タスマニア再発見
No. 130 森歩きの楽しみ② ユーカリの森
文=千々岩健一郎
森歩きの楽しみの2回目はユーカリ。ユーカリはオーストラリアでは最も一般的に見られる樹木で、種類も多く、日当たりと水はけの良い場所であればどこにでも存在する。暗く湿ったレインフォレストとは対照的な、ユーカリの森歩きは気分も明るく歌でも口ずさみながらする、そんな環境の場所だ。
そのような森では、花が咲いて蜜ができ、そして実がなり、それらを求めて鳥や昆虫、動物たちがやって来る。ユーカリの木の洞(ほこら)には鳥やポッサムなどが巣を作りやすく、花の蜜や樹液を求めるハニー・イーターと呼ばれる鳥たちも生活する。森の下部にはユーカリ以外の花を付ける灌木や植物も多く、いろいろな楽しみ方のできる森歩きになるだろう。
ユーカリの仲間は豪州全体で600種、タスマニアだけでも50種類はあると言われるが、大きくは3つの異なったタイプに分けられる。樹液を多く出すガム・タイプ、香りの強いミント・タイプ、そして真っすぐ高く伸びていく高木タイプ。それぞれに異なった様相の森が存在する。
ガム・タイプの代表はシダー・ガム、アボリジニたちが樹液を発酵させてアルコールにして楽しんでいたらしい。またタスマニアの州の木になっているブルー・ガムなどもこのタイプになるだろう。
葉に強い香りがあるので、ペパーミントと呼ばれるミント・タイプの代表はタスマニア・スノー・ガム。名前の通り、冬場に雪の降るような標高の高い環境に適応するユーカリだ。ウェリントン山の頂上近くやマウント・フィールド国立公園のドブソン湖周辺など、ちょうど森林限界の手前ぐらいの厳しい場所でユニークな林を形成する。スノー・ガムの樹皮には独特の模様があり、雨に濡れると鮮やかさを増してとても美しく、多くのカメラマンのターゲットになっている。
3番目の高木タイプの代表はスワンプ・ガムだが、これは次回の混合林のテーマで取り上げたいと思う。ユーカリは葉っぱに脂分を含み燃えやすいので山火事の原因ともされているが、同時に山火事で焼失してもすぐに新しい種が芽吹いて復活する。「山火事に強くて弱い木」と言われている所以(ゆえん)だ。州内を走っていると、新しいユーカリの森の中に白く立ち枯れした古木が残っている場面が見られる。山火事に遭遇して焼失し、その後に新しい森ができて来た場所だ。
タスマニアには、それぞれの環境で、異なった種類のユーカリの森がある。春になったら鳥の声を聴き、ユーカリの根周辺に生えている野生のランでも探しながら森歩きを楽しもう。
千々岩 健一郎
1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うと共に、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手掛けている。北海道大学農学部出身。