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【今さら聞けない経済学】経済の大きさを知る大切さについて

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今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第53回:経済の大きさを知る大切さについて

はじめに:日本の現実

今年の日本の夏は、かなり「にぎやか」でした。それは、参議院議員の選挙があったからです。日本という国は、世界の中でも「民主的な国」で、国の将来の行方を国民の叡智(えいち)を結集して決めるということになっています。つまり、国民1人ひとりが自分で代表を選び、その代表が、人びとに成り代わって国の政治・経済、そして社会を動かす、という体制で成り立っているのです。これが民主主義の基本です。したがって、国民が投じる1票はとても重要な意味を持っています。しかし、現実には日本における投票率はとても低く、「これが果たして民主主義の国の投票行動か」と疑われるほどです。「どうせ私の1票などなきに等しい」と勝手に決め、多くの人が投票所に足を運ばないのです。それも日本の将来を担っていくと思われる若者の投票率が極めて低いです。これほど悲しい現実はありません。以前、日本人の投票率はとても高かったと思います。私は“国民の選挙の投票率が高いとその国の経済成長率も高くなる。つまり投票率とGDPの成長率には「正の相関関係」がある”という考えを持っています。そんな日本の現実を反映してか、日本の経済の状況はとても悲しい状態です。そこで今回は、日本の経済状態について深く考えてみましょう。

日本の経済をどん底へ突き落とした要因

日本の経済の“大きさ”は、世界でアメリカに次いで第2位の地位を戦後長く維持し、世界中から「21世紀は日本の時代だ」と羨望(せんぼう)の目で見られていました。しかし、1973年の春に、世界経済体制が、これまでの「固定相場制」から「変動相場制」に移行するに及んで、一挙に「円高=ドル安」という状態が出現したのです。それまでアメリカを中心に製品を大挙して世界に輸出し、それによって日本の生産額が考えられないほど増大し、日本は先進国の中でも超優秀国としてその名を世界に轟(とどろ)かせてきました。しかし、そんな日本の経済にも影を落とすようになったのです。日本経済を奈落の底へ落とし込めるきっかけを作ったのは、85年の、アメリカのレーガン大統領による「プラザ合意」だと見られています。このプラザ合意とは、アメリカ経済が対内的には赤字財政、対外的には国際収支の赤字、いわゆる「双子の赤字」に苦しんでいた時、レーガン大統領がアメリカ経済を救うために、ドル安を認容してくれ、と世界の主要国に頼んだのです。とりわけ、日本からの輸入に押されていたアメリカの産業を救うために「ドル安=円高」状態を作り出すことに「合意」しました。この会議がニューヨークのプラザ・ホテルで行われたことから、「プラザ合意」と呼ばれるようになったのです。その合意によって日本の円は1ドル=260円から見る見るうちに200円を切り、あっという間に100円をも突破するようになったのです。このレートでは輸出ができるはずもなく、日本経済は見るも哀れな状態に陥ったのです。かつての「日出(い)ずる国」から「影が差す国」へとその姿を変えていきました。そんな姿を1つのグラフで見てみましょう。経済状況と予測の分析に関してとても信頼度の高い日本経済研究センターが興味深い分析結果を発表しました。それによると、これからの日本という国の「かたち」がおぼろげながら見えてくるようです。

下記の「2060年経済予測」の表に示されているように、日本の経済は2000年に入ってほとんど成長していないことが分かります。かつて日本より“遅れていた”中国の成長は10年を境として急激に成長し、日本はどんなにもがいても中国の経済水準に追いつくことはできないという形を示しています。更に、この表は極めて興味深い事実を示しています。それは、日本の経済は、10年ごろをピークとしてこれから未来に向かって成長過程から遠ざかる、と予測されているのです。同じようにかつては世界経済の中心国だったアメリカは、アメリカ国内において、政治的にも経済的にもとても不安定な状態にあるにもかかわらずその成長率を落とすことなく順調に成長していくようです。これはすばらしいことではないでしょうか。更に中国についてその成長過程を見ると、まさに「うなぎのぼり」の状態です。インドについても同じようなことが言えます。以前は、「アジアの中での貧困国」という、ありがたくない代名詞が付けられていたインドの経済については将来燦然(さんぜん)と光輝いているように見受けられます。

さて、その日本の経済の大きさについてですが、それはGDPで示されます。GDPとは、「Gross Domestic Product」の略で、国内総生産と言われます。これは、日本の国内で、日本人によるものであれ、外国人によるものであれ、国籍に関係なく「日本の国内で儲けが出された価値の総計」を意味しています。かつては、GNP(国民総生産)が使われていましたが、30年ほど前からGDPが世界共通で用いられるようになりました。

GDPを増大させる要因

それでは、GDPを少し別の方面から見てみましょう。

GDP=GNP-海外からの所得の受け取り

上の式によってGDPについて考えてみましよう。日本のGDPが大きく伸びないのは、上の式からも分かるように、1980年の後半から90年代に入って、日本の企業は海外へと生産拠点を移していったのです。つまり、日本国内では、「ドーナツ化現象」や「空洞化現象」という状態が見られるようになりました。これまで日本で生産していたものを海外で生産するようになり、日本国内の生産高は増大する道理はなく、日本のGDPは一向に増大しないということになったのです。これが悲しい現実です。

また、日本企業が海外へ進出する要因としては、円高の定着、輸出が伸びない、生産人口の減少、技術変化への対応などが考えられます。

日本人の経済活動に対する「価値観」の変化

かつて「技術大国」と言われた日本は、あらゆる分野での技術水準が世界トップ水準にありました。しかし、日本から、後進国と言われていた中国を始め、世界のたくさんの国からの要望で、「技術移転」という名の下に日本から最新技術が世界に出て行くようになり、それらを基礎として生産された財が日本企業の成長にとって大きな障害となるようになったのです。今では、日本経済にかつてのような「輝き」を見ることもなくなりました。私は経済学を勉強している1人として「下がり行く日本経済の現実」にとても悲しい思いをしています。

GDPを測る物差し

さて、GDPの大きさを測る上で大切なことは何かについて見てみましょう。その上で重要なのは、「付加価値」を知ることです。ある企業が儲け出した生産物の生産総額から、その財を作るのに実際に用いた「原材料、燃料」などの原材料費(中間投入額)を差し引いたものをすべて合計した値がGDPなのです。例えば、生産活動には石油といった燃料、更に労働者に支払う賃金なども大切です。そこである企業の総生産額からこれらの費用を差し引いたもの、つまり、ある企業が新たに儲けを出した値(付加価値)を全部合計した値がGDPということになります。今述べたことを簡単な式で示すと次のようになります。

総生産額-中間投入=GDP

では、パンの生産を例に考えてみましょう。パンを作るには、小麦粉、燃料費、人件費などが必要です。そのようなコストから、パンを実際に生産しても、パンの製造会社の利益は意外と少ないものになります。その「新たに儲けを出した利益」を全部合計したものがGDPです。もし、石油や燃料など輸入コストが掛かるものを多く使うようだと、どんなに生産額が増大しても外国へ支払う額も多くなり、日本で純粋に儲けた額は少なくなってしまいます。例えば、日本人が好きな「冷奴」は、大豆のほとんどをアメリカから輸入していますので、豆腐の生産者の「付加価値」はほんのわずかしかないということになります。

日本は、元々資源の少ない国でした。そこで、原材料を外国から輸入して、日本の高い技術力で、高品質な財を生産して付加価値を高め、そしてそれらを外国へ輸出して生産額を増大させるという生産方式で経済が成り立っていたのです。しかし、その生産方式は、今では大きな変化が見られるようになったと言わなければいけなくなりました。

今、日本の経済の再生に必要なことは、日本人の頭に溜め込んだ叡智と体ににじませた技術力を遺憾なく発揮して、世界に「輝くような財」を提供していくことだと言えるのではないでしょうか。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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