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オーストラリア企業のESGレポートの現状と課題(後編)

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BUSINESS REVIEW

会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。

オーストラリア企業のESGレポートの現状と課題(後編)

 先月に続き、今月もEYが洗い出したESGレポートで対応すべきキー・ポイントについて解説していきます。

基準への対応

 サステナビリティー・レポートに関するグローバルな基準についてのコンセンサスはいまだにありません。しかし、レポートの成熟度を上げるために、広く認知されたフレームワークはいくつも存在しています。

  ESGレポート成熟度モデルを利用した評価(以下「査定」)では、ASX200企業の過半数が「Global Report Initiative(GRI)」(107社)や、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」(108社)のフレームワークを使って報告しており、「サステナビリティー会計基準審議会(SASB)」(27社)や「International Integrated Reporting Council <IR>」(11社)のフレームワークを使う企業も、まだ少数とはいえ増えていることが分かりました。

 SASBとIRは最近合併し、価値報告財団になりました。この統合されたフレームワークの適用が、今後数年間で大幅に増えると私たちは予想しています。

 少なくとも1つ、または複数のフレームワークを組み合わせて採用しているESGレポートは、一貫して成熟度スコアが高いことがデータによって示されています。査定では、フレームワークを利用することで成熟度が大幅に向上していることが明らかになっています。少なくとも1つのフレームワークを利用している企業の平均成熟度スコアは3.01で、これに対してフレームワークを利用していない企業は1.46でした。

目標とSDGs

 最先端を行く企業が戦略を新たにして、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」や「ネットゼロ」といった枠組みと関連した目標を、その影響度に応じて取り込んでいることも私たちは目にしています。このような目標は、特にジェンダー・バランス、リーダーシップや安全衛生などのダイバーシティー関連の既に確立された目標に追加される形で企業によって取り組まれています。

 SDGsへの協力企業も増えています。2020年には103社がSDGsへの協力を表明しています。19年には協力企業数は90社、18年は45社でした。

 SDGsの中でも最もよく取り組まれたのが、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標8「働きがいも経済成長も」、目標12「つくる責任つかう責任」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」です(図1)。「Sustainable Development Report(持続可能な開発報告)2021年」において、目標13と12はオーストラリアの大きな課題として取り上げられました。企業は、自社に関連性の高いSDGへ焦点を当てるだけでなく、概観的な表明することだけから卒業し、実際の影響をSDG目標レベルで測定し、それを伝えるという課題に取り組む必要があります。

■(図1)2018年、19年、20年にそれぞれのSDGを達成したASX200企業の割合

 最近のEYの調査では、気候変動問題に関する情報開示は増加しているものの、脱炭素化に向けた実際のアクションは進んでいないことが明らかになっています。レポートを通して効果的な変化を促すためには、レポートそのものが戦略・実行・報告に至るまでの事業サイクルの重要な一環として理解される必要があります。レポート作成を行うことによって、企業は自社の進捗を振り返り、戦略を見直し、リセットをするといった重要な機会を得ることになります。

 また、レポートはサステナビリティーの内容を十分に反映した目標に対して、企業が対外的に責任を負う場にもなります。企業は目標を定める際に、通常はその目標の裏付けとなる戦略も策定します。戦略がなければ、利害関係者から戦略を持っていない理由を問われることでしょう。

 戦略が実行に移されて変化をもたらすと、目標に対する進捗状況を把握することができるようになります。この動向をデータ化して対外的な報告を行うことで、投資家へ企業の意欲や活動を知らせるだけではなく、ESG問題に関して組織として積極的に関与していることを内部の利害関係者に対して示すことができるのです。

ESGレポートの今後

 ESGレポートのこれからを考えて言えることは、更に取り組むべきことがあるということです。具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • レポートの各種フレームワークを利用すること
  • レポートの原則、特にバランスとコンテキスト(状況)の原則を遵守すること
  • データに信頼性を持たせるためにアシュアランスを得ること
  • SDGに真摯に取り組み、その影響について報告していくこと

 非財務及び財務に関する諸問題を幅広く取り扱う一環として、企業のCFOやCEOがESGについての対話を進めることが多くなり始めたことから、ESG報告が適切な形で経営陣にまで上がっていると私たちは見ています。また、サステナビリティー報告を取締役会が承認するという企業も増えています。レポート作成が事業サイクルの一環になっており、レポートが戦略や導入にフィードバックされている企業もあります。

 しかし、このような変化はASX200の企業全体に幅広く起こっているわけではなく、また多岐にわたり、十分なスピードで起こっているわけでもありません。

 企業や取締役会が自社の現状を理解し、ESGのパフォーマンス向上に向けて方針を立てるために、ESGレポートのプロセスは非常に大切なメカニズムです。ESGレポートが組織内の経営陣にまで上げられることに伴って、聞きにくい質問をすることが長期的な価値創造やサステナビリティーに向けた重要な道筋の1つとなるでしょう。

解説者

篠崎純也

篠崎純也 EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター

オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている
Tel: (02)9248-5739 / Email: junya.shinozaki@au.ey.com

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