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インド太平洋地域における地政学的な競争の激化

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BUSINESS REVIEW

会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。

インド太平洋地域における地政学的な競争の激化

 インド太平洋地域は、21世紀におけるグローバル競争の中心舞台になりつつあります。今月は、インド太平洋地域における地政学的な競争の激化について解説していきます。

要点

  • 地域⼤国・ミドルパワーの関与が積極的なインド太平洋地域は、21世紀におけるグローバル競争の中⼼舞台となりつつあり、特に各国が軍事⼒を拡⼤する中で、安全保障をめぐる情勢は不透明感を増しています。
  • 新型コロナウイルス感染症によって国家競争戦略の重要性が高まったことも受け、各国政府は国家としての競争⼒の向上をますます重視し、戦略的に重要であるとされる産業では国内⽣産が奨励されると⾒られます。
  • 各国の政策によるサプライチェーンの再編の動きが既に⾒られ始めており、また政策介入に伴いテクノロジー、メディア、通信分野におけるデータ管理が複雑化するでしょう。
(写真提供=EY)
(写真提供=EY)

 インド太平洋地域は、21世紀におけるグローバル競争の中⼼舞台となりつつあります。新型コロナウイルス感染症による経済的な混乱がありながらも、2020年11月、世界最⼤の自由貿易圏を創出することになる地域的な包括的経済連携協定(RCEP)は、署名に至りました。しかし、各国が軍事⼒を強化する中で、安全保障情勢は不透明感を増しています。南シナ海や東シナ海、中印国境、台湾海峡などにおける地政学的緊張は、紛争化のリスクもはらんでいます。

 地域⼤国・ミドルパワーの関与が積極的になる中で、21年のインド太平洋地域の地政学的な競争は激化していくことになります。日本・米国・オーストラリア・インドによる日米豪印戦略対話(Quad)の活性化は、地域⼤国・ミドルパワーがインド太平洋地域政策に多国間で取り組む姿勢を⾒せた一例です。実際、当該枠組みによる首脳会談が実施され、ワクチン供給をめぐる協⼒についても合意されるなど、安全保障以外の領域での協⼒も推進されています。また、日本、オーストラリア、インドが発表したサプライチェーン強化構想(SCRI)は、今後、段階的な実施が⾒込まれます。

 同地域では、各国政府が自国の利益を優先する立場から、地政学的な戦略を形成しようとする傾向も⾒られます。日本の外交政策は、米国との同盟を主軸としながらも、多国間関係を形成する地域リーダーとしての役割を駆使したものとなるでしょう。日本政府にとって、経済外交は今後も優先事項であり、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の加盟国拡⼤に努めています。

 オーストラリアでは、中国との緊張関係を反映し、防衛能⼒の強化と国外からの投資に対する規制の厳格化が継続すると⾒られます。他方で、輸出への依存度が高い業界、不動産業界、⼤学からは、中国政府との良好な関係を求める声も出ているため、政府の方針が一定程度軟化する余地はあるかもしれません。

 インドは、日本やオーストラリアなどとの協調関係と米国との新しい安全保障協⼒を通じて、同地域での戦略的・外交的足場の⼤幅拡⼤を狙っていますが、保護主義的な政策の推進によって、経済面での地域への影響⼒は限定的となってしまう可能性もあります。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々は、RCEPなどの枠組みを通じた地域の経済統合の強化に取り組み、米中どちらかへの偏重を避けた中立の立場を維持すると⾒られます。ただし、南シナ海において活発化している中国の行動も含め、地域における中国の影響⼒の拡⼤にどう対応するかについて、加盟国間の不調和が⾒られます。また、中長期化が予想されるミャンマーへの対応をめぐっては、加盟国間並びに域外国との足並みのそろえ方において、難しい舵取りが予想されます。韓国も米中との関係でバランスを取ろうと試みていますが、日本との緊張関係は、同国の外交政策を一層複雑化させる可能性があります。

 インド太平洋地域を舞台とした勢⼒争いは、米中以外の関与によっても一層複雑化します。フランスやドイツは、それぞれ独自のインド太平洋政策を定めるなど、EUの国々における同地域での活動を活発化させています。

ビジネスへの影響

 政策の介入が成長・投資戦略に影響を及ぼすことになります。新型コロナウイルス感染症によって、景気回復に対する国家競争戦略の重要性が高まったことも受け、各国政府は国家競争⼒の向上をますます重視しています。医薬品や医療機器なども含む戦略的に重要であるとされる産業では国内⽣産が奨励されると⾒られるため、国内・国外企業共に、当該政府の政策に沿った貢献を示すことが求められるでしょう。

 各国の政策によるサプライチェーンの再編の動きが既に⾒られ始めています。各国政府によるサプライチェーンの国内回帰を目的とした政策は今後も継続すると⾒られます。22年以降と⾒込まれるRCEPの発効が実現した場合、参加15カ国に共通の原産地規則が新しく適用されることになります。これにより、「チャイナプラス」モデルに従い、RCEP域内でのサプライチェーン構築または移転開始が促進される可能性があります。同時に、南シナ海や東シナ海、台湾海峡における紛争が顕在化した場合、輸送に混乱が⽣じるかもしれません。国際貿易の⼤部分がアジア地域の海域を通過することから、この影響は多数の企業のサプライチェーンに及ぶと思われます。

 各国の政策によるサプライチェーンの再編の動きが既に⾒られ始めており、また、政策介入に伴うテクノロジー、メディア、通信分野におけるデータ管理が複雑化するでしょう。5Gワイヤレス・ネットワークが同地域全体に展開されるにつれ、経済のデジタル化が進み、新たな政治リスクが企業にもたらされる可能性もあります。中国のテクノロジー企業は、一部の主要市場で制限または禁止措置を科されています。広範な影響に目を向けると、デジタル・テクノロジー関連のシステム、標準規格、規制が各国間で統一されていないことから、越境データ・フローおよびデータ管理が複雑になると思われます。

サマリー

 インド太平洋地域は、21世紀におけるグローバル競争の中⼼舞台となりつつあります。地域⼤国・ミドルパワーの関与が積極的になる中で、21年のインド太平洋地域の地政学的な競争は激化していくことになります。これらの競争やそれに伴う政策介入のビジネスへの影響を評価し、戦略に取り入れていくことが重要です。

解説者

EYジャパン・ビジネス・サービス

EY Geostrategic Business Group/地政学戦略グループ

EYの地政学戦略グループは、世界情勢の変化がもたらすリスクと機会を反映させたビジネス戦略の策定を支援します。
Email: ey.jbs@au.ey.com

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