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価格形成の方策について

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今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第75回 価格形成の方策について

 「世の中にはただのものはない」と言われています。あらゆるものにはそれ相当の値段が付いています。例えば、人に何かお願い事をすればそれ相当のお礼が必要です。また多くの人は1カ月いくらという月給(労働の値段)で仕事をしています。一見、経済とかけ離れているような”物書き”と言われている作家にも、物を書けばそれ相当の対価が支払われます。

 つまり、何らかの目に見えるもの(=仕事)にはそれ相当の対価が付くものです。それはどこで、どのようにして決められるのでしょうか。その問題を考えるのが経済学に課された仕事であり、「価格形成の仕組み」を学ぶことが経済学の目的なのです。

価格形成のメカニズム

 世の中では物であれ知識であれ、人間社会のあらゆるものが取り引きされています。物が取り引きされる場を財市場、労働が取り引きされる場を労働市場、お金が取り引きされる場を金融市場、株が取り引きされる場を株式市場と言います。このように考えると、世の中で目に見える物、目に見えないもの、あらゆるものがどこかの“市場”で取り引きされているのです。

 市場では、それ相当なものを提供する人(供給)と、それを手に入れる人(需要)の2者から成り立っています。例えば、農家が米を作ってもそれを1軒1軒回って売る訳ではなく、米市場へ卸します。また米を買いたい人は、よほどのことがない限り直接農家から買わず、店に買いに来ます。そして、そこで米の需要と供給が直接出合うことになります。

 また、ある人が仕事をしたいと思う時、直接会社へ赴いて「雇って下さい」とは言いません。人を雇う会社も、直接個人宅を訪れて「君を雇うよ」などとは滅多に言いません。仕事が欲しい人、人を雇いたい企業は、まず職業紹介所を訪れます。それを労働市場と言うのです。

 また、お金が欲しい人、お金を貸したい人はそれぞれ銀行などの金融機関に行きます。それを金融市場と言います。金融市場では「金利」というお金の値段が決められます。親しい人の間でもお金を貸し借りしたら「お礼」を支払い、それを受け取るでしよう。これが金利です。それがお金の貸し借りの「価格」です。

 私ごとき大学教師にも、時として講演の依頼があります。講演をするとお礼として講演料を頂きます。その場合の講演料は、労働賃金というより知識に対する対価です。従って、知識使用代とでも言えます。もちろん私ごときのその対価は知れたものですが、いわゆる一流と言われる知識人の講演対価は、それこそ想像を絶するぐらいの対価なのです。

 私はかつて、勤めている大学の記念行事の一環としてある高名な作家兼評論家を講師としてお招きしました。その時の講演料はとても高額でした。しかしお招きした講演者が高名だったおかげで、当日の講演会場には人が溢れんばかりに訪れ、講演会は大成功に終わったという経験があります。その時に感じたことは、「対価は名に値する」ということでした。

市場の法則

 さて、財の取り引きにおいてはある法則があります。その法則は簡単なようですが、私たちが暮らす資本主義社会の基幹を成すものです。市場で出合うものは必ず2者です。それは「供給」と「需要」です。この2者の出合いによって社会は形成されています。この2者によって決められるのが、「価格」という私たちが生きていくためには欠くことができないものなのです。

 例えばトヨタ社が車を生産し、それを販売して利益を上げようとします。その利益が大きければ大きいほど会社の利益は増大し、会社は繫栄します。しかし、売れなければ生産費がかさむだけで会社は一向に繁栄しません。そこで利益の最大化を目論み、車を市場に出し、利益の最大化を目論みます。その市場では需要と供給の2者の“駆け引き”によって価格が形成されます。それを次のように見てみましよう。

車の供給 > 車の需要 → 価格の低下 → 収益低下
車の供給 < 車の需要 → 価格の上昇 → 収益増大

 上記のように、トヨタ社の収益の増大・減収は供給と需要という2つの要素によって決定付けられます。もしトヨタ車に対する需要が供給を上回ると、トヨタ社の収益は増大し、より一層繁栄することになります。しかし、需要が一向に伸びず、供給だけが増すと、トヨタ車の価格は低下し、それによって収益も低下し、トヨタ社は、損益を出す羽目になります。そこでトヨタ社は収益の増大を図るために、価格の調整を行うことになるのです。

 このようなプロセスを経て、一般に収益の最適化を図っていくのです。このプロセスを経済学では「市場メカニズム」と呼び、それが資本主義社会の1丁目1番地となるのです。従って、価格形成のメカニズムを学ぶことが、近代経済学を学ぶ最も基本的な条件なのです。

 以上のことが、近代経済学を学ぶ際の最も必要な知識である、と言わなければなりません。この知識は、あらゆる人びとにとっては自然と身に付いているものです。また、それは価格変動メカニズムとして最も大切な知識だと考えられています。

予想と価格形成の関連性

 価格形成における最大の問題は「予想」というものが関係するということです。これまで見てきたように、価格は需要と供給という2つの要素によって決められるだけでなく、そこに人びとが常日頃持っている「期待」や「予想」が入り込んできます。よく知られる例として、株式市場における「株価」の決定と、外国為替市場における「為替相場」の2つの価格形成が挙げられます。

 株価は株式の需要と供給によって決められますが、その決定プロセスにおいて、人びとが抱く「予想」というものが大きな変動要因になると考えられます。“上がるだろう”とか“下がるだろう”という人びとの思惑は、財市場においてはさほど大きな変動要因にはなり得ませんが、株式の変動と外国為替の変動には、極めて大きな変動要因となるのです。

 株式市場や外国為替市場においては、“上がるだろう”、“下がるだろう”という思惑によって買いに走ったり、売りに走ったりするのが投機家の手腕の見せ所なのです。従って、投機家と言われる人びとの投資行動を見ることによって、世の中の株価とか外国為替の相場が決められることが多いのです。

 しかし、これらの変動要因を見極めることは、それぞれの相場の変動によほど精通していないと容易に判断はできません。いわゆるプロの相場師の眼力を横目に眺めながら、一般の人びとは日々の変動に一喜一憂しながら接している、というのが実情です。

解説者

岡地勝二

岡地勝二

関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰。

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