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2018年企業報告調査から得られたグローバルトレンド

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税務&会計 REVIEW

EYジャパン・ビジネス・サービス
監査パートナー
石川達仁

プロフィル◎オーストラリア勅許会計士・公認会計士(日本、米国)。東京、ニューヨーク、ロンドンのEYでグローバル企業に対する会計監査及びアドバイザリー業務に通算20年以上の従事経験を有する。シドニーでは日系企業を中心に幅広い業種の会計監査に関与している。

2018年企業報告調査から得られたグローバルトレンド

2018年にEYの財務会計アドバイザリー・サービス(FAAS)部門は、大企業に勤務する1,000人を超える財務責任者を対象に、企業報告をどのように変えていくべきかについて調査を実施しました。今月号では、この企業報告調査で得られた分析結果及び知見をご紹介します。

今日、組織は企業報告の透明性を早急に向上させる必要に迫られています。これが実現すれば、信頼の確立と、長期的価値創造への道のりの説明責任を果たすことに役立つでしょう。そのためには、見過ごされていたデータを活用し、それを戦略的資産に変質させていく必要があります。ただし、このようなチャンスをつかみ損ねている組織が多い、というのが実情です。

組織が企業報告のためのデータを最大限に活用する際、財務責任者が検討すべき重要な課題は以下の3つです。

  1. 価値志向の企業報告を実現するために、企業報告自体の見直しを図る
  2. 人工知能とスマート技術を最大限に活用する
  3. 財務チームのトランスフォーメーションにおける社風面での障壁を克服する

財務責任者は、上の3つの課題に取り組むことにより、容易に計測可能なものを報告することにとどまらず、資本市場の利害関係者が長期的な価値をもたらす要因を理解するために必要とする情報を提供できるようになるはずです。財務責任者は、この透明性をもたらすことにより、社会への信頼回復に寄与できるのです。次に、3つの課題を詳しく説明します。

1. 価値志向の報告を実現するために、企業報告自体の見直しを図る

企業と資本市場は、信頼される適切な企業報告制度によって支えられています。企業報告により、企業の評判が支えられ、企業経営者の行動に対する市場の信認が構築されます。

しかし、企業報告の有効性は脅かされています。その1つの要因は、企業と社会の間で信頼のギャップが広がっていることです。EYによる今回の調査によれば、財務責任者のうち、企業が高く信頼されている、と回答している割合は58%に過ぎませんでした。

社会からの信頼回復、そして長期的価値創造への道のりを利害関係者に示すためにも、財務部門は以下の2つの優先課題に取り組む必要があります。

  1. 企業の業績をより明確かつ首尾一貫した形で説明すること
  2. 財務報告と同レベルの精度で非財務情報を集計し公表すること

今回の調査によれば、非財務情報についても第三者による保証を得ている企業ほど、自社の企業報告が信頼を得ていると考えている割合が高いことが明らかになっています。

2. 人工知能とスマート技術を最大限に活用する

組織とその財務部門は、コンピューターの処理能力向上、ネットワーク化、クラウド化によるストレージ容量の向上により、かつてないほど多くのデータを扱っていますが、数多くの財務部門と広報部門は、そのデータの数量の多さと種類の豊富さに圧倒されています。今回の調査では、財務責任者の約半数(49%)が、「データについては、分析よりも収集と処理に時間を掛けている」と回答しています。

人工知能(AI):データからの考察を利用する

今回の調査では、財務責任者の4分の3近く(72%)が、データ志向の高い情報を入手する方法としてAIが重要な影響を与え、将来の財務業務においてAIが重大な技術になると回答しています。また、財務責任者は、ロボットによる業務自動化(RPA)、AI、ブロックチェーン・ベースのツールという3種類の技術の重要度をランク付けに対し、今回RPAをトップに挙げましたが、5年後はAIがトップになると予想しています。

財務責任者は、財務業務でAIをどのように利用するかについてだけ考えれば良いわけではありません。投資家などの利害関係者が企業報告の分析に当たり、AIをどのように使用しているかについても考える必要があります。これは、AIのお陰で、以前なら考えられなかったような方法で、投資家が企業の財務情報を解析できるようになったためです。

3. 財務チームのトランスフォーメーションにおける社風面での障壁を克服する

価値志向の企業報告には、財務チームが新技術を採用することが求められるだけでなく、異なるタレント・プロファイルとスキル・セットも必要とされます。

今後の財務業務には、財務や会計に関する従来型のスキルを超えた、多様で新しい能力を備えたチーム・メンバーが求められるでしょう。この多様で新しい能力には、AIなどの新技術を戦略的に取り入れることや、データ・サイエンスや高度な統計処理などの分野の知識を持つことなどが含まれます。

非財務情報と財務情報の相互関連性を、チームが理解して計測する際に力となれる人材は、貴重な存在となります。そうしたスキルには、非財務情報のニュアンスを把握し、組織内のさまざまな人的・物的資産の間にある相互関連性を理解することが求められます。

業務のタレント・プロファイルを見直す必要があることを、財務責任者は理解しています。今回の調査に回答した財務責任者のうち、大多数(79%)が、財務には新たなスキルを持った人材を早急に採用する必要がある、と回答しています。

しかし、方針転換を推し進めることには時に困難が伴います。確立した社風や、変化への抵抗感が、新たな取り組みに歯止めをかけることもあります。今回の調査では、財務責任者の63%が、「財務部門内にある抵抗と社風面での障壁こそが、デジタル革新に対する障壁になっている」と回答しています。

今後の道のり

信頼とは、築くのは一生で、失うのはあっという間です。信頼回復が数多くの要因に左右される一方で、企業報告は極めて重要な役割を果たすことができます。

財務部門は、豊富で多面的なデータにアクセス可能となった現在、それを企業報告に積極的に活用することができます。デジタル技術と解析スキルを使用することで、企業報告の質を高め、それにより、利害関係者が企業のビジネスをより理解すると共に、企業自体の長期的な価値を支えることができます。

企業報告がこの役割を果たせるようにするために、財務責任者が検討すべき今後のアクションは以下の3つです。

  1. 企業報告と透明性向上へのアプローチを、同業他社と比較し理解する
  2. 新技術の進歩を財務部門がどのように利用できるかについて、説得力があり、かつ現実的なビジョンを創出する
  3. データを取り巻くリスク(個人情報の漏洩など)とチャンスのバランスを取る

まとめ

組織は、企業報告の透明性向上に早急に取り組む必要に迫られています。この透明性が確立されれば、企業の信頼性が向上すると共に、見過ごされていたデータを活用し、それを戦略的資産に変えていくことによって、企業の長期的価値創造への道のりを説明するという社会的責任を果たすことができるのです。

信頼の回復を進めるために、企業は新技術を利用しデータ収集と分析を行い、従来型の会計スキルを超える新しい能力を採用することにより、価値志向の高い企業報告を実現する必要があります。


EYジャパン・ビジネス・サービスのウェブサイトはこちらから
www.ey.com/AU/en/JapanBusinessServices

コンタクト

石川達仁(シドニー)
Tel: (02)9276-9339
Email: tatsuhito.ishikawa@au.ey.com

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