します。

FBTとは?

FBTとは、現金以外のベネフィットや特定の現金手当を従業員や親族などの関係者に支給した場合に、雇用主に課せられる税金です。FBTの主な目的は、各従業員が雇用主からフリンジ・ベネフィット相当額を給与などという形で金銭受領していた場合に、個人所得税上課税対象とされるべき額について、そのベネフィットを支給した雇用主に対し個人所得税の最高税率に相当する税率で課税することです。FBTが一見懲罰的な税金と見られるのはこのためで、基本的に実際支給したベネフィットとほぼ同額がFBTとして課せられることとなります。日系企業が一般的に支給しているFBT対象ベネフィットは、以下のようなものが挙げられます。

  • 従業員による私的利用(通勤を含む)が可能な社用車の支給
  • 就業時間中に従業員へ提供される駐車場スペース(会社敷地内外問わず)
  • 特定の費用負担や現物支給(例:経費の立替精算、物品・サービスの直接支給など)
  • 市場レートより低金利のローン貸付、返済免除(特に給与が誤って過払いされた場合に発生)
  • 交際費(ゴルフや会食を含む)
  • 出向や駐在員手当(例:家賃、光熱費など)
  • 個人所得税申告で雇用主が代わりに支払った納税額

FBTが、従業員の給与や報酬から差し引かれる源泉徴収税とは、まったく異なる税であることを理解しておきましょう。

2020年度のFBT変更点

タクシーの定義が改定される見通し

現在、従業員によるタクシーの利用は「従業員の勤務地を乗車または降車地点とする片道移動の場合、または従業員の病気もしくは負傷の場合」にFBT免除の対象となります。現行のFBT規定における「タクシー」の定義は、「タクシーとして営業許可を与えられている車両」となっています。しかし、この定義では同区間の移動にライド・シェア車両を利用した場合にFBT免除の対象となるかが明確ではありませんでした。19年12月5日、ATOや大手会計事務所、雇用主などの主なステーク・ホルダーの協議や諮問を経て、FBT上における「タクシー」の定義の不明瞭な点を見直す法案が議会に提出されました。

この改定案では、現行の「タクシー」の定義を撤廃し、「タクシー・トラベル(タクシーやライド・シェアを利用しての移動)」という定義を新しく追加、そしてFBT評価法において「タクシー」と記述されている箇所全てを「タクシー・トラベルに使用された車両(リムジンを除く)」と置き換えることを提案しています。ただし、リムジンを利用した移動については、今まで通りFBT控除の対象となりません。リムジン車のような豪華な車両での移動は明確に控除対象から除外されています。

これらの改正案が承認されれば、20年のFBT課税年度から適用されることになります。つまり、リムジン以外のライド・シェア車両の利用が、20年課税年度からFBT税免除の対象となります。20年1月の時点では、改定案の審議に進捗がない状態でしたが、承認の妨げとなるような課題も特にないため、可決される見通しです。したがってFBT対象となる日系企業としては、今から20年のFBT課税年度中に従業員が利用した移動手段に関する情報を整理しておき、新しい「タクシー・トラベル」の定義に当てはまらないものがあれば区別できるようにしておくことをお勧めいたします。

有料道路使用料金の評価方法

19年8月、ATOはFBTの課税対象となる私的利用(通勤を含む)で発生した有料道路使用料についての評価・記録方法を明確にしたガイドラインを発表しました。FBT対象となるベネフィットは従業員への支給方法により、「経費負担フリンジ・ベネフィット」もしくは「その他のベネフィット」と分類されます。ただし、業務のみを目的として道路を利用する場合(Business Purpose)には、使用料はFBT対象額には含めません。また、使用料の発生時に従業員がFBT対象外となる車両を運転していた場合や使用料が少額及びまれで不規則なものだとみなされる場合はFBT免税の対象となります。

ATOは、FBT課税対象額を評価する方法として以下の3つの方式を示しています。第1番目に挙げられている「実際の支払額」方式では、会社が実際に支給した個々の道路使用料のうち、私的利用であるものが課税対象となります。この方式では、証拠資料として各道路利用のレシート、電子タグ(e-TAG)の記録、行程表や出勤記録など細かな情報を保管しておく必要があります。

第2番目に挙げられる「私的利用パーセンテージ」方式では、私的利用の割合を算出するために、4週間以上のサンプル期間を抽出し、道路利用の詳細を記録する必要があります。算出した割合にFBT課税年度の道路使用料金総額を掛けたものがFBT対象額となります。すでにログブックで従業員による社用車の私的利用割合をFBT課税年度単位で算出している事業主は、同じ割合を道路利用料金の年間総額に適用することができます。

第3番目に挙げられる「従業員ごとの平均道路利用額」方式は、同じ社用車が複数の従業員により利用される場合に最も実用的な方式といえます。電子タグの記録や行程表、従業員の出勤記録などの情報を元に、事業者が従業員ごとに道路利用額の私的利用割合について就業週平均を算出し、それを年間の道路利用料金の総額に適用します。

民営駐車場の定義の見直し(21年のFBT年度より適用予定

ATOによる税通達のドラフト発表により、「民営駐車場(Commercial Parking)」の定義に関するATOの見解が見直されることが明らかになりました。雇用主が従業員に対し社内外を問わず終日使用できる駐車場を支給しており、1キロ以内に「民営駐車場」がある場合、一定の基準を満たすと「Car Parking Benefit」が発生します。以前の見解では、空港、商業施設、ホテル、病院、大学などの駐車場が「民営駐車場」の定義に含まれていませんでしたが、税通達のドラフトではこの見解が見直されることになりました。新たな見解は税通達が最終化された場合、20年4月1日(21年のFBT年度)より適用される見通しです。税通達のドラフトでは、空港など終日駐車以外が主で終日駐車に対し高い料金が設定している駐車場や病院など利用者を限定している駐車場などでも終日駐車(午前7時から午後7時までの時間帯で6時間以上の駐車)が可能な場合には「民営駐車場」として扱われるとしています。また、公共に提供されている駐車スペース1台分から「民営駐車場」として扱われるため、オフィスやアパートの空いている駐車スペースを個人や企業が営利目的でアプリを利用して貸しているケースなども含まれています。

現在、勤務時間に駐車できる駐車場を従業員へ支給しているが「Car Parking Benefit」に対しFBTを支払っていない場合でも、税通達のドラフトで提案されている変更が適用されると新しくFBT課税対象額が生じる可能性が出てきます。特に、空港もしくは病院の近くにオフィスがある企業は、税通達がFBT課税対象額に及ぼす影響について早急に調査することを推奨いたします。また郊外で事業を展開している企業は、新たな見解によりFBT課税対象額が上がり過ぎないよう、駐車場料金の市場価格をベースとしたFBT課税対象額の算定法の適用を検討することをお勧めします。

来月も引き続きFBT申告をスムーズかつ期限通りに進めるための留意点についてご紹介します。


EYジャパン・ビジネス・サービス 雇用関連税務・個人所得税申告 新井泰弘
EYシドニーのピープル・アドバイザリー・チームでシニア・コンサルタントを務め、日系企業の窓口を担当。豪州の税務全般と法人会計管理業務の経験があり、特に個人所得税申告や雇用関連税務の知識、経験が豊富
Tel: (02)9694-5882
Email: hiro.arai@au.ey.com

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