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宝石大陸見聞録 その7─恐竜のメッカ、ウィントンから遥々戻って来た、旅の大団円はやっぱり地元ブリスベン編/トミヲが掘る、宝石大陸オーストラリア 第39回

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ようやく、この旅のクライマックスを飾るにふさわしい町、ウィントンに到着

 前回のカイヌナの街から、更に160キロほど南下して、ようやくこの旅のクライマックスとも言うべきウィントン(Winton)に辿り着いた。ウィントンは、オーストラリア恐竜化石のメッカとして知られ、北にあるリッチモンド(Richmond)とヒュエンデン(Hughenden)とウィントンを結ぶ道は、「Australian Dinosaur Trail」と呼ばれる。日本語にすれば「豪州恐竜街道」、もう、その字面からして恐竜や化石好きには堪らない魅力にあふれるエリアだ。そんなウィントンの表通りは、ムーン・ストーンという巨大な球状のサンド・ストーンが至る所に置かれ、その周りをちょうど花の盛りを迎えたムラムラの桃色が淡く彩っている。

 1876年、当時“ペリカンウォーターホール”という名の町の郵便局長は「こんな長い名前、いちいち書いてられないよ!」と思い切って短くしたのが、ウィントンの町名の由来。95年には、10ドル札の肖像画でおなじみの詩人バンジョー・パタソンが“ワルチング・マチルダ”をこの町で発表したことでも知られる。トレジャー・ハンター的には、オパールが鉄鉱石にできるボルダー・オパールの世界的産地であることに触れないわけにはいかない。特に、ウィントン周辺はオパール採掘の歴史が古く、採掘自体は1888年開始、99年には西に100キロほどのその名もオパールトン(Opalton)で全長2メートル、成人男性の太ももほどの太さのオパールが見つかったなんて噂もあるオパールと縁深い町だ。

オパール探しのドキュメンタリー番組に出演するアーロンさんにサーヴォでバッタリ

 そのウィントン到着後の最初の重要タスクは、サーヴォ(ガソリンスタンド)での給油。前回、ガス欠になりかけた失敗から学び、あの時の緊張を忘れないようにと、とにかく、いの一番ですませる。サーヴォで車から降りた時、店の中から1人の男性が出てきた。「なんか見覚えのある作業着だなぁ」と見上げた瞬間「あっ!?」、まさかまさか、石好きに有名なオパールのドキュメンタリー番組で人気のアーロン・グロージョン氏ではないか!? この年で、あまりミーハーなのも恥ずかしいが、大ファンなので興奮して、たまらず話し掛けてしまった……(苦笑)。

 その後、ワルチング・マチルダ・センターを見学、ウィントンの目抜き通りを歩く。さすがにオパール処だけにオパール店が多く、見て歩くだけでオパール磨きの良いお手本になる。ある店では、お土産にとオパールを1つもらえただけでなく、「ここにあるのを好きなだけ持って行っていいよ」と店外のボルダーの一角を指差してのありがたいオファー。既に棄ててあるものとは言え、積まれたボルダーには力強く輝く可能性を秘めたものもたくさんありそうだ。

オパールの店でもらったボルダー・オパール。端から鮮やかな緑色が見える

 宝石は、普通はもう原石の段階ですごいのだが、オパールはちょっと違う。もちろん、原石の状態で美しい物もあるが、研磨してみないことには中がどうなのか分からない物の方が圧倒的に多い。特に、この鉄鉱石を母石とするボルダー・オパールにはこれまでも何度も驚かされている。何も期待していなかった石から、急に色が出てくるあの驚きと興奮はオパール磨きの醍醐味と言える。その観点からも今回頂戴した物は、うれしい驚きの可能性を秘めた石のように思えたのだが、さて、どうなることやら。

 この日の宿は、ワルチング・マチルダの聖地に来たなら、やっぱりビラボン(乾季に川がところどころ干上がってできた水たまり)でのキャンプに限ると、町外れのミステイク・クリークのビラボンに陣取っての焚き火で日が暮れる。晩御飯は、町の精肉屋で買ったソーセージだけの予定を「食卓に更なる彩りを」と思い立ち、川に釣り糸を垂れて、ザリガニの仕掛けも試してみたが、いずれも“坊主”。まぁ、そんな失敗体験もが楽しみに変わるのがアウトバックのキャンプ。焚き火の炎と満天の星空を愛でるうちに、いつしか眠気に襲われて横になった。

オパールだけでなく恐竜でも有名なウィントン。道の名前が”ダイナソー・ドライブ”(上)。“恐竜注意”の標識に合わせて、ゆっくりと50キロで走る(下)

 翌朝、芳ばしい小麦の香りと活気あふれるパン屋で朝食をすませた後、町の南東にある恐竜博物館“オーストラリアン・エイジ・オブ・ダイナソー”へ向かう。この博物館の目玉は、中型の二足歩行の肉食竜オーストラロベネーターの「バンジョー」と、大型の四足歩行で草食の首長竜ディアマンティナサウルスの「マチルダ」の化石だ。バンジョーとマチルダという何ともベタな御当地ネーミングの2頭が化石になった経緯はというと、ある日、泥沼にはまり身動きが取れずに困っているマチルダに腹を空かせたバンジョーがここぞとばかりに襲い掛かるが、マチルダの必死の尻尾攻撃で呆気なくノックアウト。マチルダも体力を消耗して沼にハマったまま息絶えて、結果、2頭は並んで化石になった──。

恐竜博物館の目玉は、巨大なマチルダのレプリカ。それにしてもでかい!

 そんなエピソードのある2頭以外にも恐竜の足跡の化石やこの一帯で見つかった恐竜や木の化石など見どころも多い。ただこの日は、普段でも多くて閉口するハエが異常なまでに多くて何とも耐え難い状況で、ツアーの後はすぐに退散、ハイウェイを南下する。

 ロングリーチ(Longreach)で軽く休憩、その先のイルフラコム(Ilfracombe)を目指す。その町は、昔、使われていた重機なんかがメイン・ストリートに展示されているものの、基本、何の変哲もない田舎町。そんな町に寄ったのは、この町の公園に併設された温泉に身を浸して旅の疲れを癒すためだ。

イルフラコムのアンティーク・ショップで知り合ったジョンさんのコレクション。地元で見つけたアンモナイトのような貝の化石や海洋恐竜の物と思われる背骨の化石。すばらしい!

 その温泉で暖まった後、公園の隣にあるアンティーク・ショップをフラリとのぞいてみた。店主と思しき女性とお得意様らしきおじいさんにあいさつして店内に入ると、カウンターの奇麗なオパールに目が留まったが、値段を聞いて、その結構なお値段にビックリ。すると、おじいさんが「オパールが好きなら俺のをあげよう」と、自分の車から小瓶に入ったオパールを持ってきて見せてくれた。聞けば、石好きで結構な数の石を集めているらしく、アメシストや恐竜の骨の化石などのコレクションも披露してくれた上に、近場のポイントまで教えてくれた。

ジョンさんに教えてもらったポイントで見つけたのは、泥まみれだが化石を含む物ばかり。おそらく貝やサンゴといった海洋生物がギュッと詰まった化石

 丁重にお礼を言ってからさっそくそのポイントを攻めてみる。教えられた場所は、何もないただ広い原っぱで、「本当にここであっているのか……」と不安になって落ちている石を適当に拾ってみた。化石っぽい模様らしきものが見えるが、自分の知識では特別なものかどうかは判別できない。とにかく、なんの化石が分からないような代物がゴロゴロしていたが、ここでもまた大量発生したハエに襲われての退散を余儀なくされて、先を急いだ。

羊毛と羊皮を使ったテディベアが名物のダンボ。カンタス最初のクラッシュの地というのも気になる……

 ここから本拠地ブリスベンまでの道のりは、石探しの成果に乏しかったので、思い切って早送り。一夜の宿に定めたバーカルディーン(Barcaldine)から南下して、有名な羊の毛刈りチャンピオンのジャック・ホーで知られるブラックオール(Blackall)の町でまたまた温泉に浸かって、テディベアで有名なタンボ(Tambo)泊。

 翌日は、モーベンからワレゴー・ハイウェイを東進、ミッチェル(Mitchell)とローマ(Roma)を通過してから、以前、本稿で取り上げたお気に入りのユレバでキャンプしながら木の化石探しを堪能。

お気に入りのユレバで捕まえたザリガニ。こちら風に言えばヤビー(yabby)

 その翌日は、アウトバックの歴史を語るには欠かせない有名な駅馬車会社コブ&コー(Cobb&Co.)博物館があるシュラット(Surat)からタラ(Tara)、ダルビー(Dalby)を経てオーキー(Oakey)泊。その翌日、4週間、全走行距離9426キロにも及んだ旅のゴールは、慣れ親しんだ本拠地ブリスベン。

 とにかく、旅している間は4週間があっと言う間に過ぎたが、じっくり石探しをするには、正直、少し短い旅程ではあった。ただ、まだ石の魅力に取りつかれる前の大自然に触れるだけの豪州1周ドライブの時とは全く違って、心底、「石好きになって良かった」と思えた今回の旅は、一生の思い出として生涯忘れることのない経験となった。

 7回にわたりお届けしてきた豪州宝石大陸見聞録は、ひとまずこの回で終了となるが、次回はそのスピンオフとして、この旅の成果物がどう加工されたのかをふんだんな写真と共にお届けしたいと思うので、ぜひ、お楽しみに。

(写真は全て筆者撮影)

ブリスベンに無事到着。約1万キロの長い旅路を実感させられる車のフロント・バンパー。長い旅が終わってホッとした到着時にはこんな写真しか撮ってなかったのが少し悔やまれる

このコラムの著者

文・写真 田口富雄

在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は、宝探し、宝石加工好きは必見の以下のSNSで発信中(https://www.youtube.com/@gdaytomio, https://instagram.com/leisure_hunter_tomio, https://www.tiktok.com/@gdaytomio)。ゴールドコースト宝石細工クラブ前理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)





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