BUSINESS REVIEW
会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。
鉱業・金属セクターのビジネス・リスク&オポチュニティー・トップ10
2021(前編)
今月は、EYが鉱業・金属セクターで実施した調査結果をまとめた「鉱業・金属セクターのビジネス・リスク&オポチュニティー・トップ10-2021」レポートの概要(前編)をご紹介します。
本レポートでは、鉱業・金属セクターにおけるCOVID-19の影響にフォーカスし、特にパンデミックがいかに多くのリスクを高めたか、一方で新たなチャンスを生み出しているかを取り上げています。
第1位 操業許可(License to operate)
20年のディスラプションにより、トップ10の順位に入れ替わりがありましたが、操業許可は鉱業企業にとって前回から引き続き第1位の課題となっており、回答者の63%がトップ3に入るリスクとして挙げました。ステークホルダーの意見が広範囲で強くなるにつれ、この問題はますます重要になるものと見ています。ステークホルダーの懸念に対し効果的に対応することの重要性は更に増しており、鉱業企業は、以下の3層のコミュニティーについて考慮すべきでしょう。
・国家コミュニティーからは資源ナショナリズムへの回帰に向けて圧力が高まる可能性があり、鉱業企業が何の目的で誰に売るかについて論争が高まっている・ポスト・コロナのさまざまな社会経済問題が注目される中、より大きなコミュニティーに対するコミットメントがフォーカスされるようになる。資産の所有権をコミュニティーに与えるよう求める圧力が高まる可能性がある
鉱業企業は政府や業界団体と協力し、鉱業セクターがもたらす社会への貢献と価値について発信していく必要があります。投資家は財務状況の先にある価値を理解し、投資の検討材料にしようとしています。資本やその他の財源を獲得するためには、企業のイメージ・チェンジがカギとなります。
第2位 インパクトの大きなリスク(High-impact risks)
20年は、このようなインパクトの大きなリスクを理解しレビューしておくことの重要性を、COVID-19パンデミックがはっきりと示しました。中でも、企業のリスク管理能力とその企業の操業許可には大きな関連性があります。このパンデミックを経験したことで、企業が影響の大きいリスクにどのように備え、どのように管理し、どのように監視するか、ステークホルダーの期待が高まっています。
第3位 生産性とコスト増(Productivity and rising costs)
コスト増と生産性は引き続き重要な課題です。鉱業はより複雑になっており、供給網の分断と、経済的不確実性が需要に及ぼす影響により、コモディティー価格が圧力を受けているからです。
この問題に効果的に対処するためには、より長期的視点で、バリュー・チェーン全体のコストと生産性について、まさに端から端までフォーカスすることが必要です。
第4位 脱炭素化とグリーン・アジェンダ (Decarbonization and green agenda)
脱炭素化とグリーン・アジェンダは、社会的責任として以前にも増して重要な課題となっており、パンデミックを受け、ステークホルダーの要求は更に広範になり、強まっています。
温室効果ガス排出量はもちろんコモディティーによって異なりますが、排出量削減へのプレッシャーは、依然として鉱業・金属セクターにとって最大の環境問題です。大手企業は直接排出の脱炭素化に独自に取り組み始めていますが、各社の排出削減目標の多くはパリ協定に見合ったものではなく、自社のバリュー・チェーン全体での環境への影響を真に理解できている鉱業企業はごくわずかです。
COVID-19は、鉱業企業に事業をリセットする機会を与えたと考えます。環境、安全、ガバナンスの問題に更に力を入れる企業は、操業許可を強化することができ、資本の獲得において競争力を高めることができます。
第5位 地政学(Geopolitics)
地政学リスクは、今年新たに加わったもので、地政学的不確実性の影響が拡大していることを反映しています。EYの調査によると、企業が最も大きな影響のある地政学上の問題と考えているのは、国際システムにおいて変化を続ける米国の役割、EUの安定性、米中関係だということが分かりました。
この評価には、世界最大の経済圏の間でパワー・バランスが変化していることが表れています。米国はリーダー的位置付けを見直す方向で動いており、中国は地政学上更に大きな役割を担い始め、欧州はその力を今後更に結束させようとしています。新興経済圏では各国の力を結束させようとしていますが、国家間の関係は不安定となる可能性があります。
国内生産者を優遇し、資源保有国が自国資源の取り分を公正に得られるようにするなど、経済保護主義に向かう傾向は、多くの国で強まるものとみられます。
来月は第6~10位のビジネス・リスク&オポチュニティーについて解説します。
EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター 篠崎純也
オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている
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