金利動向は賃貸を含むすべての生活者に影響する
オーストラリアでは、コロナ禍で実施された前例のない金融緩和の針が巻き戻され、一転して急速な金融引き締めに舵を切った2022年。歴史的な水準の高インフレと急激な利上げにより、住宅価格や株価などの資産価格が大きく下落した1年となった。
今年は、世界的な景気減速を背景にリセッション(景気後退=2四半期連続のマイナス成長)入りの可能性もささやかれる。オーストラリアに住む私たちの資産価値はどうなるのか。第1回は住宅価格について考察する。
政策金利は「5月までに3.85%」
オーストラリアの有力不動産調査会社、コアロジックによると、同社が集計している住宅価格指数は2022年の1年間に5大都市で7.1%、全国で5.3%それぞれ下落した。在豪邦人の多くが住むシドニーでは10.6%、メルボルンでは7.0%それぞれ大幅に下落した。
住宅ローン金利が政策金利に連動して上昇したことが最大の要因だ。中央銀行の豪準備銀(RBA)は22年5月、コロナ禍の実質ゼロ金利政策を解除。12月までに8カ月連続で利上げを実施し、政策金利を3.10%まで引き上げた。これほどハイペースの利上げは現行制度下では前例がない。
記録的な急速な利上げにもかかわらず、直近22年10月の消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比で6.9%(前月比0.4ポイント下落)と依然として歴史的な高水準にある。インフレを抑制するため、RBAは今年前半、利上げを継続すると見られている。
金融市場ではRBAが2月に開く今年最初の理事会で、政策金利を0.25ポイント引き上げて3.35%とするとの見方が有力視されている。また、オーストラリアの著名エコノミストであるウエストパック銀のビル・エバンス氏は「政策金利は今年5月に3.85%でピークアウトする」と予測している。
住宅価格はさらに9%程度下落も
金融引き締めが続くと予測されるため、住宅価格には今後もしばらく下落圧力がかかりそうだ。
公共放送ABC(電子版)によると、豪金融大手「AMPキャピタル」のシェーン・オリバー主席エコノミストは「住宅ローン金利は年末までにおおむね5〜6%まで上昇するだろう。全国の住宅価格は9月四半期にピークから15〜20%下がるのではないか。現時点からさらに9%程度下落することになる」と予測している。
急速な利上げが景気に打撃を与え、オーストラリア経済が景気後退に陥った場合、同氏は「ピークから30%の下落もあり得る」と指摘している。
ただし、これは最悪のシナリオ。リセッションに陥ればRBAが年末までに利下げに転じる可能性があるため、その場合は住宅価格が反発する原動力になりそうだという。市況が底入れすれば、絶好の買い場となる可能性がある。
家賃は過去1年で1割以上上昇
では、金利の動向は、家を持っていない賃貸生活者には関係ないのだろうか。「住宅価格が下落すれば家賃も下がるのでは?」と考えがちだが、そう単純ではない。政策金利と連動して住宅ローン金利が上昇すれば、借金して不動産を購入している投資家にとっては毎月のローン支払い額が増える。このため、貸し出している物件の家賃を押し上げる要因となる。
実際、22年には住宅価格が下落した一方で、住宅の家賃は全国で平均10.2%、8つの州都で同10.7%それぞれ上昇している。23年の家賃水準がどうなるかは金利次第だが、利上げが続く限り家賃の上昇圧力は持続すると見るのが自然だろう。
金利の動向は、住宅所有者や住宅ローンを支払っている人だけではなく、賃貸住宅に住んでいる人も含めてすべての生活者に影響するのだ。
②株価編に続く。
■ソース
Hedonic Home Price Index, 3 January 2023(CoreLogic)
A 30 per cent house price fall ‘unlikely’ with RBA tipped to cut interest rates in late 2023(ABC News)