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法律相談室/オーストラリアの人身傷害賠償請求制度

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知ってると知らないでは大違い!
日豪プレス 法律相談室

第59回 オーストラリアの人身傷害賠償請求制度

オーストラリアの幾つかの州を訪れたことがある人なら、景観、文化、気候などが州ごとに違うことはご存知でしょう。オーストラリアでは人身傷害に関する賠償請求制度についても、州ごとに異なります。今回はオーストラリアの5つの州(NSW、QLD、TAS、WA、VIC)における自動車事故に関する賠償請求制度の特徴を簡単に説明したいと思います(備考:損害賠償や労災に関する賠償請求に関しても、州ごとに適用される法律が異なる)。

これら全ての州において賠償請求は、相手個人ではなく、その相手(車両)をカバーする保険会社に対して行われます。その保険会社は州によって、一般的な民間保険会社や政府運営の組織であったりします。人身傷害に関する賠償請求に対して備えられている資金は、車の所有者に対して1年ごとに更新・支払いが義務付けられている車両登録費と一緒に強制的に徴収した保険料です。5つの州全てに共通して言えるのは、事故で負ったけがの早期治療・リハビリ、早期回復に力を入れているため、治療・リハビリ費が保険会社からすぐに支給されることです。しかし、事故の被害者に過失があった場合、QLD州では基本的に治療費は出ないと考えてください。一方、NSW州、TAS州、WA州、VIC州では、被害者の過失の有無に関わらず治療費が支払われます。

一連の治療の終了後、後遺症が確定するまでには、およそ12~18カ月掛かると言われています。そうしたことから5つの州では、その時期に達してから適切な賠償金額(特に、将来の予想逸失所得や治療費など)の算出が行われます。

けがによる障害・後遺症が確定すると、QLD州、WA州、TAS州では、当該交通事故に関して被害者に過失がなかったことを証明する必要があります。それをせず、被害者が負った痛みと苦痛、所得損失、治療費などの費用に対する賠償請求はできません。しかし賠償請求可能な項目や、手続きを進める際のプロセスについては比較的緩やかな制度となっています。一方、NSW州とVIC州の制度は、何に対して賠償請求できるかがより厳しく複雑で、いわゆる、むち打ち症(障害度10%以下/参考:片脚切断の障害度が50%と言われている)では、賠償請求を進めることができません。NSW州では、事故原因に関して被害者に過失がない場合、けがの深刻さによって、後遺症に対する賠償請求が可能かどうかが決まります。同様のルールがVICにもありますが、こちらでは被害者の過失の有無の証明は不要です。また、NSW州とVIC州で被害者に過失がなかったと証明できた場合、所得損失も賠償請求可能で、更にけがが深刻であった場合には個人的痛み・苦痛に対しても賠償請求できます。


ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として25年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。

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