保険
Q
昨今の極端な気象状況の多発に伴い、弊社業務においても天候要因によって事業プランが立て難いケースが最近増えてきています。そういった業績のブレについて、保険手配することで軽減できるようなアレンジが最近あると聞き及びましたが、詳しく教えてください。(40代男性=会社員)
A
オーストラリアでは引き続き、干ばつによる水不足の状況が続いている一方、地域によってはサイクロンの発生や突発的な豪雨による洪水被害も散見されています。2019年後半から20年初頭にかけての山火事も煙害を含めて大変困難な状況が続いたのは、干ばつに一因があったとも言われております。また、気温の上昇も年々顕著な状況となり、歴代の高温記録のトップ10のうち8件は直近15年の間に認められています。
そういった極端な気象状況はビジネスを取り巻く環境にも影響を与え、従来の保険の仕組みではなかなかリスク転嫁が難しいケースがしばしば見られます。それを受けて、昨今では「パラメトリック保険」もしくは「デリバティブ」と呼ばれるアレンジに注目が集まっており、気象条件を対象とした天候保険もその一部として一般化しつつあります。
パラメトリック保険は、前述の通り特定の条件を満たすことで保険金の支払いがなされる保険です。ここでいう条件とは、トリガー・イベントとも呼ばれ、火山噴火、サイクロン、津波、地震などの大災害リスクや、風量、雨量、日照量などの天候リスク等です。一例を挙げると、一定の日数以上、決められた地点に、決められた量以上の降雨が認められた場合、というように事前に設定条件を決めておき、その条件が認められた場合には一定の保険金が支払われるという仕組みを構築します。
また、この保険の別の側面での特徴は、保険金の支払いが迅速に行われる点にあります。従来の保険では、事故が起きた際には査定人が状況を調査確認して、損害額を査定し、求償内容が保険契約の条件にどのように対応できるか、などの確認を受けて初めて原状復旧をさせるために保険金の支払いが行われますが、パラメトリック保険では保険金の支払いに必要な条件は、事前に取り決められたトリガーとなるイベントが発生したかどうかになり、また支払われた保険料の使用用途についても原状復帰に捕らわれず特に問われません。
こういった保険は大変新しい取り組みでもありますが、オーストラリアでも例えば極端な高温により作業ができない等の状況から発生する建築工事のプロジェクトの遅延リスクや、サイクロンの上陸に伴う港湾関係や鉱山関係の業務リスク、干ばつの影響を受ける農業関係のビジネス、また最近では風力発電等の再生可能エネルギー関連などにおいて適用しやすい商品です。
この保険を検討する際に重要なのは、トリガー・イベントを設定する際に信用できる十分なデータをいかにモデリングするかという点になります。その際のデータは客観性、透明性、一貫性を持っていることが求められ、オーストラリアでは気象庁(BoM)等の指針が利用されることが多いようです。ビッグ・データの活用が注目されている昨今、将来的には企業業務の安定化の一助としてより広く認知されていくことになるでしょう。
*オーストラリアで生活していて、不思議に思ったこと、日本と勝手が違って分からないこと、困っていることなどがありましたら、当コーナーで専門家に相談してみましょう。質問は、相談者の性別・年齢・職業を明記した上で、Eメール(npeditor@nichigo.com.au)、ファクス(02-9211-1722)、または郵送で「日豪プレス編集部・何でも相談係」までお送りください。お寄せ頂いたご相談は、紙面に掲載させて頂く場合があります。個別にご返答はいたしませんので、ご了承ください。
斉藤 大(さいとう だい)
エーオン・リスク・サービス・オーストラリア
ジャパン保険サービス部
世界最大手のリスク・コンサルタント会社豪州法人の日系専門部署で日々日系企業顧客の法人・個人保険アレンジ、事故処理などを担当