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コロナ危機と待たれる第2のケインズ / 今さら聞けない経済

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新型コロナウイルスと世界経済の危機


 この地球上では、いつ何が突然起こってもおかしくはありません。地震、大津波、火山の大爆発など、地球が日々変化している証拠として、何かが突然発生するのです。現在、世界中で多くの人びとを恐怖の底に突き落としている新型コロナウイルスも、まぎれもなく突然変異による恐怖の1つです。

 そのコロナ禍によって、各国の経済状態はまさに奈落の底に突き落とされたような状態です。日本のGDPは2019年に555兆円ほどあったのが、新型コロナウイルスの発生と同時に20年には一挙に530兆円程度にまで下がってしまったのです。ここまで一挙に下がるのは余程のことが発生しない限り起こりません。まさに新型コロナウイルスの発生は全く予期しない出来事だったのです。

 かつて奇蹟の経済成長率と、世界中から羨望の眼差しで見られていた日本のGDPの成長率は、1990年代に入ると、何と30年間以上も毎年の成長率は1%から1.5%しか達していないのです。これでは「日出ずる国」から「日沈む国」へとその姿を変えざるを得ないありさまです。

 当然、低い経済成長率下にあるのは日本だけに限ったことではありません。先進国と言われている国々も成長率は一様に低い状態に置かれているのです。そのような中で、たった一国だけが例外的に高い成長率を誇っている国があります。それは中国です。なぜか中国だけが、この世界の経済情勢下にあって高い成長率を達成できるのか不思議でなりません。

 考えられる要因は、今の中国は世界の工業として、日本やヨーロッパの先進国からの製品の製造主という地位を獲得し、せっせと製品を製造して、それを世界中の国へ輸出していることでしょう。その現実によって、中国という国は今や、世界の富を一挙に手中に収めようとしています。

 日本を始め、先進国の成長率は一様に低い率でしかありません。恐らく、今の世界の経済状態は経済危機の状態にあると言っても過言ではありません。

 一体どのようにすればこの危機から脱出できるのでしようか。待たれるのは大英知を持った経済学者の出現なのかもしれません。そうです。今や第2のケインズの出現が待たれているに違いありません。


世界経済の救世主:ケインズの業績


 1929年10月の第4木曜日、ニュ―ヨークの株式市場で、何の前触れもなく突如として株価の暴落が始まりました。それが史上最悪の不況と言われる大恐慌の始まりでした。

 ケインズは当時40歳の半ばであり、経済学者としてはまさに油の乗り切った時でした。ケインズはその大暴落がアメリカの経済だけでなく世界経済の足を引っ張ると直感しました。

 とりわけアメリカの東部と南部にかけての不況の波は深刻さを増すばかりでした。時の大統領ルーズベルトは、この大失業を何とか解決したいとの一心で、部下に命じてケインズをホワイト・ハウスに呼び、大失業の解決策を問いました。

 するとケインズは、大統領に「私の言葉を信用して下されば、アメリカの失業問題は解決します」と言い切ったのです。それを聞いた大統領はケインズの言う通り、南部地方に流れるテネシー川に大金をつぎ込んで幾つかの巨大なダムを造成したのです。

 ダムを造るにはたくさんの人を雇わなければなりません。そこで失業者をどっとダム造成の現場に投入したのです。また、巨大なダムを造るには莫大な費用が掛かります。しかし政府にそんなお金はありません。そこで大統領はケインズに問うたのです。「あなたは巨大なダムを造れというけれど政府にはお金など一切ありません」と。するとケインズは「大統領、よくおっしゃいました、お金など要りません。政府は借金をすれば良いのです。借金をすれば幾らでもお金は出てきますよ」と、平然と言うのです。それを聞いた大統領はよし、借金をしまくろうと決心し、テネシー川に幾つもの巨大なダムを造り上げたのです。

 するとどうでしょう。それまで巷に溢れていた失業者は見る見るうちに姿を消し、運ぶ荷物がなくて遊んでいたトラックはダムを造る原材料の運搬に使われ始め、忙しく動き回るようになったのです。それまで仕事がなくて遊んでいた労働者はダム造成現場に雇われ、仕事にありついたのです。

 大統領はこれらのダム事業に巨額な資金を投入しました。しかしそれは全て借金。つまり「赤字財政」だったのです。これら一連のダム造成工事のおかげで、あれほど溢れていた失業者はその姿を消し、仕事がなくて溢れていた運搬車はダム建設資材を運ぶのに使われ、忙しく走り回るようになりました。このケインズのダム造成計画のおかげでアメリカの大量の失業者は仕事にありつくようになり、次第に減少し始めました。

 その戦略はテネシー峡谷公団政策と言われ、世にT VA(Tennessee Valley Authority)政策として知られるようになりました。この例を基に、大量に失業者が発生した時には、何をさておいても公共投資(政府投資)の増大の必要性が問われるようになりました。


コロナ禍の拡大とケインズ政策


 1930年代の初頭に発生した株価の下落に基づく世界経済の大不況の救世主はケインズでした。ケイズはその大不況を克服する手段として、政府による直接投資の増大によって落ち込んでいる民間投資の拡大による経済の立ち直りを図ろうとしました。その政策は「有効需要の原理」と呼ばれ、経済政策の面ではとても有名です。

 目下、世界中の人びとが苦労してコロナ禍というやっかいな問題を解決するため、各国政府は莫大な資金を投入し、その問題の解決に取り組んでいます。まさに、全世界ではケインズ政策の導入によって経済の再生を図ろうとしているように見受けられます。

 事実、統計資料によれば、各国政府は、一国内のコロナ禍によって生じた需要の落ち込みによる経済の低下水準を、国内の直接投資の増大によって抑え込もうとしています。つまり、今や、ほぼ全世界の各国がケインズ経済政策の支柱である直接投資の増大によって人びとの購買力の増強を図ろうとする「有効需要増大政策」を、まさに推し進めようとしているのです。

 つまり、全世界で30年代後半に導入されたケインズの有効需要の増大策を直接用いて各国の経済の立て直しを図ろうとしている、と言っても過言ではありません。各国政府は、政策当局による直接投資の投入によってコロナ禍で落ち込んだ需要を一気に引き上げようとしています。このような現在の世界の経済政策のありさまを直接目にすると、かつて全世界の経済学を学ぶ人びとが目に触れたケインズの「有効需要の原理」という言葉が敢然と頭に浮かびます。

 歴史は繰り返す、と言われますが、経済理論も繰り返し再生されるものなのでしょう。

 さあ、もう1度机の上で学んでみよう、ケインズの「有効需要の原理」を始めから。

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