「エネルギーの未来は放射性物質ではない」
国内に商業用原子炉を1基も持たないオーストラリアで、「小型モジュール炉」(SMR)と呼ばれる次世代型の原子炉を導入するべきだとの声が上がっている。一方、環境保護派は、SMRは高コストで技術が確立されておらず、温室効果ガス排出実質ゼロに向けた解決策にはならないと批判している。5日付の公共放送ABC(電子版)が伝えた。
SMRの導入を提唱しているのは、野党保守連合を構成する国民党など一部の保守系議員ら。国民党のデービッド・リトルプラウド党首は6月、原発導入の検討を求める書簡をアンソニー・アルバニージー首相(労働党)に送付した。
また、原発議連の代表を務める国民党のデービッド・ギレスピー連邦下院議員は、低炭素社会の実現には、太陽光や風力など天候に左右される再生可能エネルギーだけではなく、発電量が安定した「ベースロード電源」として新型原子炉が必要だと主張している。同議員は「原子力技術は世界中で急速に進化している。SMRを閉鎖される火力発電所の跡地に建設すれば、施設や送電網を流用できる」と述べた。
「原発は低炭素経済への移行を遅らせる」
こうした声に対して、非営利環境保護団体の「豪自然保護基金」(ACF)は5日、原発導入に反対する報告書を発表し、「次世代原子炉は、低炭素経済への移行を遅らせ、電気料金を引き上げるとともに、壊滅的な事故の危険性を含む、高レベル放射性廃棄物の処理に伴うリスクを不必要に高めることになる」と批判した。
ACFの反原発活動家であるデイブ・スウィーニー氏は「オーストラリアのエネルギー未来を担うのは、再生可能エネルギーであり、放射性物質ではない」と主張している。
オーストラリアでは、過去に原発導入論が出ては消えていっている。国内で石炭などの安価なエネルギー資源に恵まれ、国民の間で反原発意識も根強いことが背景にあると見られる。
だが、温室効果ガスの排出量が多い石炭火力発電所の廃止計画が相次ぎ、再生可能エネルギーが増える中で電力の安定供給が急務となっている。もっとも前保守政権が2019年、議会の委員会でSMR導入の可能性を検討した例はあるが、連邦政府は依然として国内での商業原発建設を解禁していない。
その一方で、オーストラリアは原発燃料ウランの輸出大国でもある。連邦産業・科学・資源省によると、オーストラリアのウラン鉱石の埋蔵量は世界最大で、生産量は世界3位。21/22年度のウラン輸出額は5億6,400万豪ドルに達している。
■ソース
Conservationists criticise push to consider nuclear energy by federal MPs(ABC News)
Resources and Energy Quarterly, September 2022(Department of Industry, Science and Energy)