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歴史に名を刻め 2020東京アスリート「空手家 八尋恆存さん」

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第2回

4年に一度のスポーツの祭典「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」が日に日に迫る中、同大会への出場、
メダル獲得を目指しオーストラリアを拠点に奮闘を続ける、また来豪したオリンピック、パラ・アスリートをインタビュー。

空手家
八尋恆存(やひろつねあり)さん

Photo: Campbell Gribble
Photo: Campbell Gribble

武道の聖地で行われる五輪は必ず立ちたい夢舞台

技の意味を正確に表現する演舞である「形」と8メートル四方の競技場で2人の選手が1対1で戦う「組手」からなる空手が、2020年東京五輪で追加競技として行われる。そのうちの組手種目で、オーストラリア代表として五輪出場を目指す日本人空手家の八尋恆存さん。オーストラリア国内では圧倒的な強さを誇るという八尋さんに、空手との出合いから追加競技決定の際の思い、五輪に向けた意気込みまで話を伺った。(聞き手=山内亮治)

人生を変えた空手の追加競技決定

――八尋さんの生い立ちと空手との出合いについて教えてください。

元々は日本で生まれ、1歳でオーストラリアに移住し、この国での生活を始めました。空手と出合ったのは、自分が8歳のある日のことです。現地で空手を習っていたおじに突然、兄と一緒に車に乗せられて道場に連れて行かれたのが始まりでした。競技を始めてからは、道場主催の大会に出るようになりました。最初は負けてばかりでしたが、負けず嫌いな性格に火が着き空手にのめり込むようになったんです。一生懸命に練習を続け、16歳になったころにはオーストラリアの代表チームに入るまでになり、代表チームとして初めて出場したジュニア世界大会では3位入賞を果たしました。

この16歳で出場したジュニア世界大会が自分の競技における最初のターニング・ポイントになりました。というのも、初めて世界大会の舞台に立ってみて、世界のレベルの高さに感動したんです。それまでは、オーストラリア国内の試合で負けたことがなかったため、世界大会に出て初めて自分が井の中の蛙だったことを知りました。世界の頂点にたどり着きたいという気持ちが自分の中に芽生え、それ以降は更に貪欲に練習に励むようになったんです。

――オーストラリア国内及びオセアニアでの連勝記録を誇っていると伺っています。それはどういった記録なのでしょうか。

15歳からけがで欠場した大会を除き、オーストラリアの全国大会では全て優勝しています。全国大会は年に2回ありますが、連覇の回数で言えば「15連覇」になるでしょうか。国内では無敵と言える状態でした。

――競技人生2度目のターニング・ポイントは、2016年8月、空手が東京五輪の追加競技に決定した時ではないですか。

実は、この出来事の前、2016年辺りは深刻なスランプに陥り結果を出せていない時期でした。同年の世界大会の結果次第では現役引退を考えていました。特にオーストラリアにおいて空手はアマチュア競技で、平均的な現役引退年齢は20代後半、自分もその時期に差し掛かっていましたから。しかし、空手が東京五輪の追加競技に決まり、オーストラリアで空手をしている自分にも空手発祥の国で行われる特別な大会に出場できるチャンスがあるとなった時、これは運命だと思いました。東京五輪に出場できる可能性は決して低くなかったので、4年後に向けてもうひと頑張りしようと決意しました。空手が五輪の追加競技になっていなかったら、今頃は指導者になっていたと思います。

そして、2016年はもう1つ、自分をスランプから救う大きな出来事がありました。同年齢のフランス人で世界チャンピオンにも輝いた経歴を持つ知り合いが、オーストラリアに移住して来ました。彼が自分の道場のコーチに就任し、「一緒に五輪を目指して頑張ろう」と声を掛けてくれたんです。フランスは世界でも空手の強豪国の1つで、彼が練習方法をフランス式のものに変えたら、そこからまた調子が上向きました。振り返ると、自分にはこうした大きな変化が必要だったのでしょう。

東京五輪に向けた決断

――空手が追加競技に決まりましたが、一方で大きな変更がありました。世界空手連盟(以下、WFK)主催の世界大会には5つの階級が設けられていますが、五輪では一部の階級が統合され3階級になりました。五輪出場に向けて階級選択の決断に迫られたのではないでしょうか。

2016年からフランス人コーチとタッグを組んだことで、その後の競技人生は大きく変わった(Photo: Rowdy Partner)
2016年からフランス人コーチとタッグを組んだことで、その後の競技人生は大きく変わった(Photo: Rowdy Partner)
10代半ばで頭角を現すと、その後はオーストラリアで圧倒的な強さを誇っている(写真=本人提供)
10代半ばで頭角を現すと、その後はオーストラリアで圧倒的な強さを誇っている(写真=本人提供)

元々は67キロ級でしたが、五輪出場のために階級を1つ上げ75キロ級にしました。五輪での67キロ級は、60キロ級と67キロ級の2つの階級が統合された階級なので、それらの階級にいた選手にとっては選手層が厚くなり出場争いが厳しくなることを意味します。75キロ級はそのままで、最も階級の再設定の影響を受けていません。他には84キロ級と84キロ超級も統合され75キロ超級になりました。自分にとっては75キロ級が五輪出場に当たって最も可能性が高い階級だと考え、この階級変更以降、75キロ級で勝つための戦略を日々練っています。

――五輪への出場はどのような仕組みで決まるのですか。

五輪の代表選考については、WFK指定の大会に出場すると結果に応じたポイントが与えられ、その累計ポイントによって世界ランキングが決まり、2020年4月6日時点のランキングで上位4人までに入れば自動的に出場権が与えられます。次に、同年5月にパリで開催される五輪予選大会で各種目(形・組手の男女全8種目)の上位3人までに入れば五輪の切符を手にできます。そこで決まらなければ、各大陸に代表枠があり、オセアニアの場合は1枠だけですが指名を受けた選手が出場できることになります。この指名については、形と組手3階級を合わせた全4種目のうち、世界ランキングのポイントが一番高い選手たった1人が選ばれる仕組みになっています。

――八尋さんとしては20年4月時点の世界ランキングで上位4位までに入り、五輪出場を決めたいという気持ちですか。

現実的なところとしては大陸代表枠を狙っています。そのため、五輪のための世界ランキングが確定するまでに可能な限りポイントを多く稼ぎ、世界ランキング上位4人になれなくても、大陸代表枠争いにおいてリードできればと思っています。そうすれば、五輪本番に向けて集中的に練習できる状況になりますから。この方が、パリの五輪予選大会で上位3位を目指すよりも五輪出場の可能性が高いと感じています。今後、ポイントを可能な限り稼がないといけませんが、世界ランキング10位以内にいれば大陸代表枠は確実だと思います。

夢の舞台へ

――五輪出場をより確実にするために今後必要なことは何だと考えていますか。

まずは体力面での強化です。肉体改造をして更に筋力を付けていく必要があると感じています。技の完成度も高め、世界のライバルたちに勝つための研究も重ねていきたいと思っています。特に、空手では中東や欧州に強豪国が集中しており、有力な選手が多くいます。それらの地域では空手はプロ・スポーツ化されており、選手は勝って結果を残さなければスポンサーを得られずお金も稼げない状況にいます。そのため、彼らは命懸けと言えるほどに結果に対して貪欲で、意識が高いです。オーストラリアの選手はプロではありませんから、彼らとの戦いではその意識の差とも戦わなければなりません。いかに意識を高く持てるか、自分たちオーストラリアの選手にとっては気持ちの勝負も非常に重要な要素です。

また、2019年に関しては月に一度は海外の大会に出なければなりませんから、好不調の波を減らし、特に大事な大会には心身両面でコンディションを良い所に持っていく工夫もするつもりです。

――その強豪選手がひしめく五輪という舞台での具体的な目標は何でしょうか。

出るからにはメダルを狙います。五輪を目標にしてから、メダルの獲得を常に意識しています。ただ、その前にまずは五輪出場をしっかりと決めなければなりません。空手が東京五輪の追加競技に決まったことを「運命」と言いましたが、出場できて初めて東京五輪が運命の大会となるのだと常に自分に言い聞かせています。空手で五輪に出ることは自分にとって一番大きな夢ですから、あとはそれを自らの力でつかむだけです。全ては自分次第です。

また、東京五輪で空手競技は武道の聖地とも言える「日本武道館」で行われます。空手をする者にとって、武道の聖地でしかも五輪という特別なステージはまさに夢舞台ですから、その舞台に立つことを想像すると楽しみで仕方ありません。


八尋恆存(やひろつねあり)
 1987年に日本で生まれ、1歳を過ぎたころにオーストラリア・シドニーに移住。8歳になったころおじの影響で空手(組手)を始め、16歳でオーストラリア代表としてジュニア世界大会に出場し3位入賞。15歳から出場したオーストラリアの全国大会では15連覇を達成。階級は67キロ級だったが、東京五輪での階級再設定により現在は75キロ級に階級変更、同階級での五輪出場を目指している

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