1人当たり消費量は日本の2.2倍
「②オセアニア事業は日系2社のドル箱に」から続く
相次ぐ大型買収により、オーストラリアのビール市場に強いプレゼンスを築いたアサヒとキリンの両雄。その理由としては、市場の成長性への期待と、1人当たり消費量の多さ、高い購買力を背景としたプレミアム商品の伸びが挙げられそうだ。
オーストラリアの人口は約2,600万人と台湾とほぼ同規模。ニュージーランド(約500万人)と合わせてもオセアニア市場の規模は、米国(約3億3,000万人)や欧州連合(約4億5,000万人)のそれぞれ1割にも満たず、日本(約1億2,500万人)のおよそ4分の1にすぎない。
だが、オーストラリア市場は、安定的な移民受け入れや先進国では比較的高い出生率を背景に、今後長期間にわたって安定的な人口増加と市場拡大が見込める。総人口はコロナ禍前の実績でおおむね3年間に100万人のペースで増加。オーストラリア統計局(ABS)の予測によると、最大で30年に3,500万人、50年に4,000万人、66年には5,000万人と現状の2倍弱まで拡大する可能性がある。
総じて酒に強い国民が多く、1人当たりの需要が大きいことも魅力だ。キリンホールディングス(HD)が毎年集計している統計「世界主要国のビール消費量」(2021年)によると、オーストラリアの1人当たり消費量は71.8リットル(大瓶換算113.4本)と国別の順位は19位だが、一定の人口規模がある主要国で比較するとドイツ(90.4リットル=142.8本)、スペイン(88.5リットル=139.7本)、米国(72.6リットル=114.7本)に次いで多い。日本(33.2リットル=52.5本)と比べると2.2倍。人口は日本の約2割だが、ビールの総消費量は185万2,000キロリットルと日本(418万8,000キロリットル)の半分弱。世界的に見ても一定の市場規模がある。
「ビール離れ」もプレミアム市場に妙味
ただ、過去半世紀の長期的なトレンドを見ると、オーストラリアでも「ビール離れ」は進んでいる。ABSの統計によると、純アルコール換算の1人当たりビール消費量は1974/75年度に9.22リットルでピークを打った後、減少傾向が続く。17/18年度*1には3.71リットルと最盛期の40%の水準に。ビールの総消費量も近年は7,500万リットル(純アルコール換算)前後で頭打ちとなっている。一方、70年代初頭に2リットル前後だったワインは17/18年度に3.67リットルと2倍近くまで伸び、ビールと肩を並べる水準まで拡大している。
それでもオーストラリアのビール市場に妙味があるのは、消費者の嗜好が量から質へと変化し、プレミアム商品の人気が拡大しているからだ。オーストラリア人は所得水準が主要先進国でトップレベルにあるため購買力が高く、富裕層を中心に高額商品へ手を伸ばしやすい。
同国のビール需要の中心は近年、ビクトリア州発祥の「ビクトリア・ビター」(VB)やニューサウスウェールズ州の「トゥーヒーズ・ニュー」といった各地域を代表する伝統的ブランドから、より高価格帯の新興クラフトビールやプレミアム商品にシフト。調査会社アイビスワールドによると、クラフトビールの売上高は22年に9億8,820万豪ドル(約94億円=前年比9.4%増)と全ビール市場の約2割まで拡大している。
シドニー郊外の高級住宅街にある酒販店−−。以前に市場を席巻していたVBなどの伝統的ブランド商品は奥の倉庫に追いやられ、店頭の冷蔵ケースには高めのクラフトビールや輸入プレミアムビールが並ぶ。小洒落たパブ(英国式酒場)では、伝統的ビールを置かず、クラフトビールだけを取り扱う店も珍しくない。
日系2社もクラフトビールを軸とした利幅拡大に照準を合わせている。アサヒグループHDはオセアニアの中期重点戦略で、「プレミアム化に適したブランドポートフォリオ」を強みと位置付け、「プレミアム化による成長加速」で商機をつかむ方針を示している。
キリンHDも12年に人気クラフトビールの「リトル・クリーチャーズ」(西オーストラリア州)を買収したほか、21年に同「ストーン&ウッド」などを手がける「ファーメンタム」傘下に収めるなど、成長分野と位置付けるクラフトビール部門に注力している。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少子高齢化で縮小均衡が続く日本市場を飛び出した宿命のライバル、アサヒとキリン。世界制覇を視野に、オーストラリアで足場を固めた格好だが、地球規模のビール市場に目を移せば、また違った景色が見えてくる。
「最終回④オセアニアに橋頭堡築くも世界制覇の背中は遠い」へ続く
*1 ABSは現在この統計の集計をやめているため、18/19年度以降の数字は不明
■ソース
「2021年 世界主要国のビール消費量」(キリンホールディングス)
Apparent Consumption of Alcohol, Australia(Australian Bureau of Statistics)
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宿命のライバル、アサヒとキリンがオーストラリアで火花を散らす理由とは? ③成長性に富んだビール市場の魅力
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1人当たり消費量は日本の2.2倍
「②オセアニア事業は日系2社のドル箱に」から続く
相次ぐ大型買収により、オーストラリアのビール市場に強いプレゼンスを築いたアサヒとキリンの両雄。その理由としては、市場の成長性への期待と、1人当たり消費量の多さ、高い購買力を背景としたプレミアム商品の伸びが挙げられそうだ。
オーストラリアの人口は約2,600万人と台湾とほぼ同規模。ニュージーランド(約500万人)と合わせてもオセアニア市場の規模は、米国(約3億3,000万人)や欧州連合(約4億5,000万人)のそれぞれ1割にも満たず、日本(約1億2,500万人)のおよそ4分の1にすぎない。
だが、オーストラリア市場は、安定的な移民受け入れや先進国では比較的高い出生率を背景に、今後長期間にわたって安定的な人口増加と市場拡大が見込める。総人口はコロナ禍前の実績でおおむね3年間に100万人のペースで増加。オーストラリア統計局(ABS)の予測によると、最大で30年に3,500万人、50年に4,000万人、66年には5,000万人と現状の2倍弱まで拡大する可能性がある。
総じて酒に強い国民が多く、1人当たりの需要が大きいことも魅力だ。キリンホールディングス(HD)が毎年集計している統計「世界主要国のビール消費量」(2021年)によると、オーストラリアの1人当たり消費量は71.8リットル(大瓶換算113.4本)と国別の順位は19位だが、一定の人口規模がある主要国で比較するとドイツ(90.4リットル=142.8本)、スペイン(88.5リットル=139.7本)、米国(72.6リットル=114.7本)に次いで多い。日本(33.2リットル=52.5本)と比べると2.2倍。人口は日本の約2割だが、ビールの総消費量は185万2,000キロリットルと日本(418万8,000キロリットル)の半分弱。世界的に見ても一定の市場規模がある。
「ビール離れ」もプレミアム市場に妙味
ただ、過去半世紀の長期的なトレンドを見ると、オーストラリアでも「ビール離れ」は進んでいる。ABSの統計によると、純アルコール換算の1人当たりビール消費量は1974/75年度に9.22リットルでピークを打った後、減少傾向が続く。17/18年度*1には3.71リットルと最盛期の40%の水準に。ビールの総消費量も近年は7,500万リットル(純アルコール換算)前後で頭打ちとなっている。一方、70年代初頭に2リットル前後だったワインは17/18年度に3.67リットルと2倍近くまで伸び、ビールと肩を並べる水準まで拡大している。
それでもオーストラリアのビール市場に妙味があるのは、消費者の嗜好が量から質へと変化し、プレミアム商品の人気が拡大しているからだ。オーストラリア人は所得水準が主要先進国でトップレベルにあるため購買力が高く、富裕層を中心に高額商品へ手を伸ばしやすい。
同国のビール需要の中心は近年、ビクトリア州発祥の「ビクトリア・ビター」(VB)やニューサウスウェールズ州の「トゥーヒーズ・ニュー」といった各地域を代表する伝統的ブランドから、より高価格帯の新興クラフトビールやプレミアム商品にシフト。調査会社アイビスワールドによると、クラフトビールの売上高は22年に9億8,820万豪ドル(約94億円=前年比9.4%増)と全ビール市場の約2割まで拡大している。
シドニー郊外の高級住宅街にある酒販店−−。以前に市場を席巻していたVBなどの伝統的ブランド商品は奥の倉庫に追いやられ、店頭の冷蔵ケースには高めのクラフトビールや輸入プレミアムビールが並ぶ。小洒落たパブ(英国式酒場)では、伝統的ビールを置かず、クラフトビールだけを取り扱う店も珍しくない。
日系2社もクラフトビールを軸とした利幅拡大に照準を合わせている。アサヒグループHDはオセアニアの中期重点戦略で、「プレミアム化に適したブランドポートフォリオ」を強みと位置付け、「プレミアム化による成長加速」で商機をつかむ方針を示している。
キリンHDも12年に人気クラフトビールの「リトル・クリーチャーズ」(西オーストラリア州)を買収したほか、21年に同「ストーン&ウッド」などを手がける「ファーメンタム」傘下に収めるなど、成長分野と位置付けるクラフトビール部門に注力している。
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少子高齢化で縮小均衡が続く日本市場を飛び出した宿命のライバル、アサヒとキリン。世界制覇を視野に、オーストラリアで足場を固めた格好だが、地球規模のビール市場に目を移せば、また違った景色が見えてくる。
「最終回④オセアニアに橋頭堡築くも世界制覇の背中は遠い」へ続く
*1 ABSは現在この統計の集計をやめているため、18/19年度以降の数字は不明
■ソース
「2021年 世界主要国のビール消費量」(キリンホールディングス)
Apparent Consumption of Alcohol, Australia(Australian Bureau of Statistics)
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