進出日本企業 トップ・インタビュー
第27回 富士ゼロックス・オーストラリア
取締役社長 藤後 隆行さん
オフィス機器大手の富士ゼロックスは2020年、豪州進出から60年の節目を迎えた。通信インフラのイノベーションを背景にオフィスのあり方が大きく変化する中、豪州のA3複合機市場で首位を独走する同社のビジネス・モデルはどう変わるのか。富士ゼロックス・オーストラリアの藤後隆行・取締役社長に話を聞いた。 (インタビュー=ジャーナリスト・守屋太郎)
豪州進出60年、複合機でシェア首位
機器に依存しないソリューション目指す
ーー初めに富士ゼロックス・グループの概要について教えてください。
1962年に富士写真フイルムと英国のランク・ゼロックス(当時)が50%ずつ出資して創立されました。2001年には、出資比率が富士写真フイルム75%、米国のゼロックスコーポレーション25%に変更され、富士写真フイルムの連結子会社となりました。19年には、富士フイルムホールディングスがゼロックスコーポレーションの株式25%を取得し、完全子会社化しています。
主な事業は、複合機などのオフィス機器の製造・販売です。これまで、富士ゼロックスが日本や豪州を含むアジア太平洋地域を、ゼロックスコーポレーションがそれ以外の地域を担当してきました。富士ゼロックスの製品は、ゼロックスコーポレーションに供給され、全世界に流通しています。
私たちの存在意義は、企業理念の1つ「知の創造と活用を進める環境の構築」に強く表れています。複写機の会社だと思われている方は多いですが、ゼロックスコーポレーションは当初「より良いコミュニケーションのために貢献すること」を目指しました。創業当初から“紙”にはこだわっていません。お客様がコミュニケーションを円滑に進めることをお手伝いするのが、富士ゼロックスの原点なのです。
これまで、オフィスのコミュニケーションのツールとして、主に紙が使われてきました。そのため、私たちはたまたま複合機やプリンターを主力商品としてきただけなのです。しかし、こうしたハードウェアにこだわらず、お客様が業務のコミュニケーションを円滑に進める上でお困りのことがあれば、ソリューション(解決策)やサービスを提供します。
ーー豪州事業の歴史と事業内容についてお聞かせください。
豪州市場では早くから強いプレゼンスを持ち、主力のデジタル複合機で市場をリードしてきました。豪州の複合機のシェアで現在、断トツの首位を維持しています。
前身は、米国のゼロックスコーポレーションの子会社であった英国のランク・ゼロックスが1960年、豪州に設立した販売会社です。つまり富士ゼロックス創立の2年前から豪州に進出していたわけです。その後、90年代に富士ゼロックスが豪州、ニュージーランド、シンガポール、マレーシアの事業権をランク・ゼロックスから取得し、これらの地域での経営を担当することになりました。
現在の主な事業の構成比は、複合機やプリンターなどのオフィス機器が約50%、オンデマンドのデジタル印刷機器が約20%、ソリューション・サービスが約30%となっています。主に大手企業のお客様の印刷業務をアウトソーシングで請け負ったり、スタッフを常駐させたりといった業務もこうしたサービスに含まれます。
一方、ビジネス以外の分野では、雇用や社会への貢献を第一に考えています。進出以来60年近くの長い歴史があり、豪州社会に根付いた会社ですので、現地従業員を主体に経営を行っています。毎年、社員の皆さんがどのように考えているのか、社内で意識調査を実施します。その結果を踏まえて、研修や報酬についても社員が納得できるよう説明を行い、より良い職場環境を構築できるよう努力しています。
ーー富士ゼロックスによる豪ITサービス会社「CSG」の買収提案について、両社は2019年10月に合意しました。その狙いは?
中小企業に強みを持つCSGを買収することによって、私たちがこれまで戦略的に取り組んでこなかった市場で、プレゼンスが向上します。オフィス機器などの販売機会が増えるだけではなく、我々が強化しているソリューションの提供先が拡大することにもつながりますので、非常に大きな意義があると考えています。
加えて、複合機を軸とした私たちのビジネス・モデルと異なり、CSGはITサービス関連のビジネスも展開しています。両者の強い部分を合わせることで、お客様により包括的なオフィス・ソリューションをワン・ストップで提供できるようになります。
ーー書類の電子化が加速する中で、将来のオフィスはどう変わるのでしょうか?
インターネットの普及で情報の流通量は爆発的に増えました。そして、書類の電子化により、情報の流通量に対する紙の割合は確実に減っています。ただ、複合機の需要はしばらく現状維持または微減で推移していくと考えます。
5年後、10年後を見通すと、書類の電子化は更に進行するでしょう。私たちは複合機やプリンターを単に販売するのではなく、電子情報を介したコミュニケーションの効率化を提供していきます。例えば、お客様には「もっと多く機器を買ってください」と営業するのではなく、「こうした使い方をして頂ければ機器の数が減って、コスト削減につながりますよ」と提案するのです。
オフィスのコミュニケーションは、従来の「人と人」から「人と機械」へと変わってきました。これからは「機械と機械」の時代となり、定型的な業務は自動化が加速すると予想されます。しかし、オフィスの姿が大きく変わっても、お客様の業務を効率化する「コミュニケーションの会社」という私たちの本質は変わりません。
今後、ペーパーレス化が進む中、オフィス機器などハードウェアの販売量は大幅に増えないかもしれませんが、お客様がお困りのことを解決するソリューションの需要はもっと伸びていくでしょう。ハードウェアのみに依存せず、ソリューションとサービスを積極的に展開し、その分野でもナンバー・ワン企業であり続けたいと考えています。今年はさらに従業員一丸で価値ある製品とサービスを豪州のお客様へ提供してまいります。
PROFILE: 藤後 隆行(とうご たかゆき)
兵庫県出身、慶應義塾大学卒業。スタンフォード大学院修了。本社経営企画や上海、シンガポールでの海外勤務を経て、2018年10月に来豪。
<会社概要>
英文社名:Fuji Xerox Australia Pty Limited
事業内容:オフィス機器/デジタル印刷機器/業務ソリューションの販売とサポート、ドキュメント・アウトソーシング
代表者:藤後 隆行
本社:シドニー
従業員:約1,300人