外国人労働力は雇用に寄与 住宅価格以外はインフレ圧力にならず
オーストラリアの人口増加を支えてきた移民受け入れは、経済にどのような具体的影響を与えているのか−−。国際通貨基金(IMF)が様々なデータを定量的に調査した結果、学歴や技能の高い移民(注)がオーストラリアの労働市場に好影響を与えていることが分かった。一方、住宅価格上昇の要因とはなっているが、インフレを全体的に押し上げていていないことなども確かめた。
注:永住目的の移住者だけではなく、駐在員や留学生などの長期滞在者も含む広義の移民
「私たち移民はオーストラリア経済にいかに貢献しているのか①」より続く。
IMFは移民によるオーストラリア経済への影響を検証するため、移民増加と経済指標の相関性を調査した。過去に移民が増加した時期の全人口に占める移民の割合(4四半期の移動平均)を縦軸に、その後の実質国内総生産(GDP)成長率、インフレ率、失業率、就業者数の伸び率、賃金上昇率、住宅価格の6つの経済指標を横軸に示した散布図(上記グラフ)を作成し、それぞれの相関係数を算出した。コロナ禍の特殊要因を除外するため、2020年以降のデータは無視した。
このうち、移民増と実質GDP成長率の相関係数は「0.09」とややポジティブではあるものの、ほとんど関係がないことが分かった。報告書はこの結果について「移民によるマクロ経済へのインパクトを紐解くことは非常に難しい。非人道目的の移民、特にオーストラリアで多い留学生や高技能労働者は、より良い経済的チャンスを求めてやってくることが多い。しかし、移民が経済的チャンスを生み出す原動力になっているのか、あるいは既存の強い経済が移民を呼び込んでいるのか。それを特定するのは困難だ。移民増による経済へのインパクトから、経済成長がより多くの移民を呼び込んでいるという要因を取り除いて検証することは難しい」としている。
移民が経済成長をけん引しているのか、経済が良いから移民が来るのか。「鶏が先か、卵が先か」というわけだ。
一方、移民増と消費者物価指数(CPI)の上昇率の相関係数はほぼ「ゼロ」だった。移民の増加が物価高をもたらすと説明されることがあるが、少なくとも統計上はまったく関連がないとされた。ただし、移民増と住宅価格指数の上昇率の相関係数は「0.13」となり、一般的なインフレ率と比較すると、弱いながらも影響が見られた。
労働市場への影響については、明らかにポジティブな影響が確認された。移民増と失業率の相関係数は「-0.8」と強い相関関係があり、移民が増えるほど失業率が低下する傾向が強く見られた。移民増と就業者数の伸び率の相関係数も「0.45」とかなり強く、移民が増えると就業者数も増える傾向が見られた。
これらの指標は様々な経済的要因に左右されるため、移民増による影響のみを抽出することはできない。ただ、少なくともオーストラリアに関しては「移民が仕事を奪っている」といった批判は当てはまらず、むしろ新たな需要と雇用を創出する要因になっているようだ。
調査結果について報告書は「オーストラリアでは歴史的に、移民の増加と成長、雇用情勢の好転に関連性がある。住宅価格を除くと、物価上昇圧力は無視できる水準だ」と結論付けた。また、他国のデータと比較、検証した上で「(移民増は)住宅の購入をある程度難しくしている(住宅価格を引き上げている)が、これには構造的な供給不足によるところもあり、住宅供給を加速させることが最善の取り組みとなるだろう」と注文を付けている。
■ソース
Australia Selected Issues, MACROECONOMIC IMPACT OF MIGRATION(International Monetary Fund)