日韓への水素輸出に照準 「経済的チャンス掴み取る」とアルバニージー首相
卵が先か、ニワトリが先か――。オーストラリア連邦政府は、南オーストラリア州ボニソン港の水素輸出拠点(水素ハブ)のインフラ整備事業に国費の投入を決めるなど、水素エネルギーの開発に前のめりになっている。
水素エネルギーには、①水の電気分解によって取り出せるなど資源量が無限に存在するため枯渇しない(石油・天然ガスなどの化石燃料からの生産も可能)、②発電や燃焼して利用する際に温室効果ガスである二酸化炭素を排出しない、③再エネ電力と異なり安定的な貯蔵が可能、といった大きなメリットがある。
一方、現状では課題も多い。①大量に貯蔵・運搬するにはマイナス253度以下の極低温に冷やす必要がある、②質量が大きい気体の状態で使用するには高圧に耐える特殊なタンクが必要、③これらの理由からコストが高い、などのデメリットがある。対策としては、水素を大量輸送が容易なアンモニアに変えて流通させる方式などが検討されている。
水素で発電した電力でモーターを駆動する燃料電池車(FCV)は、バッテリー電気自動車(BEV)に押されて普及が進んでいない。水素を既存の化石燃料に混ぜて燃やす火力発電や、水素そのものを燃焼させる水素エンジンなどの開発も進んでいるものの、現状では需要が本格的に立ち上がっているとは言えない状況だ。
それでも、オーストラリア政府は将来の「水素社会」の到来を見据え、水素エネルギーの生産・開発を国策として取り組んでいる。2019年に策定した国家水素戦略では、「オーストラリアがアジア市場における水素供給国のトップ3に入ること」を目指すと明記。国内の再エネ電力で電気分解する「グリーン水素」を中心に日本や韓国など地域の工業国に輸出し、50年までに水素産業が国内総生産(GDP)を500億豪ドル押し上げ、地方に1万6,000人の雇用を新たに創出するとの青写真を描いている。
アンソニー・アルバニージー首相は声明で次のように述べた。
「私たちは南オーストラリア州政府と共同でボニソン港の水素ハブを開発することにより、地域の雇用を支援するとともに、再生エネルギー大国に向けて一歩前進する。世界的なクリーンエネルギー化と脱炭素の動きは、オーストラリアに莫大な経済的チャンスをもたらす。私たちは国内の水素ハブに5億豪ドル以上を投資することによって、このチャンスを掴み取る決意だ」
国策による巨額の投資は吉と出るか?
■ソース
PORT BONYTHON HYDROGEN HUB TO BOOST AUSTRALIA’S HYDROGEN INDUSTRY, Media Release(Prime Minister of Australia)
オーストラリアの国家水素戦略―概要(日本語訳、COAG Energy Council)