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日豪フットボール新時代(QLD)第104回「旅立ち」

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第104回 旅立ち
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

ダウン・アンダーからやって来るギレットには現地も興味津々で、地元紙も大きく取り上げた
ダウン・アンダーからやって来るギレットには現地も興味津々で、地元紙も大きく取り上げた

ブリスベン・ロアがウェスタン・シドニー・ワンダラーズにホームで惨敗をした試合。この日の主役は、救いようがないと思えるほどの体たらくのロアでも、日本から帰ってきたミッチェル・デュークを要するワンダラーズでもなかった。普段あまりスポットライトを浴びることのないレフェリー、主審を務めたジャレッド・ギレットこそ、この日の主役だ。

同試合がAリーグで笛を吹く最後となるギレットは32歳と若いが、間違いなくAリーグでも抜きん出た審判技術を持つ第一人者だ。弱冠25歳で主審に抜擢されて以来、既に5回のグランド・ファイナルの主審を任され、5度の最優秀レフェリー賞を獲得してきた比類なきキャリアを持つ。2015年には3人しか任命されなかった豪州初のフル・タイム・レフェリーにも選ばれ、当然ながら国際審判として国際サッカー連盟(FIFA)にも登録されるなど、その卓越したレフェリングは国内外で広く認められてきた。15年、16年の2年連続で、日本サッカー協会とのレフェリー交換プログラムで来日して、Jリーグで主審を務めた経験もある。

今回、このサンコープ・スタジアムでの試合が、イングランドへと渡ることになった彼の最後の試合に選ばれたのには意味がある。ゴールドコースト出身でクイーンズランダーである彼は、レフェリーとしての本業の合間にブリスベンにあるクイーンズランド大学の博士課程で生体力学を学び、先日、見事に博士号を取得して卒業した。更には、彼の最愛の妻ミシェルは、かつて、ロアの広報担当を務めていた縁もある。そんな背景があるので、ブリスベンという地でのフェアウェルが、Aリーグに多大な貢献を果たした功労者に餞(はなむけ)として与えられたことはごく自然な流れによるものだろう。

渡英後のギレットは、リバプールのジョン・ムーア大学の研究助手として小児脳性麻痺の研究を続けながら、今までの本業のキャリアが認められたことで、英国初の外国人主審としてチャンピオンシップ(イングランド2部)で笛を吹く。そこでの活躍とクオリティーが認められれば、将来的にはプレミア・リーグという最高の舞台でのレフェリー・デビューも十分に狙えるという。

豪州の地から海外雄飛するのは何も選手だけではない。豪州が誇る文武両道の若きレフェリーの本場でのますますの活躍を心から願おう。同時に、旧知のミシェルの安産も祈りたい。

Bon Voyage, Mr. & Mrs. Gillett!


【うえまつのひとり言】
本田圭佑が“凱旋”した。広島でのアウェー遠征では至る所で本田フィーバーが発生したようだが、本田見たさに敬意を欠く行為をするファンが少なからずいたらしい。そういう行為は真のサッカー好きによるものではないはず。真のファンは、選手にも敬意と節度を持って接することのできる人たちなはずだ。

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