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バイリンガル教育について①
ブレット先生のバイリンガル教育指南 第4回

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 今回は言語獲得年齢とバイリンガル教育についてお話したいと思います。 まず、言語獲得年齢についてですが、思春期にあたる15歳前後が発達の限界だと言われています。臨界期(言語学の研究者の懸案事項となっており諸説の多いテーマだが思春期ごろにあたるとされている)と呼ばれるこの年齢を超えると、新たな言語の習得はさらに難しくなることが仮説としてよく知られています。

 つまり、軸となる言語を選ぶには、習得年齢が大きく影響するとともに、仮に母国語(英語)を習得後、思春期を過ぎてから新たな言語(例えば日本語)を習得しても、ネイティブと同等の(支障が全くない)レベルを目標にすることは難しいということになります。

 帰国子女の教育環境への配慮はもちろん、わが子をバイリンガルとして育てることにおいても、この言語獲得年齢を念頭に置いておく必要があるのです。

 次にバイリンガル教育についてですが、バイリンガル・プログラムが成功するには多面的に「バイリンガリズム」という現象を理解し、さらに言語学、心理言語学、社会言語学、教育学との相互作用についても分析する必要性が出てきます。

 まず重要な概念として、「減算的バイリンガリズム」(いわゆる少数派言語の母国語=オーストラリアの場合だと日本語=が失われ、逆に社会的多数派言語(英語)が母国語に取って代わってしまう場合)ではなく、「加算的バイリンガリズム」(第2言語が肯定的な効果をもたらすこと)になることがバイリンガル教育の目標と言えます。歴史的には、移民たちが自国の言語で教育まで受けられる権利(いわゆる言語学的人権)を主張したことから誕生したものです。

 実はバイリンガル教育には多くの種類があり、さらにそれぞれが強形と弱形のバイリンガル教育に細分化されます。細分化の仕方は研究者によりさまざまですが、原則として教育の密度、教育の目標、および言語の地位という変数に基づく定義です。

 バイリンガル教育をわが子に受けさせるにあたって望ましい目標としては、両言語の高度な言語能力の発達以外にもいろいろあると思います。

 例えば、文化的適応、認知的発達(すなわち思考と問題解決と知能に関わる力)の促進、そしてより確かなアイデンティティーの確立などが挙げられます。とにかく、子どもの教育は子どもの発達全般を目標とすべきでしょう。

 上述の弱形のバイリンガル教育の例ですが、「移行型バイリンガル教育」(英語獲得の手段として一時的に母語教育を行うが、結果的に英語社会への同化が起こる。換言すれば、移民が新しい国の環境と社会に順応する過程)、「主流バイリンガル教育」(オーストラリアだと社会的多数派言語である英語で教育を受けながら、同時に第2言語による教育も受ける)、そして「分離型バイリンガル教育」(少数民族が自治のために少数言語の教育を選択するなど)が挙げられます。結果的にモノリンガリズムかセミバイリンガリズムになるケースがほとんどです。

 では、次回からは強形のバイリンガル教育と、どの学校にわが子を入れるかを選択する時および学校のカリキュラムについてお話していきたいと思います。

ブレット・カミング プロフィル

◎愛知県立大学外国語学部英米学科准教授。QLD州グリフィス大学卒(日本語・日本史専攻)、サザン・クイーンズランド大学大学院応用言語学修士課程修了。ケンブリッジ大学連合で大人向けの英語教育講師免許を取得。「バイリンガリズム」の研究以外に、「日本人英語学習者の対照修辞学」「自己確立と言語教授」「言語・文化と言語方策における関係性」などがある。現在いくつかの「バイリンガリズム」に関連した執筆を行っている。バイリンガル教育に対する興味、関心のある人は、以下より直接の連絡が可能
Email: bcsensei@protonmail.com
Web: brettcumming.weebly.com

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