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森歩きの楽しみ⑦ トルコ石のユリ

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タスマニア再発見

No.136 森歩きの楽しみ⑧ トルコ石のユリ
文=千々岩健一郎

森歩きの楽しみももう8回になってしまった。年も明けたのでそろそろ打ち止めにしたいと思う。最後に小さくて地味だけれど、なかなか素敵なトルコ石の実(Turquoise Berry)と名付けられたユリの仲間を紹介しよう。

ユリと言えば夏の花の代表だが、タスマニアのクリスマス・ベルのような派手な存在ではなく、湿ったユーカリの森影で可憐に花を付ける高さ15センチ程度の小さな花である。ユーカリや南極ブナの木の根っこの周辺にある地下茎から毎年春先に芽を出し、伸びた茎から数枚の穂状の葉を付ける。夏になるとその葉の下側に6弁の白い小さな花をいくつか付けるのだ。その花の付く様子から、実はもう1つの名前がある。Native Solomon’s Sealがその別名だが、Solomon’s Sealと言えば、日本の鳴子ユリのことで、その野生版というわけだ。確かに長く伸びた茎と葉の下側に花が連なって咲く様子はよく似ているかもしれない。しかし、他の花と比較すると、よく似ているのはむしろ稚児ユリではないだろうか?実際にはチゴユリとは属もファミリーも異なる植物なのだが、その小さな花の姿も花の後に実を付けるところもよく似ている。

トルコ石のユリ
トルコ石のユリ
4月ごろに成る美しい青い実

4月ごろに成る美しい青い実

夏の湿った森歩きの途中では、足元の左右を注意しながら歩いてほしい。目立たない場所でこの可憐な花が見つかるはずだ。同じような環境では、ランの仲間のバード・オーキッドや緑のフードを被ったグリーン・フード・オーキッドなども見つかるかもしれない。

ホバート周辺ではウェリントン山麓。登山口がスタートするFern Treeから標高720メートルのThe Springsの間の辺りは適度に湿り気があって花の付きも良いようだ。クレイドル・マウンテン周辺ではあまり見かけないが、やや標高の低いセントクレア湖側では湿った湖岸ウォークでよく見かける。湿った森であれば、タスマニアでは広く見られる存在なようなので、12月から1月の森歩きではぜひ注目していただきたい。

さて、今回のタイトルに謳ったトルコ石の話だが、花の終わった秋4月ごろに、うつくしい青い色の実を付ける。“Turquoise Berry”の名前のゆえんだ。実の付いた方の写真は西海岸ストローンのゴードン・リバー・クルーズの途中に立ち寄ったサラ島で見つけたもの。限られたところにしか黄葉が見られないタスマニアの秋の森歩きでは貴重な存在かもしれない。


千々岩 健一郎(ちぢわけんいちろう)プロフィル
1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うと共に、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手掛けている。北海道大学農学部出身。

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