大麦に続きワインも禁輸解除の動き 中国で拘束の豪国籍ジャーナリストも帰国
オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は22日、11月4日から7日までの4日間、中国を訪問すると発表した。中国側の招待に応じ、北京で習近平国家主席、中国共産党序列2位の李強首相らと会談する。オーストラリア首相の訪中は、2016年のマルコム・ターンブル首相(当時=自由党)以来7年ぶり。
アルバニージー首相は声明で「豪中の貿易、社会、文化、ビジネスの関係は両国の利益に資する」と対中関係の重要性を強調した。その上で首相は、中国が最大218.4%もの高い関税を課して国内市場から締め出していたオーストラリア産ワインについて「中国との間で紛争解決に向けた合意に至った」と語り、輸出再開のメドが立ったことを明らかにした。
今年は、ゴフ・ウィットラム首相(当時=労働党)が1973年にオーストラリア首相として初めて訪中してから50年目。アルバニージー首相は「ウィットラム首相の歴史的な訪問は、今日まで両国に利益をもたらした外交、経済、文化の関係の基礎を築いた。ワインを含むオーストラリア産品の中国市場への輸入再開の動きを歓迎する。力強い貿易は両国に利益をもたらす」と強調した。
政権交代で雪解けも対中政策は是々非々
中国はオーストラリアにとって貿易相手国、輸出先ともに最大。2000年代からオーストラリア産の鉄鉱石や石炭などの資源・エネルギーの対中輸出が急増した。中国はオーストラリアの経済発展に寄与する「上客」であるため、豪中は蜜月関係にあった。しかし、2010年代後半以降、安保上の懸念や人権問題を背景に対中関係は悪化の一途を辿った。
両国関係の亀裂が決定的となったのは20年。保守連合(自由党、国民党)政権のスコット・モリソン首相(当時)が、新型コロナウイルスの起源に関する独立した調査を中国に要求すると、強く反発した中国政府はオーストラリアの一次産品8品目に次々と経済制裁をかけた。石炭、銅鉱石、牛肉、綿花、大麦、イセエビ、ワイン、木材の8品目について、反ダンピングの名目で高い関税をかけたり、通関を止めたりして、公式、非公式に輸入を禁止または制限した。
22年5月の連邦選挙の結果、アルバニージー氏の中道左派・労働党が9年ぶりに政権交代を果たすと、ペニー・ウォン外相、ドン・ファーレル貿易相が相次いで訪中するなど緊張が緩和。中国は今年1月にオーストラリア産石炭の輸入を再開し、8月には大麦の高関税も撤廃した。10月11日には、中国当局にスパイ容疑で拘束されていたオーストラリア国籍のジャーナリスト、チェン・レイ氏も解放され、帰国が実現するなど雪解けムードが熟成されていた。
“The Australian Government’s approach has been to cooperate with China where we can, disagree where we must and engage in our national interest. The outcome on barley reflects that approach.”
(8月4日、ペニー・ウォン外相=オーストラリア産大麦の高関税撤廃について)
ただ、アルバニージー政権は「中国と協力できる分野では協力し、反対すべき点については反対し、国益に沿って行動する」(ウォン外相)と是々非々で臨む方針。前政権に引き続き、実質的な中国包囲網である豪米英の安保枠組み「オーカス」(AUKUS)の下で原潜配備を進めるとともに、安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日米豪印戦略対話「クアッド」も重視している。以前のような豪中蜜月時代に後戻りする可能性は低そうだ。
■ソース
VISIT TO THE PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA, Media Release(Prime Minister of Australia)