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スーイー・マッケナリ―(Suey McEnnally)の「‘Wetlands’ Triptych」

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ルーシーのアート通信

オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。

第14回 スーイー・マッケナリ―
(Suey McEnnally)

「‘Wetlands’ Triptych」

‘Wetlands’ Triptych, oil pastel and pigment on 300gsm Montvale rag paper, 150 cm x 150 cm (each)
‘Wetlands’ Triptych, oil pastel and pigment on 300gsm Montvale rag paper, 150 cm x 150 cm (each)

オーストラリアNSW州を拠点に活動するスーイー・マッケナリ―は、数々の受賞歴を持つオーストラリアを代表するアーティストの1人だ。クレヨンや天然由来の顔料を使った風景画を数多く描いており、柔らかな色合いの繊細な作風で多くの人に愛されている。今回紹介する作品も縦横1.5メートルの絵を3つ並べたものとなっているが、その作品の大きさも特徴の1つだ。

彼女は作品を描く用紙にも強くこだわっており、フランス産の中性紙(モントベル・ラグ・ペーパー、330gsm)を使用している。それによって作品の劣化を防ぐことが可能となる。光に満ちた印象的な作品は、上質な紙に描かれることで、更に豊かな質感を得て、これまで多くの人を魅了し続けてきた。

作品に落とし込まれる対象物も時にユニークだ。彼女は非常に直感的で、周囲を見渡し、その時に目で見たものをそのまま作品に落とし込む。印象派の作風でありながら、例えばある作品ではその風景の中にヘリコプターが描かれていたこともある。柔らかな雰囲気の周囲の風景と、ヘリコプターという人工的な形状の対比は非常にシュールだが、それもまた彼女の作品のユニークな点と言えるだろう。

モネを想起させる美しい空の風景にヘリコプターを配置する理由をスーイーに尋ねてみたことがあるが、端的に「あの日、あの時に見たから」という答えが返ってきた。彼女は直接その時に見たものを描いているだけであり、そこに政治的なメッセージがあるわけではないのだ。

今回、紹介する「‘Wetlands’ Triptych」は、オーストラリア北部準州・ノーザン・テリトリーのカカドゥの湿地帯を描いた作品だ。ノーザン・テリトリーは熱帯性気候で、雨季と乾季がはっきりと分かれており、乾燥した砂漠、湿った森や湿原、2つの顔を併せ持っている。

水不足が懸念されるオーストラリアにおいて、湿地は非常に重要なエリアだ。その湿地をスーイーは、青、緑、金色を使用することで印象的に描き出している。クレヨンと顔料の発光特性を生かすことで、水と植物の浮遊感を表現し、鑑賞者の想像力に働き掛けている。

スーイーは、エコ・アンド・ハンターズ・ヒル・アート賞の受賞者であり、2012年にはパディントン・アート・プライズのオーストラリア風景画部門で賞を獲得している。その他、AGNSWのドーベル&スルマン賞、マイニング&カントリー・エナジー賞など、多くの名誉ある賞のファイナリストに選出されるなど、その活躍はとどまるところを知らない。

Web: http://suey-mcennally.com
Instagram: @sueymcennally


ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート並びにグリフィス大学でファイン・アートの美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、QLD州のサウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Web: www.lmcuratorial.com / ■email: lmcuratorial@gmail.com
■Instagram: @lmcuratorial

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