政界こぼれ話人物編 その228
グラディス・リュー下院議員
Gladys Liu
自由党のグラディス・リュー連邦下院議員は、1964年4月6日に香港で誕生している(55歳)。兄弟姉妹はリューを含めて6人である。父親は中国本土で生まれた肉体労働者で、60年代に香港に移り住んでいる。香港では軽食店を営み、リューも子どものころから店を手伝っていたという。香港の理工系大学で学んだ後、85年に奨学金を得て豪州のラ・トローブ大学に留学し、中華レストランで働きながら勉学に励んでいる。
大学卒業後には、ビクトリア(以下、VIC)州教育省の公務員となり、言語障害の生徒たちの支援部門で働いている。なお、リューは左耳が全く聞こえない。またビジネスの才覚のあるリューは、2007年に離婚するまでの一時期、父親や夫と共に、2つの中華レストランや薬局を経営していた。
92年には豪州国籍を取得。政治の世界にも関心を抱いていたリューは、02年に自由党に入党し、全て落選の憂き目にあったものの、06年、10年、14年のVIC州上院選挙に自由党から出馬している。また自由党のベイリューやナプサインVIC州首相に、多文化問題担当の顧問として仕えた。そして今年5月の連邦下院選挙に同州のチズム選挙区から出馬し、激戦の末、見事初当選を果たしている。中国系の女性が連邦下院議員に当選したのは、リューが初めてのことであった。
ところが、「新記録の達成」で自由党やリュー本人が浮かれていた数カ月後に、リューは深刻なスキャンダルの「主役」となり、これでリューの知名度は一挙に高まることとなった。具体的には、リューの「中国との関係」疑惑で、リューが「胡散(うさん)臭い」中国系団体、すなわち中国共産党、それも共産党のプロパガンダ部門の前衛団体、あるいは共産党と密接なつながりがある団体に所属していたことが問題視されたのである。また、これまでの自由党政治献金集め活動における、リューの破格とも言える活躍ぶりも注目された。こういった事実から、リューは「中国の走狗(そうく)」との見方が一部で生じたのだ。
野党労働党はこれを捉え、数カ月前に当選したばかりの新人議員のリューを、下院議場で執拗(しつよう)に攻撃。そのため、リューには同情する向きも多かった。ただ確かに、リューの言動が首尾一貫性を欠くものであったことも間違いなく、これがスキャンダルを大きくしたと言えよう。
リューの人柄だが、何よりも勤勉、努力をモットーとする人物である。一男一女がいるが、リューのこの信条は子どもたちにも受け継がれており、娘は米国のプリンストン大学、息子はハーバード大学経営大学院で教育を受けている。
思想、信条だが、自由党では右派に分類でき、社会政策分野では相当な保守派である。例えばリューは、同性愛者間の婚姻の法的認知などには強く抵抗、反対してきた。趣味は音楽で、香港在住時代は若手オーケストラのトロンボーン奏者を務めた。