イラン攻撃で揺らぐ米英豪の一枚岩 日豪関係の重要性、相対的に拡大

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80年前の敵国同士が安保協力を深化させる理由

 オーストラリアでは25日、戦没者を追悼する「アンザック・デー」の式典が各地で行われた。戦争記念館によると、軍事作戦で亡くなったオーストラリア兵の数は、戦後処理や小規模な派兵も含めて合計10万3,136人(表参照)にのぼる。その多くは米国、英国とともに参加した戦争での犠牲者だ。しかし、今回の米・イスラエルによるイラン攻撃では、米・英・豪の一枚岩が揺らいでいるように見える。(解説:守屋太郎)

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 戦没者の内訳は、第一次世界大戦が約6割、第二次世界大戦が約4割と、2度の大戦が大半を占める。アンザック・デーの由来となった第一次世界大戦の「ガリポリ上陸作戦」(1915年)では、戦死者8,141人を含む2万6,111人の死傷者を出した。近年もアフガニスタンやイラクで犠牲者を出している。

 オーストラリアは1901年、英国植民地から連邦国家に移行したが、今も「アングロスフィア」(アングロサクソン陣営)の一角を占める。正式な国家連合ではないものの、英国のアングロサクソン民族をルーツとし、自由主義や民主主義の価値観を共有する英語圏の陣営だ。今もなお経済力と軍事力で世界最大の勢力と言える。

 近代国家としての成り立ちは、対英戦争を経て独立した米国と、コモンウェルス(英連邦)を形成するオーストラリアやニュージーランド、カナダでは異なる。先住民を侵略して成立した米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダも、源流である英国も、現在では世界中から移住した多様な民族が暮らす「多文化国家」だ。それでも、アングロサクソン陣営はルーツと価値観を共有する「運命共同体」として足並みを揃えてきた。

イラン参戦、豪首相は明確に否定

 こうした歴史的背景から、オーストラリアも2度の世界大戦から朝鮮、ベトナム、イラク、アフガニスタンに至るまで、米・英が主導するほぼすべての大規模な戦争に兵を送ってきた。

 米国と相互に防衛義務を負う軍事同盟「アンザス条約」(1951年)を締結。機密情報を共有する通称「ファイブ・アイズ」(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の一員でもある。近年では、米・英・豪の安保枠組み「オーカス」(AUKUS)に参画し、通常兵器搭載型原子力潜水艦の導入計画を進めている。

 一方、現在進行中のイラン攻撃では、オーストラリアの関与は、空軍機1機と少数の空軍兵の派遣にとどまる。あくまでも、イランからミサイルやドローンによる攻撃を受けているアラブ首長国連邦(UAE)の自衛を支援するのが目的だ。

 オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は、イランの核開発阻止という米国の目標は支持しつつ、参戦を明確に否定している。英国のスターマー政権も攻撃への参加から距離を置く。これに対し、ドナルド・トランプ米大統領は、繰り返し不満を表明している。

西太平洋の安保環境は依然厳しい

 イラン攻撃をめぐり米・英・豪の結束が揺らぐ一方で、オーストラリア周辺地域の安全保障環境は、引き続き厳しい状況が続いている。

 中国人民解放軍はこれまで、アジアに展開中のオーストラリア軍機にレーダー妨害用の金属薄片を散布するなど、妨害行為を繰り返している。近海でのプレゼンスも強めている。

 23年には、中国のスパイ艦が北東部クイーンズランド州沖の排他的経済水域(EEZ)内を航行した。昨年2月には、中国艦3隻がシドニーの南東約630キロの公海上で実弾演習を行い、民間機が急きょ航路を変更した。

 中国は22年にソロモン諸島と安保枠組みを締結するなど、オーストラリアの前庭である南太平洋で政治的影響力の拡大も図っている。

試される日豪の絆 高市首相がGWに訪豪

 そんな中で、急接近しているのが、日本とオーストラリアだ。80年前の第二次世界大戦では、太平洋で激しい戦火を交えた敵国同士だったが、現在では民主主義陣営の西太平洋の南北軸として、安保・防衛面での協力を深めている。

 「自由で開かれたインド太平洋」を提唱した安倍晋三首相(当時)の下で、日豪は安保協力を加速させた。2022年には、岸田首相(当時)とアルバニージー首相が、新しい「安全保障協力に関する日豪共同宣言」に署名した。同宣言は、有事の際に日豪が共同作戦を行う可能性に言及。相互に防衛義務を負う正式な同盟ではないが、「準同盟」と呼ばれる関係に発展している。

 昨年8月には、オーストラリアが次期汎用フリゲート艦に日本の護衛艦「もがみ」の能力向上型を選定した。今年4月18日には、小泉進次郎防衛相とリチャード・マールズ連邦副首相兼国防相が、契約覚書「もがみメモランダム」に署名。日本にとって史上最大規模となる防衛装備品移転案件が、正式に動き出した。

 小泉防衛相が就任した昨年10月以降のわずか約半年間で、マールズ国防相との日豪防衛相会談は実に6回を数える。日豪の防衛相が短期間にこれほど頻繁に会うのはきわめて異例と言える。

 さらに、5月のゴールデン・ウィークには、高市早苗首相がオーストラリアを訪問することが決まっている。高市首相とアルバニージー首相との会談で、どのような議論が行われるのかは要注目だ。

 日本、オーストラリアはともに、それぞれの対米同盟が安保政策の基軸であることに変わりはない。ただ、両国を取り巻く地政学的な環境が変化する中で、日豪関係の重要性は相対的に増している。

◼️ソース

Deaths as a result of service with Australian units(Australian War Memorial)

Gallipoli(Australian War Memorial)

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