1,000キロを12時間以内に走破 平均時速85キロ
オーストラリアのシドニーにあるニュー・サウス・ウェールズ州大学(UNSW)は19日、同大のチームが設計、製造したソーラーカーが、1回の充電によるスピード世界記録を樹立したと発表した。暫定的ながらギネス記録を更新したという。
UNSWの大学生らが開発したのは、レース用のソーラーカー「サンスウィフト7」。車体上部に張り巡らせたソーラーパネルで発電し、モーターを駆動させて走る。南部ビクトリア(VIC)州のウェンスリーデールにあるオーストラリア自動車研究所(AARC)のテストコースを240周し、1,000キロの走行距離を11時間53分32秒のタイムで走破した。
平均速度は時速約85キロに達した。「1回の充電で12時間以内に1,000キロ以上を走行する」という規定の下で、世界最速記録を樹立したと主張している。今後、専門家が走行データを検証して正式に認められれば、ギネス世界記録の証明書が授与される。
学生たちはロックダウンを乗り越えた
同大学のソーラーカー開発の歴史は古く、1号車の開発は1996年にさかのぼる。最新型であるサンスウィフト7に課された使命は、2021年の世界最高峰のソーラーカー耐久レース「ブリジストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」に参戦することだった。しかし、オーストラリア大陸を縦断する約3,200キロのコースで2年に1回開かれている同レースは、コロナ禍のため中止に。
チームのマネジャーを務めるUNSWの学生、アンドリア・ホールデンさん(機械工学専攻)はこう話した。
「2年前、私たちがこの車の開発を開始した時、ロックダウン(新型コロナ感染拡大による都市封鎖)が始まり、非常に困難な状況になりました。でも、チームが一丸となって開発を進めて、ここまで来ることができ、非常にやりがいを感じています。やるべき仕事はたくさんあったし、時間もかかり、非常にストレスを感じましたが、努力が報われました。この世界記録はチーム全員の努力の結晶です」
走行中には記録達成が危ぶまれる局面もあった。公式ルールには、ドライバー交代の頻度や「15分以上停車してはならない」、「パンクによるタイヤ交換は一度だけ」などの細かい条件があるが、サンスウィフト7は走行中に一度、電池システムの不具合で停車を余儀なくされた。しかし、チームは14分52秒というギリギリのタイミングで修理を終え、サンスウィフト7は再び走り続けた。
レッドブルを4度のF1タイトルに導いた男
チームの顧問である同大のリチャード・ホプキンス教授はかつて、自動車レースの最高峰「フォーミュラ1」(F1)のレッドブル・チームの運営責任者を務め、同チームを4度の世界タイトルに導いた経験がある。
ホプキンス教授は「ここには、メルセデス・ベンツに努めているような、高給取りのプロの自動車開発者がいるわけじゃない。とても優秀な頭脳を持ったアマチュアたちが、すべての要素を素晴らしい形でひとつにまとめ上げたのです。若い彼ら、彼女らは、未来そのものです。サンスウィフト7で可能性を見せつけてくれました。彼らが社会に出た時に何をしてくれるか、想像してみてください」と学生たちにエールを送る。
学生たちが究極の空力性能と耐久性、素材を追求して開発したサンスウィフト7。車体重量はわずか500キロと市販の電気自動車(EV)テスラの4分の1しかない。同教授によると、今回の走行中のエネルギー消費量は100キロ当たり3.8キロワット時。エネルギー効率は通常15〜20キロワット時の市販EVを大幅に凌いでいる。ただ、極限まで軽量化するためにエアコンやエアバッグなどは積んでいない。レース以外では公道を走ることもできず、市販を前提としたものではないという。
「サンスウィフト7は未来の量産車ではありません。快適性を犠牲にしていますし、莫大な開発コストもかかっています。F1チームで働いていた経験から言うと、誰もF1を5〜10年後に実際の道路で運転できるとは思っていないでしょう。でも、F1に注ぎ込まれた技術は(自動車開発の)限界を高め、(市販車に)フィードバックされます。それはまさに、私たちがサンスウィフト7によって成し遂げたいことであり、今回の世界記録はその可能性を証明して見せたのです」(ホプキンス教授)