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日豪フットボール新時代(NAT)第112回「追い風」

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第112回 追い風
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

世界有数のストライカーと誰もが認めるサム・カーには、その去就にも注目が集まったが、今季はチェルシーでプレーすることになった(写真提供:NIKSTAR)
世界有数のストライカーと誰もが認めるサム・カーには、その去就にも注目が集まったが、今季はチェルシーでプレーすることになった(写真提供:NIKSTAR)

豪州フットボールは、世界と対等に渡り合えているのだろうか——。

サッカルーズは、アジアの強豪ではあるが世界の強豪と呼ぶのは憚(はばか)られる。男子のトップ・プレーヤーを見渡しても、世界に名を轟(とどろ)かす選手はいない。かつてのハリー・キュエル、マーク・ビドゥカ、ティム・ケーヒル級の知名度を誇る選手さえもいないのが現実だ。

先日、アジア・フットボール連盟(AFC)が発表したアジア年間最優秀選手、そして世界的な活躍を見せる選手対象のアジア最優秀国際選手、若手対象のアジア最優秀若手選手のノミネートのいずれにも、オージーの名前は無かった。

しかし、その目を女子フットボールに向けるとかなり事情が違ってくる。豪州女子代表は、世界のトップ・クラスであることは間違いない。選手個々を見渡しても、今や女子フットボール界最高のストライカーと言っても差し支えないサム・カー(チェルシーFC)は、豪州女子代表マチルダスの絶対エースでもある。個人、そして国ごとが対象となるものを含めて、今年度のAFC年間表彰の候補者としてオージーで名前を連ねたのは、女子最優秀若手選手にノミネートされたマチルダスの次代を担う逸材DFカーリー・ローストバッケン(キャンベラ・ユナイテッド)だけ。

豪州の女子フットボールの勢いは、草の根レベルでもここ数年で一気に加速している。競技人口は安定して増えており、その裾野は確実に広まっている。そこに来て、サム・カーのような世界的なスターの存在は大きい。カー以外にも、マチルダスには世界有数のサイド・バックに育ちつつある若干19歳にして既に38キャップを誇るエリー・カーペンター(メルボルン・シティ)、16歳で次に世界を驚かす機会まで爪を研ぐ次代のエース候補生のFWマリー・ファウラー(アデレード・ユナイテッド)など、若い女子フットボーラーの良き目標となる選手が多く控える。

そんな女子フットボール界に更なる追い風が吹いた。豪州フットボール連盟(FFA)と豪州プロ・フットボール選手会(PFA)の間で、豪州フットボール界で男女の代表の間に歴然としてあった、金銭面の待遇の格差を埋める歴史的な合意が成立。豪州は世界に先駆けて、女子フットボールの地位向上の象徴的な案件である格差是正を成し遂げた。

豪州が、世界の女子フットボールを名実ともにリードする時代は、すぐそこに来ている。


【うえまつのひとり言】
2023年の女子W杯誘致の動きが加速している。本稿でも触れたように女子フットボールの強豪国である豪州は、次の女子W杯の誘致に名乗りを上げ、官民を挙げての誘致活動が活発になってきた。世界最強の米国、なでしこジャパンなど世界最高峰のレベルの熱戦が観られる興奮の舞台をぜひ豪州で実現させて欲しい。

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