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日豪フットボール新時代(NAT)第103回「多様性」

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第103回 多様性
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

豪州で今一番、顔が売れているサッカー選手は誰かと聞かれれば、それは「ハキーム・アルアライビ」に違いない。彼は現役の代表選手でもAリーグ選手でもない。ハネムーンで入国したタイで突如身柄を押さえられ、約3カ月の長きにわたって拘束された事件で一躍注目を集めた豪州在住の元バーレーン代表選手だ。

2014年に政治難民として豪州に受け入れられ、16年に正式な難民認定を受けた彼は、メルボルンで暮らし、昨季はNPLビクトリア(NPLV)でプレーしていた。タイでの拘束は、生国バーレーンからの亡命の原因となった警察署襲撃犯として禁錮10年の刑で国際指名手配を受けていたからだが、国際法上、政治亡命した難民の罪は問えなくなるので、これは明らかな不当逮捕だった。

すぐに彼の直近の所属クラブだったNPLVのパスコー・ベールと豪州プロ・サッカー選手協会(PFA)が主導した解放を目指す運動が始まり、「#SaveHakeem」のハッシュ・タグと共に野火のように開放を求める声が広がった。豪州サッカー界でも有数の知名度を誇る元代表選手のクレイグ・フォスターを顔に据えた運動は、あらゆるルートでタイ政府に解放を働き掛けたことが功を奏して、2月3日の釈放という成功裏に終わった。タイの大衆に影響力を与え得る存在として、洞窟に取り残された少年サッカー・チームを救い出した豪人ダイバーへの呼び掛けも行っていたほどだ。

PFAウェブサイトのトップには、今でも大きくアルアライビの画像が表示されている
PFAウェブサイトのトップには、今でも大きくアルアライビの画像が表示されている

釈放後、豪州に帰国したアルアライビは、集まった多くの人びとを前に自身の解放に尽力してくれたことへの感謝と共に、自らの暮らす豪州への愛を力強く語った。その映像を見ていて、多文化共生社会の優等生として長年、難民受け入れに積極的だった豪州という国の強みを改めて感じた。同時に、世界一難民の受け入れに厳しいとされる日本の国民に対して、同じ問題意識を持てというのは少々酷な話だとも思った。こういった事件に日本人の意識がまだまだ低いのは、ほとんどの日本人にとって「移民」や「難民」が身近に感じられる存在ではないからだ。

とはいえ、このままではいけない。事実上の移民政策の転換で、日本にも多くの外国人がやって来る時代が訪れる。まだ流暢とは言えない英語で豪州への「愛」を語るアルアライビの姿に豪州という国が持つ懐の深さを感じたが、我らが祖国・日本でもいろいろな出自の日本人が日本愛を語る時代がすぐそこまで来ている。


【うえまつのひとり言】
本田がついに復帰した。詳しくは、「ダウン・アンダー戦記」を読んで頂くとしよう。ローカル・フットボールも豪州全土で開幕している。ビクトリア州では、NPLVに移籍となったあの関谷祐がデビュー戦から大暴れ。今年も豪州各地での日本人選手の活躍が楽しみだ。

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