中銀改革、政府との連携も課題に
9月18日に中央銀行・豪準備銀(RBA)の新総裁に就くミシェル・ブロック氏は、金融政策の司令塔として引き続き困難な舵取りを迫られる。ピークは超えたものの高水準にあるインフレを抑えつつ、昨年来の急速な利上げの影響で落ち込む景気をいかに軟着陸させるか。針の穴に糸を通すような「ナロー・パス」(狭い道)に針路を合わせる。誰がやっても楽ではない仕事をフィリップ・ロウ現総裁から引き継ぐ。
中銀改革の遂行も重要な任務となる。政府の勧告に基づき、RBAは先ほど、現在年11回(1月休会)開いている理事会の頻度を来年から8回に減らすかわりに、審議の時間を増やすことなどを柱とした改革を発表。金融政策の決定プロセスを「量から質へ」と転換する。理事会後の記者会見も新たに始め、市場との対話を重視する方向に舵を切る。
年8回の理事会頻度や会合後の総裁会見は、米連邦公開市場委員会(FOMC)や日銀も実施している「国際標準」。新総裁は政策をいかに分かりやすく国民に伝え、金融市場と対話できるか。意思疎通の能力も問われる。
財政・金融政策のスムーズな一帯運用を進めるには、政府との連携も課題となる。
RBAは他の主要先進国の中銀と同様、金融政策の独立性は担保されているものの、実質的なオーナーで総裁・副総裁の任命権を持つのは政府・財務相だ。現労働党政権は賃上げに積極的で、社会問題化している生活コスト高騰の対策として、低所得者層向けの財政支出も拡大している。一方、RBAは賃金上昇がインフレを高止まりさせる「賃金インフレ・スパイラル」を警戒。高インフレと賃金上昇、財政支出のバランスをめぐり、政府と中銀のスタンスの相違も表面化し始めている。
ロウ氏はコロナ対策で手柄も利上げで逆風
現職のロウ総裁は1期7年の任期を終えて退任する。ロウ氏も大学時代からRBAに出入りしていた生え抜きで、16年に副総裁から昇格していた。20年のコロナ感染拡大に際しては、ともにオーストラリア初となった実質ゼロ金利政策と量的緩和策を矢継ぎ早に導入した。手厚い休業補償など積極的な財政政策を実施した連邦政府と二人三脚で、コロナ禍の経済危機を乗り切った手腕は高く評価された。
ただ、経済再開や供給制約、ウクライナ戦争を背景に、想定外に進行したインフレを読み誤った。インフレを力技で抑え込むため、昨年5月から今年6月までの13会合のうち12会合で、政策金利を累計4.0ポイント引き上げるという、前例のない急激な利上げを断行。その副作用は家計の財布に打撃を与えており、ロウ総裁への世間からの風当たりは強まっていた。次期総裁人事をめぐっては、続投も有力視されていたが、そのカードが切られることはなかった。
ロウ氏は「ミシェル(・ブロック)の総裁任命を祝福する。現在進行中のインフレの試練と対決するとともに、中銀改革の勧告を実行するにあたり、RBAは最適任者に手に委ねられた。ミシェルの健勝を祈る」とエールを送った。
■ソース
Appointment of Reserve Bank Governor(Reserve Bank of Australia)