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【report】ラグビー「日本代表 vs ワラビーズ」 ポスト・コロナ、大分で最初のビッグ・ゲーム

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【report】ラグビー「日本代表 vs ワラビーズ」
ポスト・コロナ、大分で最初のビッグ・ゲーム

ラグビー「日本代表 vs ワラビーズ」

 10月23日、昭和電工ドーム大分で、日本代表対ワラビーズのゲームが行われた。テストマッチが国内で行われるのは2年ぶりのことだ。

 新型コロナウイルスの影響で日本国内でも多くのイベントが中止となった。行われたイベントも規模の縮小や、厳しい制限のある中で行われてきた。ラグビーも例外ではなく、スタジアムに足を運び、自分自身の目でゲームを観るという、当たり前だったことが当たり前ではなくなった。そういった経験をした私たちにとって、このゲームは新しい環境の中で行われる最初のビッグゲームとなった。

思いの外大きかった経済効果

 驚いたことに、この日の朝の東京・羽田発大分行きは、搭乗客のほとんどがラグビー会場へ向かう人々だった。赤と白の日本代表のジャージを身に着けた人々を、スタジアムの外でこれほど多く見たことはない。緊急事態宣言が解除され、県をまたぐ移動が自由になったとはいえ、ここまで人が動くとは予想もしなかった。

 コロナ禍において、さまざまな産業が大きな打撃を受けてきた。試合の行われた大分県には別府温泉や湯布院など多くの観光地が存在し、観光は主たる産業の1つであり、大きな影響を受けてきた。その状況下で行われた1つの試合に、国内各地からラグビーファンが訪れたことによってプラスの経済効果があったことは否めない。実際、タクシーの運転手の方も「今日は久しぶりに(お客さんが)多いよ」と笑顔を見せていたし、「3週間くらい前に(予約を)取ろうとしたら、もう大分市内のホテルは一杯でダメだった」という話も耳にした。ラグビー効果は思いの外、大きかったようだ。

 ただ、海外からは、入国時の2週間の隔離、帰国での隔離という大きな壁があるため、ワラビーズの応援は、国内在住の者に限られてしまい、大きなスタジアムのなかでもゴールドのジャージを見掛けることはこれまでで一番少なかった。取材陣に関しても同様、ほぼ国内のリーグ戦の時に見掛ける顔ばかりだった。

ラグビー・ワールドカップを思い返す

 スタジアム周辺では、冠スポンサーのイベントが行われ、ラグビーグッズや飲食物の販売をする店が並び、多くのファンが開場前から楽しんでいた。青い空によく似合う笑顔があちこちであふれていた。

 19年のラグビーワールドカップの会場でもあった昭和電工ドーム大分だが、「大分メモリアルギャラリー」として、大分で行われた試合で使用されたジャージやボールが常設展示されている。もちろんワラビーズのジャージも展示されていた。ワラビーズの結果はさておき、ワールドカップを思い返すには良い場所だった。

ラグビー「日本代表 vs ワラビーズ」

これまでにないフレンドリーな雰囲気

 試合はワラビーズがトム・ライト選手のトライで先制した。しかし14分、久々にスターティングメンバーに戻ってきたリース・ホッジ選手が負傷。胸筋の負傷との情報だが、再発の多い部位であり、過去には大相撲の元横綱・稀勢の里関がそのケガが原因で引退している。ホッジ選手のケガの状況が心配だ。ユーティリティー・プレーヤーだけにチームにとっても影響は大きい。さらに、ホッジ選手と言えば、ワールドカップでのリース・ホッジ事件もあり、日本との相性がよいとはいえないようだ。怪我が深刻でないことと日本を嫌いにならないでほしいと願うばかりだ。

 交代出場のジョーダン・ペタイア選手が22分にトライを決め、難しい角度だったが、クウェイド・クーパー選手がキックを決めた。クーパー選手はワラビーズ復帰後、大活躍している。元々キックの精度が高い選手であるが、パス出しにしてもワンテンポもしくは、1/2テンポくらい微妙にずらしたり、相手の裏をかいたプレーなど、円熟味を増したように感じた。

 48分、レメキ・ロマノ・ラヴァ選手がシンビンで10分間の退出となったが、その間、ワラビーズはロブ・レオタ選手の1トライのみ。そして55分には、中村亮土選手にインターセプトを許してしまった。絵にかいたような見事なインターセプトだった。

 74分にはハーフタイム以降、キックの精度が落ちてきたクーパー選手が交代。彼がベンチに戻ると先に戻っていた選手が立ち上がって握手で労っていた。代わって入ったのは、ジェームズ・オコナー選手。久しぶりの試合出場だ。もっと長時間、彼のプレーが見たかったが、試合後の会見で、デイブ・レニーHCは、「まだスターティングメンバーには早い。これから、もう少し長い時間使っていく予定である」と語っていた。

 結果は23対32でワラビーズの勝利。日本戦6連勝となった。

 試合後は、これまでにないくらいフレンドリーな雰囲気だった。ほとんどの選手がジャージ交換をし、笑顔で歓談していた。ワラビーズだが所属は日本のチームという選手もいるためか、選手同士も結びつきが強くなっているように見えた。

 新チームでの初テストマッチの日本に対し、スーパーラグビーからブレディスローカップ、ラグビーチャンピオンシップで厳しい試合を戦ってきたワラビーズだが「ラグビーチャンピオンシップから5連勝。これから(ヨーロッパツアー)の弾みとなる。いいモチベーションとなる。ホームを離れて初戦を勝てたことは良いことだと思う。(センターでスタメン出場した)ハンター・パイサミのディフェンスとラン強かった」とレニーHCは評価していた。


 一方、日本のジェイミー・ジョセフHCは「7月からチームを組んで最初のゲーム。モチベーションを高く保てた。17回のペナルティがあった。規律を徹底しなければならない。しかし改善点も見えた。もっと練習していく中で成長していけると感じている。(SOにスタメン起用した)松田力也のパフォーマンスが良かった」と話した。

ラグビー「日本代表 vs ワラビーズ」

3つのポイント

この試合で別の意味で注目していたのが以下だ。

  1. オーストラリア出身の選手たち
  2. テイト・マクダーモット選手と斎藤直人選手の次世代スクラムハーフ対決
  3. マット・フィリップ選手、ロブ・ヴァレティニ選手、アンドリュー・ケラウェイ選手、アイザック・ロッダ選手のプレー

 2019年のワールドカップで大活躍だったジェームス・ムーア選手1人だったオーストラリア出身選手。今回新たにベン・ガンター選手、ジャック・コーネルセン選手、ディラン・ライリー選手が代表入りした。この試合で4名すべてが日本のキャップホルダーとなった。ライリー選手はまだ24歳。どうしてワラビーズの選考に掛からなかったのだろう。現在のワラビーズの状況からすると惜しい人材の流出ではないだろうか。
 現在は2番手のスクラムハーフという存在だが、マクダーモット選手は23歳、 斎藤選手は24歳と同世代。どちらも成長著しい。早ければ次回、さらにその次のワールドカップでは9番を背負う可能性は十分ある。このゲームでは奇しくも同じ63分に交代出場した。経験値ではマクダーモット選手が上回っているが、次世代のスクラムハーフとしてこれからの活躍が楽しみな2人である。出場時間が短く、2人の対決が少なかったのが残念だった。

 ロックのマット・フィリップ選手は地味だが堅実なプレーをする。ラインアウトでもスクラムでも頼りになる選手。体幹の強さと長い手足は大きな武器だ。まだまだ伸びしろは大きいと感じる選手の一人だ。

 ロブ・ヴァレティニ選手はこのところNo.8での出場が多い。個性的なヘアスタイルが目を惹く。しかし、目を惹くのはそれだけではない。突破力の強さ、体は大きいが瞬発力もあり、攻守にわたって強さを発揮できる魅力的な選手だ。スーパーラグビーから比べても大きく成長した。今後の活躍がとても楽しみである。

 アンドリュー・ケラウェイ選手は今年のラグビーチャンピオンシップでトライ王に輝いた得点力のあるウイングだ。また攻撃力だけでなく、守備力も兼ね備えており、大きな相手にも果敢に飛びつき見事なタックルを決める。個人的には19年のワールドカップメンバーに選出されてもおかしくなかったと思っている。映画俳優のジェームス・ディーンを思わせるようなルックスも◎。活躍が楽しみな選手の1人だ。

 アイザック・ロッダ選手にはブレイクダウンでの長い手足を存分に使い、がっしりとボールをキープしてくれるプレーに魅力を感じる。もちろん高さを生かしたラインアウトも彼の強みである。彼が戻ってからラインアウトの安定感が増したように感じる。

 今回のゲームでは、経験値の差・ゲーム感ではワラビーズが勝っていた。だが、その差はこれから埋まっていくだろう。また、ワラビーズではトム・バンクス、日本ではリーチ・マイケルのようにキーとなる選手のケガというのは避けて通れないだろう。彼らが戦線離脱した際にその穴をどうやって埋めるのか。そういったマネジメント的な面も含めてヨーロッパツアー見守っていきたい。

(山田美千子)

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