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2023年、私たちのマネーはどうなるの? オーストラリア経済の展望 ③景気編

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財政出動と金融緩和で膨らんだ「コロナ・バブル」が弾ける!?

出典:RBA, Westpac Institutional Bank, Commonwealth Bank of Australia 作成:守屋太郎

 オーストラリアでは、コロナ禍で実施された前例のない金融緩和の針が巻き戻され、一転して急速な金融引き締めに舵を切った2022年。歴史的な水準の高インフレと急激な利上げにより、住宅価格や株価などの資産価格が大きく下落した1年となった。

 今年は、世界的な景気減速を背景にリセッション(景気後退=2四半期連続のマイナス成長)入りの可能性もささやかれる。オーストラリアに住む私たちの生活や仕事はどうなるのか。シリーズ3回目の今回は、オーストラリアの今年の景気の先行きを探ってみた。

「通貨の番人」中央銀行の予測は?

 景気を占う上で最も重要な指標は、国内総生産(GDP)と失業率と言われている。大雑把に言えば、GDPは私たちが仕事で生み出す付加価値を合計した金額だ。景気が悪化すると、その伸び率が大幅に鈍化したり、マイナスに落ち込んだりする。人々の消費も減って会社や店が儲からなくなる。すると従業員に給料を払う余裕がなくなり、解雇される人も増える。このため、失業率も景気の重要なバロメーターになる。

 中央銀行の豪準備銀(RBA)の予測によると、オーストラリアのGDP成長率(前年同期比)は22年12月3.0%、23年6月2.0%、23年1.5%と次第に鈍化するという。その後も24年6月1.5%、24年12月1.5%と低空飛行を続ける見通しだ。

 RBAのミシェル・バロック副総裁は22年11月の金融政策声明で、「(経済再開に伴う)家計のサービス支出が底堅く、(渡航再開による)留学・観光サービスの輸出が更に伸びたことから、下期のオーストラリア経済は力強く成長した」と22年後半を振り返った。

 その上で、同副総裁は23年の見通しについて「コロナ禍の反動による家計支出(個人消費)の拡大がほぼ一巡するため、GDP成長率は年初に減速するだろう。コロナ禍の間の(使い道のなかった)収入や(金融緩和で増大した株や不動産などの)資産価格の上昇によって積み上がった貯蓄が、消費を下支えしてきた。しかし、こうした支えは、高いインフレと金利上昇、住宅価格の下落によって剥げ落ちてきており、23年初めに消費は鈍化するだろう」と予測している。

 つまり、コロナ禍で政府が行った大規模な財政出動と中央銀行による前例のない金融緩和を背景に誇張した「バブル」が、いま弾けつつあるというわけだ。

 直近22年11月時点で3.5%と歴史的に低い水準にある失業率も、景気の減速に伴って小幅ながら悪化していく見通し。RBAによると、失業率は23年12月3.75%、24年6月4.0%、24年12月4.25%と次第に上昇していくという。

 インフレは22年内にピークアウトするものの、RBAの物価目標である「2〜3%」まで落ち着くのは25年以降になると見ている。RBAによると、消費者物価指数(CPI)の上昇率は、22年12月の8.0%にピークを打ち、23年6月6.25%、23年12月4.75%、24年6月4.25%、24年12月3.25%と緩やかに低下する見通しだ。

「23年は停滞の1年になる」と著名エコノミスト

 RBAは22年5月以降、前例のないペースで政策金利を引き上げ続けてきた。経済に打撃を与えるインフレを抑え込むのが目的だが、さじ加減を間違えば、逆に景気を冷え込ませかねない。利上げ=金融引き締めが効果を発揮して、インフレは想定通りにピークアウトするのか。金利をどの水準まで引き上げるのか。高い金利をいつまで続けるのか。その3点が当面の焦点となる。

 RBAは「今後さらなる利上げを予期しているが、それは先に決められた道筋ではない」(22年12月の理事会の議事録)として、手の内を決して明かさない。だが、RBAは2月7日に開かれる今年1回目の理事会で政策金利(現在3.10%)を0.25ポイント引き上げて3.35%とするとの見方が、市場では優勢となっている。

 オーストラリアの著名エコノミストであるウエストパック銀のビル・エバンス氏は、RBAが今年5月までに政策金利を3.85%まで引き上げ、今回の利上げ局面の上限になると予測している。これが正しければ、2月以降、0.25ポイントの利上げがさらに2回行われることになる。

 エバンス氏によると、24年に入って経済の減速と失業率の上昇、賃上げ圧力とインフレ率低下が確認されれば、RBAは「中立金利」(高くも低くもない適温状態)と見られる2.5〜3.0%付近に向けて、利下げに転じる可能性があるという。同氏は、RBAが24年3月に利下げを開始し、同年末までに2.85%まで引き下げると展望している。

 エバンス氏は「23年はインフレが低下し、経済が停滞する年になる。中央銀行は年の中頃まで金融引き締めを継続し、下半期も断固として金利水準を維持するだろう。それが24年にインフレが継続して低下する土台になれば、金融緩和に向けた条件が整うだろう」と指摘し、一部で浮上している年内の利下げ観測を否定している。

でもエコノミストの予想って当たるの?

 ともあれ、中銀やエコノミストの予測はそれほど当てにならない。RBAは約1年前の21年11月の時点で、CPIの前年同期比上昇率を22年6月2.75%、22年12月2.25%と予測していた。ロシアによるウクライナ侵攻という地政学的な一大事があったにせよ、現実には9月期に7.3%まで跳ね上がり、予測は大きく外れた。

 世界最大の中央銀行である米国の連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長でさえ、21年中ごろまでは「インフレは一時的」と繰り返していた。パウエル議長が完全に読みを間違えて金融引き締めが後手に回ったことが、世界的なインフレを加速させる一因になったとの見方がある。

 現時点では、オーストラリアが高インフレと景気後退が同時進行する「スタグフレーション」に陥るリスクは高くないとされている。ただ、移民受け入れ再開により、人口増加率はコロナ前の約1.5%(2019年)の水準まで回復する可能性がある。その場合、1%台の低い成長率で失業率が1ポイント程度上昇すれば、オーストラリア経済は人口増加を支えきれなくなる。このため、実質的にはリセッションに陥るかもしれない。

 いずれにせよ、既にインフレは賃金の伸びを大幅に上回り、実質賃金は約10年前の水準まで目減りしている。オーストラリアに住む私たちにとっては、今年は暮らし向きが良くなるより、悪くなる可能性の方が高いと言えそうだ。

■ソース
Statement of Monetary Policy, November 2022(Reserve Bank of Australia)
Australia & New Zealand Weekly, Week beginning 19 December 2022(Westpac Institutional Bank)
CBA Australian Economic Forecasts(Commonwealth Bank of Australia)

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