中銀は賃金上昇とインフレの連鎖に警戒
日本円換算で時給約2,100円−−。オーストラリアの最低賃金が7月1日から、日本で最も高い東京都(時給1,072円)の約2倍の水準に引き上げられることが決まった。ほかの主要国と比較しても、既に先進国トップレベルの高水準にある。
経済協力開発機構(OECD)によると、2021年のオーストラリアの最低賃金は、米ドル基準の購買力平価(PPP)ベースでOECD加盟国中ルクセンブルグに次いで2位。主要20カ国・地域(G20)では1位となっている。
給与所得者にしてみれば、賃金は高ければ高い方がいいに決まっている。しかし、経営者の観点では、高い人件費負担は利益を圧迫するため、商品やサービスの値上げを助長する。労働コストの低い海外への雇用の移転にもつながる。
マクロ経済の視点で見ても、過度な賃金上昇は「賃金インフレ・スパイラル」と呼ばれる負の連鎖につながりかねない。コントロールの効かないインフレは低所得者層の貧困と格差の拡大につながるため、中央銀行の豪準備銀(RBA)は賃金上昇を注意深く監視している。
一方、労働党政権は「賃金インフレ・スパイラルの兆しはない」(ジム・チャーマーズ連邦財務相)として、賃上げには積極的な姿勢で、賃金政策をめぐる立場の違いも表面化している。
利上げでインフレを抑え込みたい中銀の金融政策と、電気料金の補助や低所得者の手当増額でインフレに疲弊する国民を支援したい国の財政政策。中銀の金融政策と政府の財政政策は国の経済政策の両輪というマクロ経済の定石に照らせば、利上げでブレーキを踏み込みながら、財政支出でアクセルを吹かすやり方には、ちくはぐな印象も拭えない。約30年ぶりの物価高と賃上げ圧力のはざまで、政府・中銀はいずれも非常に難しい舵取りを迫られている。
■ソース
The Annual Wage Review Decision(Fair Work Commission)
Real Minimum Wages, In 2021 constant prices at 2021 USD PPPs(OECD.Stat)