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VIC州在住者は安楽死の選択が可能に、そのほかの州はいかに?

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法律

Q

70代になり終活を考えるようになった矢先、VIC州では安楽死の選択ができるようになり、先日その最初のケースが報道されました。私はNSW州在住ですが、他州在住者でもいずれこのような選択ができるのでしょうか。(70代男性=会社員)

A

日本では終末期患者の苦痛軽減を目的とする自死措置を包括的に“安楽死”と呼ぶようですが、厳密には措置によって呼称が異なります。例えば医師が主体となって致死量の薬物を投与する場合や、自らが死に至る薬物を摂取する場合、または延命治療を拒否する場合も、全て日本では安楽死という呼称が使われていますが、今回VIC州で選択できるようになったのは、「Voluntary Assisted Dying=VAD」というもので、「医療的幇助自殺」や「医師介助自殺」などと訳されます。

VADはスイス、オランダといったヨーロッパの一部の国では既に合法となっていましたが、オーストラリアでも2017年にVIC州が他州に先駆けて、VADを合法としました。「The Voluntary Assisted Dying ACT(2017)」は、19年6月19日に施行され、同年7月15日に最初のVADが行われたことでニュースでも話題となりました。

VADが合法となったからと言っても、誰でも簡単にVADを選択できるわけではありません。VIC州でVADを希望する為には、実に68の項目を満たすことが条件となっています(19年8月時点)。その項目には以下のようなものがあります。

  • 病気が不治かつ進行性の病であり、本人が耐え難い苦痛を受けていること
  • 余命が6カ月以内である旨を最低2人の医師から診断されること(神経変性の病の場合は余命が12カ月以内の診断)
  • 18歳以上の成人で、VI C州に最低12カ月居住していること
  • VAD申請の時点で本人に判断能力があること※精神疾患を持つ者の場合、精神疾患を理由としたVADは認められないが、上記の全てを満たしている場合にはVADが可能

VIC州政府は今後VADを選択する人は年間100~150人ほどになると予想しています。その結果、VIC州では既に89人の医師がVADのトレーニングを受けており、また州内全ての地域の公立医療機関に、最低1人のVAD専門の査定者が登録されるようになるという計画が19年6月の時点で発表されています。

他の州ですと、例えばWA州、QLD州では、同様の法律についての審議が18年から始まっています。よってこの2つの州でもここ数年の内にVADが合法化されるかもしれません。SA州、NSW州では、既にVAD合法化について16年と17年にそれぞれ審議されましたが、その時点では両議会とも「合法化しない」選択をしました。したがってNSW州在住の質問者には、NSW州でVADが合法化されるまでは「Advance Care Directive」という書類を作成することをお勧めします。この書類は、本人の判断能力がある内に、自分の最期に延命装置を含めてどのような治療を受けたいか・受けたくないかを明記するものであり、現時点ではVADに一番近い選択肢と言えるでしょう。

医療技術が進み寿命が延びている昨今、本人が自らの意志で自分の最期を選べるVADは実に興味深いテーマであり、国内での先駆者であるVIC州の動向にはこれからも注目が集まることでしょう。

なお、本記事は、法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。

*オーストラリアで生活していて、不思議に思ったこと、日本と勝手が違って分からないこと、困っていることなどがありましたら、当コーナーで専門家に相談してみましょう。質問は、相談者の性別・年齢・職業を明記した上で、Eメール(npeditor@nichigo.com.au)、ファクス(02-9211-1722)、または郵送で「日豪プレス編集部・何でも相談係」までお送りください。お寄せ頂いたご相談は、紙面に掲載させて頂く場合があります。個別にご返答はいたしませんので、ご了承ください。


山本 智子(やまもと ともこ)
Yamamoto Attorneys

1998年NSW大学卒業(法学士・教養学士)。同年弁護士資格取得。1998年より数々の法律事務所での経験を重ねた後、「Yamamoto Attorneys」を設立、現在に至る

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