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【今さら聞けない経済学】経済理論の流れ―経済政策のあり方

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今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第48回:経済理論の流れ―経済政策のあり方

はじめに:政府の信頼はどうなるのか

現在の日本社会は一体どうなっているのか、とたくさんの人が心配しています。それは、日本経済の「かじ取り」をする上で極めて大切な「基本統計」を一部の人が、まあこれくらいで良いか、といって「不正操作」していたことが大々的に判明したからです。更にそれらを実行した人たちが、誰も責任を取らないことが新聞やテレビによる報道で大きく取り上げられ、国会でも連日連夜議論されていますが、全ての関係者が責任のなすり合いをしているだけなのです。まさに「平成元禄田舎の猿芝居」といった感じです。

「平成」という時代の最後の最後に至って、こうした問題が発生したことは日本社会にとってとても情けなく、そして残念なことです。日本という国、また国家はもっとしっかりしていたはずですが、一体なぜこのような事態に陥ったのでしょうか。現状の日本経済でこれから先、果たして大丈夫かという心配が人びとの胸に充満しています。

不正操作されていた統計資料とは、厚生労働省が出している「毎月勤労統計」という国家経済計画の基本統計です。先月号でも少し触れましたが、国に依頼された調査員が、従業員500人以上在籍する企業については直接その会社を訪問しさまざまなことを聞き取り調査する、という規則です。しかし、当局は「面倒くさい」という理由から行ったふりをして、適当な数字を記入していました。従って、現実とかなりの差が生じて政府当局は大慌てしているのです。こうした調査方法で数字を算出した日本経済の真の姿を、恐らく世界各国は信用しないでしょう。

これまで日本政府が発表する統計資料は、とても「正確度」が高く世界から信用されていました。しかし、これからは一体どうなるのでしょうか。個人はもちろん、国が一度失った信頼を取り戻すには並大抵の努力では一挙に回復するのは難しいと言えます。

日本の景気回復はどのような状態か

現在、日本では1990年中ごろから始まった不況のどん底から這い上がり、明るい兆しが目に見えてきたと人びとが口にするようになってきました。つまり、日本経済は回復し、これからは一挙に上昇傾向を示すと言われていました。とはいえ、それは経済を運営する一部の人がそのようなことを言っているだけで、大多数の人は「ほんまかいな」と懐疑的な目で見ているのが実情です。

経済を司る当局は、経済は成長軌道に入ったと言い、それどころか戦後最大の成長状態にあるとまで話しています。それが事実であれば、これほど喜ばしいことはありません。何しろ日本経済は世界でもアメリカ、中国に次いで3番目の大きさにあるのです。その日本経済が好景気状態にある、とすれば世界経済にとっても非常に喜ばしいことです。

しかし、いま一度現実を見てみましょう。以下の一覧表は、戦後の日本経済の成長過程を示したものです。これにより人びとは、とても興味深いある現実を理解できると思います。

日本の経済成長の比較

名前期間長さ年平均の成長率
神武景気1954年12月~57年6月2年7カ月(不明)
岩戸景気1958年7月~61年12月3年6カ月11.3%
いざなぎ1965年11月~70年7月4年9カ月11.5%
バブル景気1986年12月~91年2月4年3カ月5.3%
(名前なし)1993年11月~97年5月3年7カ月2.2%
いざなみ2002年2月~08年2月6年1カ月1.6%
現在2012年12月~6年2カ月~1.2%

上記の資料から、まず戦後に経済の大きな波が7回もあったという事実を理解できるかと思います。それぞれの景気の波に名前が付けられ、国民から親しみを持って迎えられました。60年代の「驚異的経済成長」を見て世界は驚嘆しました。既に何度も本コラムで話していますが、日本経済には多くのポジティブな名前が付けられました。「奇跡の日本経済」「Japan as No.1」「世界の王者」といった名前が付けられ、日本人はそれなりに喜んでいました。しかし、85年に起こった「プラザ合意」によって急速な「円高基調」が日本経済の行く手を阻みました。それを回避するために80年代の後半から金融当局による「超低金利政策」が採用されると、日本経済の中でバブルが発生し、それの対抗手段としてさまざまな経済政策が遂行されるに至りました。90年代に入ると、日本経済にはかつてのような「輝き」は全く見られなくなりました。それどころか、日本経済は世界から「横目」で見られるようになり、もはや「日本の時代は去った」と思われてしまっています。これほど悲しい現実はありません。

日本経済の回復については、もし現在の景気回復にも名前が付けられるとしたら「アベノミクス景気」と言えるのではないでしょうか。安倍首相が政権に就いた時が2012年12月で、13年春から日本銀行による「大胆な」景気刺激策が講じられるようになりました。「異次元の金融緩和」や「マイナス金利策」の導入が主な政策でした。

しかし、よく見ると7番目の景気はこれまでのところ「1.2%」の成長率しかありません。これは、とても低い数字です。この数字から「景気が上がった」と言えるかどうかは、とても疑問です。これもまた、先程も見たように統計数字を作り直した結果なのです。そうした中でもマスコミは、これは戦後最長の景気であると、もてはやし立てています。ですが、マスコミの半分以上は「懐疑的」な論調であるところが興味深い事実である点です。更に、真の数字は1%を下回っているのではないのかとも言われています。

先にアベノミクス景気と言いましたが、日本のマスコミはこの景気回復に名前が付けられるような状態ではないと言い切っています。経済分析の仕事をしている人たちも、果たしてこの景気を「戦後最長」の景気だと言明できるのかどうかと訝(いぶか)る人も多くいます。一般に「好景気」とは、やはり年率にして3~4%以上のGDP伸び率がないとそうであるとは言えないのではないでしょうか。

先程の日本銀行の景気刺激政策もどれも成功していないのです。その都度、日本銀行の黒田総裁は、景気が回復しない原因をさまざまな理由を挙げて説明しています。例えば「円高=ドル安」が1つの大きな要因だとしています。円高になると、日本からの輸出の増大が見込まれないため、輸出主導経済である日本経済にとって、円高は大きなマイナス要因となるのです。確かに以下に挙げる「国民所得方程式」を見ると、それがよく分かります。

Y=(C+I+G)+(X-M)
GDP= 国内需要 +外国需要

上記の計算式で、YはGDPを指し、Cは「消費水準」、Iは「民間投資」、そしてGは「政府支出」を意味しています。更にXは「輸出」、Mとは「輸入」を意味しています。つまり、一国の経済の大きさは、「内需」と「外需」の両面から成り立っているのです。この式はとても大切な計算式であり、経済学を学ぶ上でまず頭にたたき込まなければならない知識です。これは「国民所得決定方程式」と言われ、経済学を学ぶ際のまさに「一丁目一番地」なのです。日本の経済規模は、国内需要と外国需要の2部門から成り立っていることを示しています。そして、今、日本という国が限りない発展を遂げていくためには、国内需要と外国需要の2部門が大切であることを意味しています。

さて、国内需要を増大させる要因は何かと言えば、人びとの消費水準を一層高めることです。それに伴って人びとの「所得水準」をどんどん高める必要があります。つまり、賃金を上昇させるのです。しかし、日本において賃金は恐らく10年以上上昇していません。それでは、人は買い物にも行けず、消費水準がほとんど上昇しません。ケインズ理論の「有効需要の原理」で言われているように、人びとの需要がなければ経済は上昇しないのです。

民間投資はどうでしょうか。一般企業がどんどん投資をするための条件として「投資機会」の増大、つまり利益率の上昇が挙げられます。しかし、現在の日本経済において「高度な利益率」は期待できません。そのため民間投資も増大することはあり得ません。そこで「政府投資」の増大が挙げられます。政府投資の増大とは、政府がせっせと予算を使って公共事業を行うことです。赤字財政を組み、それを財源として橋や鉄道、トンネルなどをどんどん造って公共事業を拡大させることです。それでは日本は限りなき「赤字財政」を組むことになります。そうした不正常な財政政策が、果たしてどこまで許されるかは疑問です。

そうなると最後は、輸出の増大が日本経済の活性化の鍵を握ることになります。それを握るのは、①相手の経済状態、②為替相場の状態、の主として2つの条件です。つまり、日本経済の再生は言わば「他力本願」ということになります。これでは、とても日本経済に明るい「兆し」が見えているとは言えそうにありません。

おわりに

今回は、いたって悲観的な経済状態について述べてきました。しかし、本コラムを執筆する筆者としては、何とか「明るい経済状態」について記述したいという気持ちは大いに抱いています。ただ残念ながら、日々伝えられる経済情勢は、とても楽観が許されるような状態ではないのです。

さまざまな記事を執筆し社会に貢献する立場の人間にとって最大の責務は、社会の真実を語ることだと思います。そのような観点から、私は本コラムを長期間にわたって執筆しています。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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