BUSINESS REVIEW
会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。
未来から考える―ディスラプション時代の企業戦略
EYのグローバル・シンクタンクであるEYQは、2020メガトレンド・レポートを発表しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行によって世界経済が大きく変化する中、組織の長期的な戦略策定にEYメガトレンドが有効です。今月号はEYメガトレンド・レポート最新版である第3版をご紹介します。
2020年3月、世界は一変しました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、医療システムは限界に追い込まれ、世界経済の大部分は先が見えず、社会や人々の交流の仕方が根底から変わりました。はるか未来にあると思われていた物事が突然目の前に現れ、これまで当然であった考え方が次々に覆されました。そのため企業は経済、社会、政治を取り巻く全く新しい環境に対応するビジネス・モデルやアプローチの構築に追われました。
EYメガトレンドのアプローチでは、既存の枠組みには縛られず、はるか先を見通した上で、効果的な企業戦略を策定します。世界に変化をもたらしている要因を理解しなければ、将来の展望から逆算してコロナ禍を乗り越えて成長するシナリオを作成し、それをベースに現在のアクション・プランを策定することはできません。EYメガトレンドの活用は、パンデミック後の社会における組織の将来を再構成し、競争上の優位性を確立することに役立ちます。
新たなS字曲線
第2次世界大戦以降、世界経済はグローバル化、IT化、そして資源開発といった10年ごとの波に乗って、おおむねS字曲線に沿った成長を遂げてきました。今回のパンデミックは、新たなS字曲線への移行を突然引き起こしました。私たちはパンデミックに迫られる形で、瞬く間に世界規模で、かつては想像もしなかったようなことを可能にするという新しいルネサンスへと踏み出すことになりました。
他方で、今回のパンデミックで富が集中することの負の側面や社会的セーフティー・ネットの弱点が露呈され、現代社会の脆弱性が浮き彫りになりました。こうした状況は、ポピュリズム、新たな社会契約、長期的価値、そして新しい経済指標といった流れの起爆剤となり、新たなS字曲線への移行を加速させるでしょう。だからこそ今は、ビジネス・リーダーにとって、長期的価値を生まない近視眼的な施策を見直す格好の機会といえます。
EYメガトレンドを活用して視野を広げる
今、新しいS字曲線が、はるか先の未来につながる長期的な流れとして、私たちの前にその姿を現しています。その様相は、EYメガトレンド・レポートに記載されている将来の見通しから読み解くことができます。その未来では、社会はより開かれ持続可能になり、企業には積極的に長期的価値を生み出す役割を果たすことが求められます。
では、EYメガトレンド・フレームワークをどう活用すれば良いでしょうか? まず、根本的な要因となるプライマリー・フォースが変化すれば、常に新たなメガトレンドが派生する可能性があるため、メガトレンドとなり得る動きを全て抽出します。この段階を踏むことで、1つのプライマリー・フォースから想定していなかったメガトレンドが見えてくることもあります。
EYメガトレンドは、企業にとって戦略上の大きなリスクとなり得る固定観念に対処する上でも有効です。例えば、今日の業界構造や競合他社、収益プールが、向こう5~10年にわたる計画期間中に変化することはあり得ない、という固定観念はないでしょうか。「EYメガトレンド・フレームワーク」では、通常は全く分析範囲に入らない要因やトレンドまでを視野に入れ、「次の大きな動きを逃す」リスクを低減することができます。 また、さまざまな種類の変化を区別できるため、近い将来に生じるであろう変化に優先的に対応しつつ、未来の変化のわずかな兆候までを視野に入れることもできます。
結果として、事業に対して効率的な投資が可能になり、将来投資が必要になる動向にも注視することができます。
Future Backアプローチ
パンデミック後の世界で企業が発展するためには、人間中心思考、テクノロジーの迅速な導入、イノベーションの大規模な展開という3点が鍵となります。急速な変化に対応し、自社製品を市場に大規模に展開できるのは、現在のビジネスを維持しながら将来のディスラプション(破壊的イノベーション)に備えるという、いわば二重の発想を上手く取り入れることができる組織です。
では、どのようにすれば良いのでしょうか?その礎となるのが、Future Backアプローチであり、それに欠かせないのがメガトレンドのシナリオです。将来の枠組みを予測し、その予測に基づいた戦略を立てられるかどうかで、パンデミックでの経験を生かして新しい時代を切り開ける企業とそうでない企業の明暗が分かれます。
この未来像から逆算するFuture Backアプローチは、現在を出発点に考える通常のアプローチとは逆の方向性を持っています。Future Backアプローチは、過去の事例に基づく推測が意味を失い、全く新しい市場とエコ・システムが生まれるようなディスラプション、特にコロナ禍でのディスラプションに適しています。 Future Backという考え方によって、経営者は広い視野を手に入れ、それによって、企業が存在感を失う、あるいは業界自体が見直しを迫られるといった、将来起こりうるシナリオに備えることができ
るのです。
2020メガトレンド・レポートのフル版はこちらよりご覧下さい。
EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター 篠崎純也
オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている
Tel: (02)9248-5739
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