報道部門トップは「局の編集基準に合致していない」とコメント
オーストラリアの公共放送ABCに所属する著名ジャーナリスト、ローラ・ティングル氏が26日、「オーストラリアは人種差別国」とコメントし、波紋を投げかけている。
29日付のABC電子版によると、先週末に開かれた著述家のイベント「シドニー・ライターズ・フェスティバル」にパネリストとして参加した際、ティングル氏は「私たち(オーストラリア)は人種差別国であり、そのことと向き合わなくてはならない。私たちはこれまでも常にそうであったし、非常に憂鬱なことだ」と述べた。
最大野党・保守連合のピーター・ダットン代表(自由党党首)が、移民削減を唱えたことを問題視する文脈で語った。ダットン氏は先の新年度予算案に対する野党の反論スピーチで、住宅不足を解消するには移民を減らすべきだと主張。ティングル氏は、オーストラリアにはびこる人種差別と結びつけて批判したかったようだ。
これに対し、ABCニュース部門のジャスティン・スティーブンス氏は「文脈とバランス、証拠となる情報に欠き、ABCの編集基準を満たしていない。物議を醸すコメントであり、(ABCでの)職務で発せられたものではないものの、ABCとその従業員はオーストラリアのメディアにおいて特別な責務を負っている」と指摘した。
オーストラリアは受け入れる移民を欧州系の白色人種に限定する「白豪主義」を1970年代に廃止。多様な人種や民族を受け入れる「多文化主義」を採用してからすでに半世紀以上が経過している。職場や地域社会での人種差別は違法でタブーだが、モザイク社会の内面に潜む差別意識は、戦争やテロ、景気悪化、失業増などの際に露呈することがある。オーストラリアに人種差別が存在しないとは言い切れないが、スティーブンス氏はそれを認めたくない社会の風潮を代弁しているようでもある。
一方、ティングル氏はABC電子版に掲載された反論文で「今後の政治的な問題に関する議論の文脈で、私たちが人種差別国だと発言した。私は全てのオーストラリア国民が人種差別主義者だと言っているわけではない。しかし、私たちは明らかに人種差別をめぐる問題を抱えている」と述べた。
その上で同氏は「例えば、『オーストラリアン』(保守系メディア大手ニューズ・リミテッドが発行する全国紙)は過去数カ月間、オーストラリアにおける反ユダヤ主義の台頭を警告する記事に、非常に多くの紙面を割いている」と述べ、イスラエル寄りの保守メディアがパレスチナ問題でバランスを欠いているとの見方を示した。
ティングル氏は1961年シドニー出身。リベラル系メディア大手フェアファックスの経済紙「オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー」、ニューズ・リミテッドの「オーストラリアン」、フェアファックスの「シドニー・モーニング・ヘラルド」などを経て、2018年にABC入局。現在、時事番組「730」(セブン・サーティー)で政治担当の編集委員を務める。オーストラリアの保守政治に批判的な発言が多く、リベラル派の論客として知られる。
■ソース
ABC says Laura Tingle’s Sydney Writers’ Festival comments did not meet editorial standards(ABC News)