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森歩きの楽しみ⑦ ネイティブ・ローレル

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タスマニア再発見

No.135 森歩きの楽しみ⑦ ネイティブ・ローレル
文=千々岩健一郎

タスマニアももう夏の入り口。夏になっても光の入らない湿ったレインフォレストの中で咲く花は少ないが、この春の終わりの森歩きで出会えるのがネイティブ・ローレル(Native Laurel)だ。この限られた季節だけにレインフォレストの下部で可憐な花を付ける。「野生の月桂樹」という意味だと思うが、月桂樹とはだいぶ異なるかなり大型の葉を付けた灌木で、表面に光沢のある葉は他には見当たらないのですぐに分かる。

可憐な花を咲かすネイティブ・ローレル
可憐な花を咲かすネイティブ・ローレル

花は釣り鐘を立てたような総状花序で、樹高数メールの先端部分から伸び上がるようにして咲く。1つの花序に6弁の白色の花を多数付けるが、ピンクがかった色合いがなかなか良い。つぼみの時はピンク色が強く、咲き始めにはピンクがかった白色になり、やがてピンクの色は消えてしまう。香りが強く、昆虫やミツスイ(鳥の仲間)たちもやって来る。1株にそれほど多く花序を付けず、お日様を求めて森の中で懸命に伸び上がり、木漏れ日が届く高さに到達した所だけ花ができるようだ。シダ類やマートル・ビーチの生い茂る暗い森で、突然登場して出合えるのがうれしい。

タスマニア固有の植物の中でもかなり珍しく、タスマニアの南部と西部のみにしか存在しない。分類上のエスカロニア科というファミリーは、ゴンドワナ起源の由緒あるものらしい。また「Anopterus」という属はオーストラリアにのみ、しかもこのネイティブ・ローレルを含めて2種類しか存在しない希少な植物の仲間である。クレイドル・マウンテンのダブ湖周遊サーキットにあるネイティブ・プラムと葉がよく似ていて間違えやすいが、種も属も異なる別物だ。

ホバートから最も近い所で見つけようとすればマウント・フィールド国立公園だが、入り口辺りのラッセル滝のウォークでは見当たらず、上部のドブソン湖につながる未舗装道路を登っていく途中の道路際に登場する。道路に面した日の当たりやすい所に顔を出すようだ。同様にハーツ・マウンテン国立公園のワラタ展望台に向かって登っていく道路際にも咲いている。近くのエア・ウォークの森にも多数生息していたが、昨年の山火事で焼失し閉鎖になった。ひょっとしたらこの場所で再生するのは難しいかもしれない。

もし西海岸まで足を延ばせば、クイーンズタウン近くのネルソン滝の自然歩道が良い。西海岸の港町ストローンのホガース滝に続く遊歩道は、宿にも近くとても観察のしやすい場所だ。


千々岩 健一郎
1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うと共に、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手掛けている。北海道大学農学部出身。

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