「賃金・物価スパイラルのリスクは低い」とエコノミスト
私たちの家計のやり繰りに大きな影響を与える金利。持ち家率が高い上に、住宅ローン金利への影響が大きいオーストラリアでは、とりわけ消費や景気を左右する要因となる。現時点では、政策金利の引き下げは年内に1回だけ、来年は4回程度というのがおおむねコンセンサスとなっている。
中央銀行・豪準備銀(RBA)は2022年5月以降、コロナ禍で過去最低水準(0.1%)にあった政策金利を23年11月までに累計4.25ポイント引き上げ、4.35%とした。以降、13年ぶりの高水準が半年続いていて、生活費高騰にあえぐ家計を圧迫している。
利上げの目的は、言うまでもなく、経済再開後に約30年ぶりの水準まで高まったインフレを抑え込むことにある。強力な金融引き締めは、インフレ抑制に一定の効果を上げた。消費者物価指数(CPI)の上昇率は22年10-12月期に前年同期比7.8%でピークを打った後、直近24年1-3月期には同3.6%と半分以下まで減速した。
まだ中銀のインフレ目標である2〜3%を上回っているものの、例えるならハイウェイを時速200キロで爆走していたクルマが、法定速度を少し超過する程度まで減速してきた、といったところだろう。
インフレ圧力が収まり、個人消費が冷え込むなど景気にも陰りが出てきた。RBAは景気後退を回避しつつ成長を再加速させる「ソフトランディング」(軟着陸)につなげるため、年内に2〜3回、利下げを行うのではないか。年初には、そんな見立てが市場参加者の間で大勢を占めていた。
雇用市場は軟化している
ところが、その後も労働需給が引き締まった状態が続いている上に、インフレ減速のペースも中銀の想定より遅いとの認識が広まったことから、ここにきて、利下げどころか、もう一段の追加利上げもあり得るとの観測も浮上してきた。
そんな中で、15日に発表された1-3月期の賃金物価指数(WPI)は前年同期比で4.1%の上昇となり、市場予測の4.2%を下回った。コモンウェルス銀は「賃金上昇は昨年末にピークアウトした」と断定。「オーストラリアで賃金・物価スパイラル(賃金と物価がともに共鳴して上昇する悪循環)が起こるリスクはきわめて低い」と指摘した。
また、16日発表の4月の雇用統計でも、想定よりも雇用市場が軟化していることが確認された。失業率は4.1%と前月から0.2ポイント上昇し、市場予測の3.9%から上振れした。
労働需給が緩んできたとの見方から、市場では現在、再利上げの可能性は消えたとの読みが支配的だ。利下げ幅と時期の想定には幅があるが、例えばコモンウェルス銀とウエストパック銀はいずれも、12月までに0.25ポイントの利下げが1回、来年は0.25ポイントの利下げが4回あり、政策金利は25年12月までに3.10%まで引き下げられると予測している(表参照)。
■ソース
Australia & New Zealand Weekly, Week beginning 20 May 2024(Westpac Institutional Bank)
Annual wages growth 4.1% in March quarter 2024(Australian Bureau of Statistics)