BUSINESS REVIEW
会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。
知っておきたいフリンジ・ベネフィット税(後編)/2021年度の変更点
昨年より多くの企業が勤務体制を「在宅勤務」に移行しました。その結果、モニターなど在宅勤務に必要な機器を備えた機能的な在宅ワーク・スペースの必要性が高まったり、通勤パターンが変化するなど、多くの波及的な影響が出ました。これらに伴い、さまざまなベネフィット評価方法を再検討することで、2021年度のフリンジ・ベネフィット税(FBT)を節約することが可能となります。
社用車とFBT
貴社では計算の簡素化のために法定公式法(SFM)を採用し続けているでしょうか? その場合、2021年FBT課税年度は例年よりもFBTの費用を実際の利用状況に比べ多く支払うことになる可能性があります。
SFM採用の場合、従業員の住居で保管されている社用車は、コロナ禍で従業員の住居がオフィスとして使用されていたとしても、私的利用が可能であると見なされるため、FBTの対象となります。
そのため社用車がほとんど私用目的で使用されていない場合、運転コスト法(OCM)によりベネフィットの算定をした方がFBTのコストを抑えることができる可能性があります。
OCMを採用するには、少なくとも12週間にわたり、社用車の利用状況を私的・ビジネス目的に分けて記録したログブックを基に、ビジネス目的の割合(Business %)を算出することが必要となりますのでご留意ください。
コロナ禍以前のログブックを管理している企業の内、従業員による社用車の利用状況が大幅に変わった可能性がある場合には、改めて新しいログブックを12週間記録するよう従業員に指示し、保管しておくといいかもしれません。
OCM採用に関し、ATOはコロナ禍により社用車利用のパターンに変化が予想されるにもかかわらず、コロナ禍以前のログブックを引き続き参照できるとしています。したがって、社用車の私的利用の割合が減少した場合には新しいログブックを採用することもできますし、既存のログブックの参照を選択することも可能です。
いずれの場合も、従来通り、FBT年度開始時点と終了時点の自動車の走行距離の記録をロックダウン期間中も含めて記録しておく必要があります。
駐車場
オフィスの駐車施設が閉鎖されている/されていた場合、または在宅勤務などにより施設の利用頻度が大幅に減少している場合、これらの変化がFBTコストに与える影響を検討する価値があります。
なお、コロナ禍によるパンデミックでのオフィス閉鎖期間をSFMに基づく駐車施設利用可能日から除外できる可能性があり、これについてATOより見解が近日発表されることが想定されます。しかし、この記事作成時点ではまだ発表はありません(*)。
SFMを採用しない場合は、雇用主は実費用方式によりロックダウン期間中のFBTの影響を最小限に抑えることができ、更に計算に使用される駐車スペースの総数を減らすことができるため、今年と今後の費用を節約することが可能となります。
この方法を採用するには、詳細なロックダウン、オフィス・シャットダウンの状況や駐車場の利用状況、利用者数などの記録保持が必要となります。
従業員の健康管理と各種福利厚生ベネフィット
主な勤務体制が「在宅勤務」へ移行したことにより、雇用主から従業員の健康と幸福度の維持のサポートに関する質問が多く我々の下に寄せられています。
これらのサポートに対する取り組みの中には、従業員への民間医療保険に対する補助、ギフト・パック/ケア・パッケージの提供、地元企業支援に参加できるよう地元のカフェ/レストランのバウチャーの提供、といったものが挙げられます。
FBTの観点から、利用可能な免除/減税制度があるかどうか、更にはそうした制度を適用することが実務的に可能か検討することが重要となります。
比較的導入しやすいのは、少額ベネフィットを対象とした免除制度の利用でしょう。例えば、地元のレストランからコーヒー/ランチ/ディナーを購入するために従業員に提供される300ドル未満の使い切り型ギフト・カードは、適切な利用において、免除対象のフリンジ・ベネフィットとなります。
また、医療ベネフィットに関連したFBTの変更点を挙げますと、出張などの際に必要な健康診断、予防医療、カウンセリングの提供または費用負担を会社が行う場合、FBTが免除されることになりました。
具体例では、雇用主がロックダウン期間中に、従業員全般にインフルエンザ・ワクチン接種またはメンタル・ヘルス・カウンセリングの利用を可能にした場合、これらのコストに対してFBTの免除を受けることが可能となります。
緊急支援
コロナ禍において国境閉鎖やロックダウンにより後任者が豪州に到着するまでの帰国の延期、日本に一時帰国している間に国境閉鎖されたことによる国外滞在延長、自己隔離や検疫義務などさまざまな影響が出ています。
このような状況に対して雇用主が宿泊、食事、または交通手段の支援を提供する場合、FBTの緊急救援規定上、免除対象とみなされる可能性があります。緊急救援規定を適用するには、以下の2つの条件を満たさなければなりません。
- ベネフィットが即時に救援を提供する緊急支援であること
- 従業員がコロナ禍によって悪影響を受けている、またはそのリスクにさらされていること
こうした規則の適用例には以下のシナリオが含まれます(適用に際してはある特定の制限条件あり。
- 海外出張または州外出張を終えて帰宅する従業員が強制的に課される隔離費用の払い戻し
- 移動制限のために帰宅できない従業員の一時的な短期の宿泊代(ホテルなど)及び食事代の支払い
- 帰宅する従業員の航空運賃の支払い
その他のFBT免除
【再訓練及び技能再教育費用】
連邦予算案では、20年10月2日以降に余剰人員となった従業員または余剰人員となることが決まった従業員に対して、雇用主が提供する特定の再訓練及び技能再教育費用に対しFBT免除が適用されることが発表されました。
【中止となったイベント】
雇用主が返金不可のイベント参加費を従業員のために支払い、そのイベントが後日中止となった場合、これらの費用はFBTの対象とはなりません。しかし、従業員が参加費を支払い、イベントの中止により雇用主が払い戻しを行った場合、他の控除規則が適用可能でない限り、フリンジ・ベネフィットが発生します。
*本稿は2021年2月1日に執筆されたものです。
解説者
新井泰弘 EYジャパン・ビジネス・サービス・雇用関連税務・個人所得税申告
EYシドニーのピープル・アドバイザリー・チームでシニア・コンサルタントを務め、日系企業の窓口を担当。豪州の税務全般と法人会計管理業務の経験があり、特に個人所得税申告や雇用関連税務の知識、経験が豊富
Tel: (02)9694-5882
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