子どもを育てる上で、わが子に2つの文化を共有し両立させたいと希望している親御さんと同様に、私も、私自身の経験と、数年をかけて継続的に研究しているバイリンガリズムというテーマにたいへん関心を持っています。
いくつかの研究で証明されている通り、極めてまれな不利益を除ば、文化的、経済的、認識的(多様性と寛容力・包容力に対する知識の増加)、さらに性格(例えば自尊心の増加など)において、明らかに多くの利点がバイリンガルに存在するのです。
さて、日本語と英語、両方を流暢に話せるようになる方法には何があるのでしょうか。バイリンガルの家庭の状態(特に年齢や社会的な影響、意欲や態度など)がそれぞれ異なるほか、実際に在住る社会の言語と子どもが置かれている教育的機関の環境が違うなどさまざまですが、それらの状況には関係なく、バイリンガルに育てるための基本的かつ確実な方法というものが承認されています。
例えば、オーストラリア在住の親が日本人の場合、少数言語(日本語)を話す機会をなるべく最大限にすること、さらに念頭に置くこととして、一貫性を持つことが挙げられます。
仮に、父親と母親の母国語が違う場合でも、特に人気のアプローチ方法「one person onelanguage(OPOL)」が研究されたことにより、一貫性さえ維持されれば、バイリンガルに育てる上で、たいへん効果的だということが証明されています。
父親と母親が子どもにそれぞれの母国語で話すことを基本とし、出生後からこれを持続することによって、結果的に子どもが2カ国語を同時に(逐次的にではなく)取得することができるばかりでなく、間違えて2カ国語を混ぜて使用する可能性を減らす利点も持ち合わせているのです。
あくまでも、家庭にある言語にとどまらず、さまざまな言葉の難しさ、そしてあらゆる言語に触れる機会を子どもに与えることが大切です。さらに、インターネットの普及により、多くの情報が得られるようになった今、さまざまな機会を生かし、家族や周りにいる友達のネットワーク、コミュニティーの支援を利用しながら、少しの工夫と忍耐、そしてそれを継続することにより、豊かな言葉・生きた言語に触れさせる機会を子どもに与えることが可能だと言えるでしょう。休暇を利用して日本に里帰りし、わが子に日本語に囲まれた環境を短期間でも味わわせるという手もあります。
最後に、バイリンガルの子どもに育てると決めた時点で、どこまで流暢に2カ国語(読み書きも含め)をできるようにさせたいか、その目標が現実的に可能かどうか、真剣に考えた上で、自分の子どもに対する期待や希望を明確にすることが重要です。また、時間の経過とともに、年齢や環境の変化といった、いくつかの条件によって、一般的に軸となる1つの言語が確立していくことへの理解も必要でしょう。
言語を通してコミュニケーションの楽しさを知り、バイリンガルへの子育ての旅を常に積極的な態度で、励まし、継続することが、子どもとその家族の人生に、確かな利益を残すでしょう。そして、2つの国の文化を共有することで、将来、より多くの出会いや仕事の機会が増えるだけでなく、バイリンガルによって得られる可能性は限りなく広がることが期待できると信じています。
次回からは具体的なバイリンガル教育についてお話していきたいと思います。
ブレット・カミング プロフィル
◎愛知県立大学外国語学部英米学科准教授。QLD州グリフィス大学卒(日本語・日本史専攻)、サザン・クイーンズランド大学大学院応用言語学修士課程修了。ケンブリッジ大学連合で大人向けの英語教育講師免許を取得。「バイリンガリズム」の研究以外に、「日本人英語学習者の対照修辞学」「自己確立と言語教授」「言語・文化と言語方策における関係性」などがある。現在いくつかの「バイリンガリズム」に関連した執筆を行っている。バイリンガル教育に対する興味、関心のある人は、以下より直接の連絡が可能
Email: bcsensei@protonmail.com
Web: brettcumming.weebly.com