税務&会計 REVIEW
EYジャパン・ビジネス・サービス
雇用関連税務・個人所得税申告
新井泰弘
プロフィル◎EYシドニーのピープル・アドバイザリー・チームでシニア・コンサルタントを務め、日系企業の窓口を担当。豪州の税務全般と法人会計管理業務の経験があり、特に個人所得税申告や雇用関連税務の知識、経験が豊富
フリンジ・ベネフィット税(FBT)申告を控えて
今年もFBT課税年度の最終日となる3月31日が迫り、FBT対象となる企業にとって申告の準備による繁忙期が近付いてきました。昨年度と比べ、2019年度のFBT申告に関する規定には大幅な変更はなく、FBT計算のためのグロス・アップレートや税率にも変更はありません。しかし残念ながら19年のFBT申告の準備が例年と比べて容易になったというわけではありません。今月号ではFBTの概要、準備に役立つ情報と最新情報をご紹介します。
FBTとは
FBTとは、現金以外のベネフィットや特定の現金手当を従業員や親族などの関係者に支給した場合に雇用主に課せられる税金です。
FBTの主な目的は、各従業員が雇用主よりフリンジ・ベネフィット相当額を金銭で受領した場合に個人所得税によって課税されるはずのベネフィットについて、そのベネフィットを支給した雇用主に対し課税することです。FBTが一見懲罰的な税金と思われるのはこのためで、実際支給したベネフィットとほぼ同額がFBTとして課せられることが多くあります。
オーストラリアは世界で最も厳格なFBT政策を採用している国の1つであり、広範囲にわたるベネフィットを課税対象とし、時には間接的に支給されたベネフィットにも適用されます。日系企業が一般的に支給しているFBT対象ベネフィットは以下のようなものがあります。
- 従業員による私的利用が可能な社用車の支給
- 就業時間中に従業員へ提供される駐車場スペース(会社敷地内外問わず)
- 特定の費用負担や現物・サービス支給(例:経費の立替精算)
- 市場レートを下回る利子のローン、返済免除(特に給料が誤って過払いされた場合に発生)
- 交際費(ゴルフや会食を含む)
- 出向や駐在員手当(例:家賃、光熱費など)
- 個人所得税申告で雇用主が代わりに支払った納税額
FBTの計算について
FBT算出に当たり、まずは課税対象となるベネフィット額に対しグロス・アップ率を適用します。2019年FBT課税年度のグロス・アップ率及び税率は表の通りです。
数値 | 対象額 | |
---|---|---|
タイプ1グロス・アップ率 GST仕入税額控除が可の場合 | 2.0802 | 課税対象ベネフィット額(GST込) |
タイプ2グロス・アップ率 GST仕入税額控除が不可の場合 | 1.8868 | 課税対象ベネフィット額 |
FBT税率 | 47% | グロス・アップした課税対象額 |
FBT申告における課題
FBT規定には多種の免除規定、優遇措置や評価法・計算方法があり、またフリンジ・ベネフィットの種類も多く、適切なコンプライアンス対応を行うに当たりかなりの労力を要することになります。一般的によく見られるFBTの課題を以下に説明します。
少額ベネフィット免除の適用
少額ベネフィット免除は、ベネフィットが1回当たり300豪ドル未満、かつ支給がまれで不規則な場合に適用することができます。この免除適用の判断は時には難しい場合があります。例えば、従業員が取引先と1人当たり300豪ドル未満の会食に参加した場合でも、会食費は少額であるだけではなく「まれで不規則」であるという条件を満たす必要もあるので、FBT年度内に同従業員がその他の会食に何回参加したか確認する必要があります。
データの取扱い及び記録の保管
他の税務申告と違い、FBT申告書の作成にはさまざまなソースからデータを収集する必要があります。FBT申告業務の担当者は給与関連情報以外にも買掛金勘定や車の日誌などからのさまざまなデータを精査し、ベネフィットによっては従業員の宣誓書、雇用主の計算方法選択書を手配する必要もあります。必要書類がそろわなければ、雇用主のFBT負債額が大幅に増えることもあります。またデータは、5年間は保管しなければなりません。
申告期限
雇用主は、FBT年度末である3月末から2カ月未満という短期間の間にFBT申告を完了する必要があります。2019年度のFBTに関しては5月21日までに申告及び納付を終えている必要があります。タックス・エージェントを利用する場合は、納付期日を5月28日、そして申告期日を6月25日まで延長することが可能となります。
ATOによる監視強化
ATOは現在ITシステムの改善及びプロセスのデジタル化を推進しており、これによりFBT申告書内容を保持する各種のデータと比較したり、同業他社のデータとのベンチ・マーキングを行うことで、簡単に異常値を特定することが可能となっています。この分析次第では税務調査につながることもあります。
FBTの税務管理について
FBTの税務手続きを的確に管理するために、役立つポイントをご紹介します。
- チェック・リストの作成:FBT申告書作成に必要な情報源(給与台帳や買掛金勘定など)のチェック・リストの作成及び毎年更新することで、申告漏れなどのリスク削減が可能
- 関連書類の保管:FBTに関する詳細書類(免除規定適用の根拠を説明する資料や宣誓書など)を保管することで、仮に人事交代後に税務調査があったとしても過去の経緯に関する資料が保管されているため、ATOへの対応に支障がない
- 業務の分散:四半期ごとなど年間を通して定期的にFBT 関連データ収集とレビューを行うことで、FBTコンプライアンス対応によるストレスの軽減が可能
- タックス・エージェントの利用:FBT申告書の作成またはレビューをタックス・エージェントに代行してもらうことで、FBTに関する免除措置、優遇措置を特定することが可能となり、申告期限の延長も可能
新しいテクノロジー、FBTロボティックス
上記のポイントに加え注目すべきことは、FBT申告対応に関するテクノロジーの発展です。ATOがデジタル化を大幅に進めているように、EYのようなプロフェッショナル・サービスの提供者も、FBT申告に必要な大量の情報を瞬時に処理できるAIを駆使したロボティックスなど、次世代のテクノロジーへの投資、開発を行っています。これらのテクノロジーは、FBT申告の準備に掛かる時間を大幅に削減し、プロセスを簡略化することを可能とします。例えば、記帳や買掛金勘定などのファイルから自動的にFBT申告の対象項目を選出し、即座にレポートを作成することもこれらのテクノロジーを駆使すれば可能となります。また大量のデータの中から、FBTの免除規定対象項目や優遇措置対象項目などを洗い出すことも可能となります。
シングル・タッチ・ペイロール
これまでFBTに関するデータの質や管理の重要性についてお話をしましたが、給与関連でもこの点は重要となってきています。
昨年の7月より、ATOはオーストラリア国内で従業員20人以上を抱える雇用主に対し「Single Touch Payroll (STP)」というスーパーアニュエーションを含む詳細な給与情報をリアルタイムで開示することを義務付けています。ただ対象となる雇用主の多くは給与システム導入の遅延を理由に、STP導入期日の延期を申請し認められているのが現状です。STPの導入により各企業のコンプライアンスやレポーティング・コスト削減が見込まれるというメリットがあるものの、ATOがタイムリーに詳細なデータを入手することにより、給与関連の法令違反や支払いの不足分を即座に特定し、罰金を課すことが容易になるというデメリットもあります。またSTP導入により、ATOはFBTを含む他の税務調査にも活用可能な情報を更に多く入手することになります。
STPは2019年7月より、従業員19人以下の雇用主にも義務付けられます。
※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。
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