党の公式ウェブサイトからも静かにデリート

オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相(労働党)が、いつしか前回選挙のエネルギー公約を諦め、党のウェブサイトからも削除していたことが分かった。全国紙「オーストラリアン」が31日付の一面トップで報じている。5月3日に実施される連邦選挙では、生活コスト高騰対策に加え、エネルギー問題が主な争点に浮上しているが、首相の軌道修正は波紋を呼びそうだ。
アルバニージー氏が労働党党首として挑んだ2022年の選挙戦。脱炭素の政策大綱「パワーリング・オーストラリア」を発表し、2030年までに電力の82%を再生可能エネルギーでまかない、温室効果ガス排出量を05年比で43%削減するとの野心的な目標を掲げた。環境保護政策が争点となった前回選挙では、9年ぶりの政権交代を実現した。
描いたのは、再エネ促進と脱炭素で新産業を創出し、エネルギー料金も減らすというバラ色の未来だった。再エネ関連産業で60万4,000人の直接雇用を生み出すと同時に、1世帯当たりのエネルギー料金を25年までに275豪ドル、30年までに378豪ドルそれぞれ引き下げると公約した。
ところが、その後の激しいインフレを背景に、電気・ガス料金は急上昇した。アルバニージー首相は30日、オーストラリアン紙に対し、公約の事実上の撤回を認めたという。料金引き下げは、労働党が依頼したコンサルタント会社「レピュテック」による当時の試算であり、その後のウクライナ侵攻などの外的要因で目標の達成が困難になったと弁明した。
首相の発言は、脱炭素政策の転換とも捉えられかねない。同紙によると、温室効果ガス43%削減、再エネ割合82%達成、60万4,000人雇用創出といった文言は最近、労働党の公式ウェブサイトから静かに削除されたという。
一方、ピーター・ダットン代表(自由党党首)率いる最大野党・保守連合(自由党、国民党)のエネルギー政策の主眼は、天然ガスと原発だ。労働党の再エネ偏重が料金高騰を招いたと主張。当面は輸出主体の天然ガスをもっと国内に供給して卸売価格を引き下げた上で、長期的には国内7カ所に原発を新設すると公約している。
これに対して、左派の環境保護政党「グリーンズ」のアダム・バント党首は、同紙に以下のように述べている。グリーンズは下院で改選前4議席の少数勢力だが、今回の選挙で労働党が過半数を割れば、労働党と閣外協力を結んで多数派を形成し、影響力を高める可能性がある。
「石炭や天然ガスの新規開発を引き続き承認している労働党が、十分に早いペースで温室効果ガスを削減できるわけがない。(保守連合の)ダットン氏は(炭素)汚染をもっと悪化させる。安全な気候と安いエネルギー料金を実現するためには、グリーンズに投票するしか選択肢はない。ダットン氏の政権奪回を阻止し、労働党に石炭と天然ガスの新規開発をやめさせよう」
いずれにせよ、エネルギー政策の修正をめぐり、労働党が保守とリベラルの両方向から批判を集めるのは間違いなさそうだ。
■ソース
PM walks away from 2030 Energy bill cut(The Australian)