メルボルン市の環境基金も120万豪ドル融資
おいしい話には裏がある。消費電力を劇的に減らせるエアコンの事業に投資すれば10倍の利益を約束する−−。オーストラリアでそんな投資話に元政治家や企業幹部らが乗せられ、日本円で合計1億円近い金額を騙し取られていた。10日付の公共放送ABC(電子版)が報じている。
これによると、サウス・メルボルンのスティーブン・ヒートン受刑囚(服役中)は2015年から17年にかけて、画期的な省エネ技術によって消費電力を減らせる産業用エアコンをオーストラリアの資源大手BHPに販売するとの事業計画を投資家に持ちかけ、合計97万5,000豪ドル(約9,250万円)を騙し取った。
これとは別にヒートン受刑囚は、BHPの炭鉱にエアコン100台を納品すると偽り、環境負荷の低い事業に投資するメルボルン市の公的基金「メルボルン・サステナブル・ファンド」から11万7,500豪ドルの融資を引き出していた。
騙された投資家のリストには、オーストラリアの財界では有名な以下のメンバーが名を連ねている。◇ロバート・ジョリー元ビクトリア州財務相、◇プロスポーツ「オーストラリアン・フットボール・リーグ」(AFL)の元有名選手でAFL会長や豪資源大手リオ・ティントの役員も務めたマイク・フィッツパトリック氏、◇米金融大手メリル・リンチのオーストラリア部門の元最高経営責任者(CEO)や中央銀行・豪準備銀(RBA)のエコノミストを務めたロバート・マゴワン氏、◇通信大手テルストラの首席エコノミストなどを歴任したジェフ・グランキッシュ氏、◇米建設大手ベクテルの上級副会長を務めたアンドリュー・グレイグ氏…。
試験機は稼働せず、契約書も偽造
ヒートンはまず、「IPハイブリッド」と呼ぶ発明を用いたエアコンの製造を手がける会社を設立。エアコンが取り入れる空気を事前に冷やすことで、電力消費と料金を大幅に減らせると主張していた。BHPとの間で、エアコンを無償提供してテストを行うとの口約束を結び、16年2月に試験機2台をクイーンズランド州にあるケイバル・リッジ炭鉱に納品した。
その1年前、ヒートンは気候変動対策に熱心なジョリー元州財務相に接近。BHPにエアコンを納品するとした署名入りの契約書を見せて信じ込ませ、ジョリー氏に出資させた上に、会社の会長に就任させた。ヒートンは同じ手口でフィッツパトリック氏やマゴワン氏、グレイグ氏らに近付き、「投資金額の10倍は儲かる」などと言って資金を集めた。手始めにエアコン100台、最終的には1,800台をBHPに販売するとの触れ込みだった。
ところが、ヒートンはBHPでのエアコンの設置に必要な電力計測器を納品せず、実際に試験機が稼働することは一度もなかった。納品の契約書も偽造されたものだった。ジョリー氏は17年4月に騙されたことを知り、会長を辞任している。
省エネ技術の特許はホンモノ?
後に詐欺罪で起訴されたヒートンは裁判で、①メルボルン市の基金から不正に融資を引き出したこと、②詐欺目的で不正に投資を勧めたこと、の2点の罪を認めた。裁判所は4月、禁錮6カ月の有罪判決を言い渡し、ヒートンは収監された。メルボルン市の基金から融資を受けた資金については、ヒートンの妻が全額を返済したとされる。
ただし、ヒートンの弁護側は合計約100万豪ドルの投資家の損失について「無視できる水準だ」と主張。エアコンの特許価値については今もなお裁判で係争中であるため、省エネ技術そのものについては詐欺ではなかった可能性も残されているという。
金を騙し取られて会長に祭り上げられたジョリー氏だが、省エネ技術の可能性については否定していない。ジョリー氏はABCに次のように述べている。
「エアコンのテスト結果にはムラがあり、結論が出ないままになっている。どれだけ効果があるかを確かめるには、さらに調査する必要がある」