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アイデンティティーの交錯「カナダ人であり日本人であるということ」─BioRender設立者・CEO シズカ・アオキさん

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世界各国の日系メディアと協業しインタビューを敢行!
世界で活躍する日本人ビジネスマン

 ジョンズ・ホプキンズ大学の大学院やナショナル・ジオグラフィックでの長年の経験から、科学者向けのイラストレーション・ツールを国を超えて提供しているシズカ・アオキさんは、日本の文化や影響が起業に繋がった部分も大きいと話す。自身のアイデンティティーについての話から、会社を立ち上げるまで、そして今後の夢について話を伺った。 取材:『TORJA』

――小さいころに日本からカナダに移民されたそうですね。

 東京で生まれて、2歳の時にカナダに移住しました。幼かったのであまり日本での思い出はありません。とはいえ、いとこや祖父母、親戚に会いに頻繁に日本へ行く機会はありました。小さいころの一番好きな思い出といえば、やはり両親の経営するレストランでの時間ですね。両親はレストランでの仕事に全力で、いつも繁盛させようと頑張っていました。店を開いて37年近く経ちますが、コミュニティーに愛されていると感じていますし、もはや地域のレガシーになっていると思っています。

――そのようなご両親から学んだことも多いのでしょうか。

 父のビジネスと私のビジネス・モデルは完全に違うものですが、私が日々実践しているビジネスの基本は、製品づくり、勤勉さ、卓越した企業文化の構築に関する父のアドバイスにインスパイアされたものです。父とはよく、人との関係や商品の重要性について話しました。良い商品を持つということはビジネスで核の部分になるし、優れた商品と真の価値を顧客に提供することに集中することが最高の経営哲学であると教えてもらいました。

 また、レストラン産業ではいつもお客様をどう喜ばせるか些細なことに気を遣って考える必要があると思いますが、それはソフトウェアの世界でも同じです。私の会社が200人規模になった今でも、ビジネスの根底にあるコアな部分は父がこれまでアドバイスしてくれたこととつながっていると感じています。

――日本社会で生まれ育ったご両親と、カナダ育ったシズカさん。感じ方や考え方に違いが生まれたことは?

 面白いことに、両親は日本の影響もたくさん受けている一方で、カナダのカスタマー・サービスや文化に適応するのが上手でした。お客様全員に親切で英語もすぐ覚えていたし、そういった父の姿を見るのが私は好きでした。

 そこから私自身が日本人としてのホスピタリティーやカスタマー・サービスについて学び、無意識かもしれませんが今の私のビジネス、クライアントとの接し方、チームをどう大切にするかという点にも生かされていると思っています。日本ではカスタマー・サービスを何よりも優先する雰囲気があると思いますが、私にもこの考え方が染み付いているのは間違いないです。

――起業について、ご両親の影響で子どものころから興味があったのですか。

 小さいころから興味があったとは思いませんが、父はオーナ・シェフ、母は音楽家で自分の音楽スタジオを持っていて、家族は誰1人として一般的な9~5時という生活をしてきていません。だから、昔から仕事を見つけないといけないというプレッシャーはありませんでした。「起業」というのは、自分の道を見つけても良いということだと思っています。私はもともと薬か医者の道に進むと思っていたのですが、メディカル・イラストレーションと出合いその道に進むことにしました。

――メディカル・イラストレーションとの出合いは?

 高校生の時、私が科学をとても好きなことを知っている芸術の先生に、科学と美術を組み合わせてどんな仕事ができるのかということを質問したことがありました。

 そこで先生に教えてもらったのが「メディカル・イラストレーション」です。それまで知らなかったものだったので、これこそまさに私がやりたいことだ!と思って、そのプログラムがあるアメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に手紙を送りました

 このプログラムに進むために計画を立てて、大学はクイーンズ大学でライフサイエンスとファインアートをダブル専攻し、2008年から2年間ジョンズ・ホプキンズ大学の修士プログラムに参加しました。

――「BioRender」設立のきっかけは何ですか。

 大学院卒業後にナショナル・ジオグラフィックでフリーランスとして8年以上働き、医療や科学のイラストレーションについて多くのことを学びました。その後、最初はスタジオを立ち上げたのですが、科学者たちがいまだに自分たちの研究をうまく伝えられずどれほど苦労しているかを目の当たりにしました。更に科学の世界では伝え方がバラバラだということを感じていました。

 もし科学者が自分たちでイラストレーションを作ることができるようなツールがあったらどうかという話を友人にし、そこから2018 年に「BioRender」を始めることになりました。

 当初は投資家や技術者のネットワークもあるということで、サンフランシスコに行って会社を始めることにし、「Y Combinator(シリコンバレーにある創業期のスタートアップを支援するプログラム)」に参加して企業の組織の仕方を学んだりソフトウェアの専門家とつながったり大切なことを学ぶことができました。

――科学者たちのためにサイエンス・イラストレーションを提供されているのですよね。

 サイエンス・コミュニケーション・ツール、サイエンス・ビジュアリゼーション・ツールとも言えますが、私たちのチームがいわゆるアルファベットのようなものを作り、科学者たちがそれらを自由に組み合わせてビジュアルを作成できるようにしています。

 実はそのアルファベットというのも、私がジャパニーズ・カナディアンということもあって日本語から大きなインスピレーションを受けています。日本語は視覚的かつ絵画的な言語ですよね。例えば「川」「森」「串」など視覚的にとても興味深いです。私は科学やバイオロジーも同じように、スタンダードでシンプルな誰もが理解できる“言語”を持つべきだと思うんです。

 顧客の中には日本の武田薬品やエーザイもいますが、英語や日本語という言語ではなくて、バイオロジーの共通言語として私たちの商品(アルファベット)を使って頂いています。

――日本とカナダのバックグラウンドを持つ中で、ご自身のアイデンティティーをどのように考えていますか。

 アイデンティティーについて聞かれたら、「ジャパニーズ・カナディアン」と答えるようにしています。私が育ったオークビルは、当時はそこまで多様性がある地域ではありませんでしたが、今となっては自分の持つ日本のルーツにとても誇りを持っています。

 食べ物や言葉でのつながりは今でも少なからず持っていますし、私の娘は英語よりも日本語を多く話します。私のパートナーも日本語を学んでいて、日本が私のアイデンティティーの中でとても重要な一部になっているのを感じています。

――日系カナダ人として大変だったこともありましたか?

メンバーとのオンライン・ミーティングの様子

 小さいころはありましたね。子どもというのは時に残酷なので、私が純粋なカナダ人ではないという理由から少し差別を受けたこともありました。今でこそ寿司や日本食レストランをいろいろな所で見掛ける時代になりましたが、私が子どものころのトロント近郊エリアではそんなことはありませんでした。お弁当に寿司を持っていったことがあるのですが、周りの人にはそれが変だと感じていたようです。そういった経験から、少なからず心に傷を負っていたと思います。

――日系カナダ人としてカナダでビジネスをする中で大変なことはありますか。

 特にありませんが、興味深いことにトロントの起業家の中には私のように女性で日本人という人はほとんどいないように思います。でもカリフォルニアに行った時、自分と同じような人たちがたくさんいるのを見て、起業家として成功するために特定の外見や人間になる必要はないんだと自信を持つことができました。

――周りの人はシズカさんを女性や日本人としてではなく1人の人として見ていると感じていますか。

 そう思いたいですが、その一方で女性起業家や起業家になりたいと思っている女性からすると、私は彼女たちの数歩先を行っているようで刺激になると言われたことがありました。だから、周りから女性としてそう見られている面があるという事実も無視したくはないですし、それが私を定義する必要もないと思っています。

――これから起業い人に伝えたいメッセージをお願いします。

 どんなビジネスをするかにもよりますが、自分のアイデアがしっかりしていてユニークな視点を持っていること、そして何より自分が情熱を注げることを選ぶということが必要だと思っています。

 ビジネスはそんなに楽しいことばかりでもなくて、どんなに疲れていても毎日、何年間と同じことをやり続けなければなりません。起業家として苦難もたくさんあると思いますが、それを乗り越えるためにも自分が情熱を持てる何かを見つけて欲しいです。そして、アイデアを自分の中に留めておくのではなく、周りの人に話したり助けやアドバイスをもらうなども心掛けてみてはどうでしょうか。

――シズカさんの夢を教えてください。

「BioRender」のミッションは、世界が科学を学び、科学がもっとオープンなものになって誰もが簡単に科学を理解できるようにすることです。現在の科学の課題は、閉鎖的で理解し難いという点にあります。科学をもっと親しみやすいものにすることで、変化をもたらすことができると信じています。そして、このミッションに賛同してくれた会社のチームのみんなが仕事にやりがいを感じられるようにしたいし、カナダのスタートアップの1つとして他の起業家の良い見本にもなりたいです。

 私生活の面では、もうすぐ第二子が生まれるタイミングということもあり、子どもたちのために良い手本を示すことも1つの目標です。子どもたちがしっかり科学を学べるような世界を作れたら良いなと思います。











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