オーストラリア企業のESGレポートの現状と課題(前編)

BUSINESS REVIEW

会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。

オーストラリア企業のESGレポートの現状と課題(前編)

 年々非財務情報であるESG(環境・社会・ガバナンス)に関する開示(以下ESGレポート)は重要性を増しています。一方で、オーストラリア企業のESGレポートの完成度には、あまり進歩が見られないというのが現状です。ASX200企業のレポートはバランス、各種フレームワークの利用、アシュアランスといった分野において、改善を取り入れる余地があります。今月と来月にわたってEYが洗い出したESGレポートで対応すべきキー・ポイントについて解説していきます。

 オーストラリアにおける現在のESGレポートの状況と、差し迫ったグローバルな問題に対する影響度を考えると、ESGレポートには取り組むべき課題が山積となっています。

 ESGレポート自体がグローバルな課題への解決になるわけではありませんが、気候変動からサプライ・チェーンで起こっている現代の奴隷制度とも言うべき人権侵害に至るまで、大きな根本的問題に企業がどのように対応しているかを示す重要な指標となっています。

 法令や一貫した基準がない中でESGレポートが高度化し改良されてきたことは称賛に値しますが、問題の重要性を考えると、オーストラリアのESGレポートは極めて物足りないと言わざるを得ません。

 ESGレポートがどの程度実際の変化や企業の戦略的な再編を促しているかについても、議論の余地があります。

 ESGレポート自体にもさまざまな問題があります。楽観的過ぎる報告内容、信頼に足るアシュアランスの欠如、任意に設定された基準が多過ぎることによる比較の難しさや一貫性のなさ、十分な意義付けやリアルタイム情報の欠如、といった点です。

 それにもかかわらず、ESGレポートは企業のESG目標を示し、サステナビリティー・リスク、機会、影響などの重要性を測り、それらにどのように対処するのかについて説明する唯一かつ、最も重要な手段となっています。

 極めて重要なのは、ESGレポートは、社内外の利害関係者に対してどのような有意義な変化が実際に起きているのかを示すものだ、ということです。

 しかし、企業は、特に投資家などの利害関係者からの高度化された深い疑問にどうやって対応して行けば良いでしょうか。

 過去3年間、EYはASX200企業のESGレポートを9つの基準(Sustainability vision and strategy, Sustainability governance and management, Metrics and targets, Business Model/Value chain, Supply chain, Materiality, Sustainability context, Balance, Impact and outcomes)に照らして、ESGレポート成熟度モデルを利用した評価(以下「査定」)を行ってきました。

 この査定を通して、過去3年間で平均成熟度スコアが徐々に改善してきたものの、全般的に大幅な改善余地があることが明らかになりました。

 2021年の報告に当たって、レポートの成熟度や取組みの改善が求められています。報告を行う企業が、山積されているグローバルな問題により良く対処し、実際的かつ測定可能な変更をもたらしていこうという目標があるのであればなおさらです。

 私たちが洗い出したESGレポートで対応すべきキー・ポイントをご紹介していきます。

バランスの問題

 EYの査定では、バランスについて特に差分が大きいことが明らかになりました。E Yが企業の査定に利用した9つの基準の中で、バランスの合計スコアが最低でした。

 バランスは、「Global Report Initiative(GRI)」及び「International Integrated Reporting Framework()」においても、主要原則になっています。バランスとは、良い材料についても悪い材料についても適切で偏らない報告をすることであり、リスクと機会の両方について説明することです。

 バランスの欠如は、上辺だけの環境配慮や、都合の良いデータの引用といった、あらゆる形で見散されます。また、査定では時価総額上位の企業ほどバランスの取れた開示が行われていることも明らかになりました。ASX200企業全体と比較すると、ASX20の企業は38%、ASX50の企業は22%、それぞれバランスのスコアが高いという結果が出ました。

 企業が良い話だけをしたがるというのは自然な傾向ですが、難しい問題について取り上げることを安直に避けてしまうと、そのような企業は自己満足に陥ったり、組織としての変化を促す能力を失うことにつながります。

 企業内においても、また、更に重要なのは企業間でも、どこに課題があるのか、これまでの間違いや目標未達から何を学び得るのか、もっと忌憚(きたん)なく議論する必要があります。

 バランスとは、企業が広範な社会の一部として、その制度に対応するのみならず、制度を作り上げていく立場にあるということを自覚した上で、関連するサステナビリティー上の課題について議論することも意味しています。

信頼できる情報開示

 バランスは本質的に保証という他の重要な基準とも関連しています。それはアシュアランスです。

 アシュアランスは情報開示の健全性を後押しし、ESGレポートの正確性や完全性の下支えを行うものです。

 査定では、アシュアランスの有無と報告の成熟度の高さには強い相関関係があることが明らかですが、多くの企業はその利点を追求していません。私たちのデータでは、ASX200企業の報告書のうち161社がアシュアランスを得ていないのです。

 アシュアランスは、単純に項目をチェックする作業ではなく、はるかに重要なものです。2020年のE Y気候変動・サステナビリティー・サービス(CCaSS)による機関投資家調査(2020 EY Climate Change and Sustainability Services (CCaSS) Institutional Investor survey)によると、投資家がESGのデータをより厳密かつ正式に精査する際には、信頼できるデータを裏付けとするアシュアランスがますます求められるようになってくることが明らかになっています。

 適切なアシュアランスの提供者は、データを単なる数値のみならず、その意味するところが正確かつ完全に開示されているかどうかに目を向けます。また、データを用いて、過度に楽観的な考え方、重要な疑問点、取組みの不足といった点に対して、独立した視点を取り入れています。

 オーストラリアにおける大きな問題は、アシュアランスが義務付けられていないために、その手法が標準化されていないということです。アシュアランスの範囲は企業自身が決定するため、企業間で大きく異なります。

 ESGレポートの一部しかアシュアランスの対象とならないことが一般的であり、レポートを最終的に読む者の混乱を招くばかりか、これによって対外的な問題のレベルや深刻さを限定してしまう可能性があります。

 アシュアランスは万能薬ではありませんが、変化を促す良いきっかけとなり得るものです。アシュアランス提供者との強固な関係がある企業では、これまで述べたような問題点についても経営幹部の耳に入ることになる、ということをEYは認識しています。

 後編の12月号では、ESGレポートで対応すべきキー・ポイントを更に解説していきます。

解説者

篠崎純也

篠崎純也 EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター

オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている
Tel: (02)9248-5739 / Email: junya.shinozaki@au.ey.com

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