グレート・バリア・リーフの島で
海から上がって陸の上を歩くことができる特殊な能力を持つ「マモンツキテンジクザメ」(英名エポーレット・シャーク=学名Hemiscyllium ocellatum)。オーストラリア北東部の世界最大規模のサンゴ礁群、グレート・バリア・リーフで、通常と異なる遺伝的な特徴を持つ個体群が発見され、生物学者は新種である可能性があると見て研究を進めている。
マモンツキテンジクザメは、人を襲う獰猛なサメではなく、小型の海洋生物を捕食する体長55センチ〜1メートル以下の小型種。オーストラリア北部やニューギニア島などの浅瀬に生息し、4枚の大きなヒレで這うようにして浅瀬を移動し、最長で2時間程度、海上に露出した岩礁の上を四足動物が歩くように移動することができる。捕食者から身を守ったり、干潮時に潮だまりの間を移動したりするため、低酸素の環境でも生きることができるように進化したと見られている。
とぼけた表情でヒレをペタペタと動かしながら這いずり回る様子は、まるでアニメのモンスターのようで愛らしく、水族館でも人気者だ。
斑点の周りの色が違う
公共放送ABC(電子版)によると、特徴が異なるマモンツキテンジクザメを見つけたのは、海洋生物学者のジャシンタ・シャケルトンさん。グレート・バリア・リーフの南端にあるレディー・エリオット島で2021年、島の周辺で通常の個体とは斑点の周囲の色が異なる個体群を発見した。
マモンツキテンジクザメの細長い身体は薄茶色で、胸びれの後ろに大きな黒い斑点があり、身体中により小さい黒い斑点が点在している。グレート・バリア・リーフ北部に生息する通常の個体は、黒い斑点の周りが白くリングのように縁取られているが、同島の個体群は斑点の周りが茶色で見た目がはっきり異なっている。
シャケルトンさんは「異なる種である可能性もあると考え、じっくり研究しています。ケアンズ沖などに生息している個体と、レディー・エリオット島の個体には、遺伝的に大きな違いがあります」と話す。
シャケルトンさんは今後、研究結果を発表する予定だが、同島の個体群が新種と考えられるほど明確な違いがあるかどうかについては、さらに多くの個体を採取して調べる必要があるとしている。
いずれにしても、マモンツキテンジクザメの保護は、重要性を増しているという。陸上歩行の際などに不必要な脳の機能を停止させることによって、低酸素の環境でも生息でき、環境適応能力に優れているためだ。
「温暖化が進行しても、彼らはほかの種よりも生き延びる可能性が高いかもしれません」(シャケルトンさん)
環境変化を測るリトマス試験紙に
また、ジェームズ・クック大のジョディー・ラマー教授も、マモンツキテンジクザメは気候変動の影響を調べる尺度になると指摘している。
「(シャケルトンさんの)研究は画期的。グレート・バリア・リーフの北部は非常に暑いけれど、南部はより涼しい。地理的に離れた個体群の(遺伝的な)特徴を調べることは、気候変動への対応について理解を深めることにつながるかもしれません」(ラマー教授)
同教授によると、マモンツキテンジクザメは食物連鎖の中間に位置していて、生態系を維持する「接着剤」のような役割を果たしている。ところが、同大の最近の研究では、海水温上昇の影響でマモンツキテンジクザメの稚魚が小型化していることが分かった。
「このことは私たちに警鐘を鳴らしています。(適応力の高い)マモンツキテンジクザメが(気候変動に)耐えられないのなら、もっと影響を受けやすい種がどうやって生き延びることができるのでしょうか」(同教授)
■ソース